No.334 読者からのご意見と私のコメント

今回は、読者からいただいたご意見と、それに対する私のコメントをお送りいたします。

読者からのご意見と私のコメント

読者: ほとんどの国が失政、汚職、政治的膠着状態にあり、日本だけが例外でも最悪でもないと私も思う。しかし、日本の政治制度の無力ぶりはG7諸国の中で群を抜いている。例えば、日本は、通信、金融、建設、航空、農業など様々な分野の規制緩和について過去14年間にわたり議論してきたにもかかわらず、実質的な変化が見られたのはコメを除く食料分野だけである。通信費、株や銀行の手数料は他のG7諸国に比べると割高であり、消費者の可処分所得に占める割合は他の国に比べてはるかに高い。住宅や土地改革に関する政策についても過去10年間にわたり議論されてはきたものの、実質的な改善は見られていない。他の主要経済大国には、ここまでの政治的無力ぶりは存在しない。

コメント:  ここで指摘されていることは読者が「良いこと」と捉えているが、実際には「悪いこと」の導入を避けて、あるいは少なくとも遅らせるように、日本の政治制度が機能しているということであり、日本の政治的無力ぶりどころか逆に、その効果と考えられる。例えば、実質的な変化として読者が挙げた食料分野は、日本にとって最大の悲劇の1つであった。米国によって樹立、維持されてきた傀儡政権である自民党は、朝鮮戦争以降日本の食料自給率を先進国中最低レベルの30%台にまで押し下げた。これは米国農産物の最大の輸入国となって米国を喜ばせようとしてきた結果であり、今や日本は、経済封鎖に対して北朝鮮と同じくらい無防備な状態にある。

日本の通信費や株取引その他の金融機関の手数料は、確かに他の国より高いかもしれないが、日本の優れた点はそうした高コストを補ってもなお余りあるほどだと私は考える。日本人の平均寿命は世界一長く、殺人や強姦などの凶悪犯罪、貧困、ホームレス、麻薬中毒、離婚、乳幼児の死亡、心臓発作、心臓病、囚人など、どれをとっても他の先進国に比べて少ない。一方、日本批判を好んで行う米国はこれらすべての点において、先進国中最悪の水準にある。完璧な国などない。しかし米国の短所が大半の米国民に及ぼすほど、日本の短所は日本国民に悪影響を及ぼしてはいないと私は思う。

読者: 日本の貯蓄率は比類のないほど高く、世界中から賞賛を受けている。私個人もこれは良いことだと考えるが、しかしその貯蓄をもっと有効には利用できないものだろうか。例えば、ベンチャー・キャピタルやミューチュアル・ファンドなど、より高い収益が得られる資産に投資されてしかるべきである。しかし、その金融リスク状況を決定できるのは日本人だけである。最後に、米国の貯蓄率はいわれているほど、低くはない。というのも、ほとんどの労働者が雇用主の年金制度に加入し、個人退職勘定や証券を保有しているが、それらは従来の貯蓄率に含まれていないからである。

コメント:  私は日本人の貯蓄をすべて消え失せてしまう可能性のある投機に投じるのではなく、個人では買うことができない社会消費に投じるべきであると考えている(詳しくは、「日本の不況に対する解決策の提案(1)~(3)」(No. 263~265)を参照)。また、米国の貯蓄率や資産に関する議論については、「富の移動(1)~(4)」(No. 311~314)の統計数値で示したように、読者のこの主張は事実ではない。

読者: 地価の下落が長期的には日本を助けるという意見には私も賛成であるが、土地改革も同時に行うべきである。ただし、これは政治問題であり、実行するのは難しい。日本に自費留学した時の私の体験は悪夢のようだった。誰も私に部屋を貸そうとはせず、また家賃6ヵ月分にも相当する礼金、敷金を要求された。就職した後に大阪でも部屋探しをしたが、その時は礼金、敷金合わせて8ヵ月であった。最終的には外人にも部屋を貸してやろうという(あるいは日本人の借り手がいなかったのか)奇特な大家が現れたものの、通常より高い家賃を取られていたはずなので、その分大家は儲けていたに違いない。日本にもっと土地が多く、規制や建設業界の談合が少なかったら、大家がこんなに強い立場に立つことはなかったであろう。

コメント:  土地改革は日本だけではなく、これまでにも至るところで政治問題化している。神はすべての人のためにこの世界を創造したということをあなたが信じるならば、土地からの収入は最も不公平な収入だということを理解できるはずである。神がすべての時代の人類のために創った土地の永久所有権の決定権をある特定の一世代が持って良いのだろうか。さらに、土地から得る収入は他の収入に寄生する度合いが最も大きい。なぜならば土地の所有者はまったく何もせずに土地から所得を得ることができる。土地を造ったのは所有者ではなく神である。またその土地の価値を吊り上げる道路や駅、百貨店、その他の建造物を作ったのも土地の所有者ではなく社会である。それなのに、土地が生み出す利益は、その所有者一人のものとなる。

土地改革がどこでも、またいつの時代にも政治問題になるのは、土地を支配する寄生虫が、富と収入を使って政府を買収し、自分達が手にしている金鉱を手放さずに済むよう画策するからである。さらに、日本の人口密度が米国の14倍であることも、土地の影響力を高める一因になっている。

