No.356 ルーズベルトと真珠湾攻撃に関する真実

今回は、昨年出版されたロバート・B・スティネット著、『Day of Deceit』(フリープレス刊)の書評をお送りします。本書は真珠湾攻撃について、当時の米大統領フランクリン・D・ルーズベルトがそれを事前に知っていただけでなく、最初に日本が米国を攻撃するよう仕向けたのは大統領自身とその側近達であったと、機密扱いを解かれた国家安全保障公文書からの引用やその他の証拠をもとに立証しています。以下に本書の概要を紹介した書評をお送りしますので、是非お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。

ルーズベルトと真珠湾攻