読者: 日本的経営については、賛否両方の意見を持っている。日本企業に見られる仲間意識、人への投資、密接なコミュニケーションなどは好ましいと思う。しかし、労働者の流動性や経営者の自己責任、株主に対する説明義務、意思決定プロセスの長さ、戦略的な注力に対しては不満であり、改善されるべきだと考える。日本に提携先を持つサービス・プロバイダーとして、私は日本企業への売込みの際にその意思決定の遅さや鈍さを感じ、また日本の管理者が正味現在価値や経済生産性を示すその他の指標をまったく利用していないことを知っている。私は日本企業の商習慣には大改革が必要だと確信している。米国が1980年代後半に品質管理で辿ったのと同じか、それ以上の過激な改革でなくてはならない。

コメント:  私が認めている日本の経営哲学は、松下幸之助の言葉に最もよく表れている。
1) 国家の目標は国民の幸せである。
2) 企業の役割は、国民の幸福に寄与する製品やサービス、および雇用を提供することである。
3) 企業が稼いで良い利益は、日本の税法にしたがって、国民の幸福に寄与する製品やサービス、雇用を提供し続けるために必要な研究開発費および設備投資分だけである。
4) それ以上のいかなる利益を追求することも高利貸と等しく、聖書の時代から、プラトン、アリストテレス以降の西洋の古典、および孔子以降の東洋の古典の中では、厳しく禁じられていた。企業の存続に必要な研究開発費や設備投資以上の利益を求めるよりも、企業はその分消費者のために製品価格を引き下げたり、従業員のために給与や手当てを引き上げるべきである。

このような考え方をする日本人にとっては、労働者の流動性とは、社員が望む限り終身雇用を保証すると同時に、好機を求めて辞めていく社員にはその意志を尊重するということを意味する。日本人の管理者も、他の国の管理者と同様、説明義務を負っている。違いは、日本の管理者の場合、説明義務の対象が、自分が率いる部下やサービスを提供する顧客であって、自社への投資で不労所得を稼ごうとする株主ではないという点にある。また、日本の意思決定プロセスは他の民主主義社会と同様、独裁主義の社会に比べれば時間がかかる。他の諸国と比べた意思決定プロセスの長さは、独裁主義ではなく民主主義をどれだけ採用しているかの表れである。

読者: あなたは日本の銀行や保険会社を国有化すべきだと考えているようだが、私の考えでは、これこそ日本の悪い点であり、むしろ規制緩和が不足していると考える。

コメント:  日本はすでに銀行を国有化したも同然である。日本は、1999年以降、70兆円もの公的資金を注ぎ込むことにより、銀行の不良債権やその責任を国民すべてに背負わせた。ただし、銀行の利益や権限は国民のものではない。これこそ、英米が信奉する自由企業制度であり、市場中心型の資本主義であると思われる。政府の規制権限を奪う一方で、失敗を犯した企業を救済する責務を政府に課す。つまり、利益の私有化と負債の国有化が同時進行しているということだ。クライスラー、ロッキード、米国の貯蓄貸付組合(S&L)、さらに日本の銀行と、政府の救済を受けた企業の例は枚挙に遑がない。

読者: 輸入割当制などの貿易障壁には賛成できない。ただし私も、完全な自由貿易があると信じるほど、愚かではない。実際には、政府の政策、経済的、社会的、文化的差異が貿易の流れに影響を与える。しかし、「関税や輸入割当を米国も増やせば良いではないか」という解決策には反対である。関税や輸入割当などによる貿易戦争は真の戦争になり得るからである。それよりも、生活水準を世界的に引き上げることにより、開発途上国に比べて経済的な選択肢の豊富な先進国で、関税を引き下げ、輸入割当を撤廃することを解決策とすべきである。日本人が製品やサービスに法外な値段を請求されても不平をもらさないのであればそれでいい。ただし、その陰で、貧しい農業国であり、労働集約型経済である東南アジア諸国が犠牲になっている。経済力から見て日本の消費が低いことが、米国からの輸出以上に近隣のアジア諸国を苦しめているのである。

コメント:  私がいいたかったのは、米国政府は米国人によって選挙で選ばれるのだから、米国のことだけ考えるべきだということである。日本との貿易について介入するのであれば、米国政府の権限の範疇に限定すべきであって、日本の内政に干渉すべきではない。米国政府の正当な権限は米国に輸入される製品に関する関税や輸入割当であって、日本に規制緩和させたり、さもなくば日本を統治することなど、まったく米国政府の権限外である。米国が世界を支配したいのであれば、米国の選挙権を世界の人々に開放すべきである。ただしその前に、そうした統治を世界が望むかどうかの許可を得る必要があるが。

読者: 規制緩和についての氏の意見は、完全に間違っている。規制緩和があったから米国経済は活力を維持し得たのであって、雇用や事業を創出するとともに、富を生み出すことができた。日本の場合は、規制緩和の不足が、雇用や新規事業の創出、経済成長、富の創出を阻んでいるのである。

コメント:  規制緩和がどのような状況をもたらしたか、先に紹介した「富の移動(1)~(4)」(No. 311~314)をよく読んでいただきたい。なぜ私が規制緩和に反対しているかの理由がおわかりいただけるはずである。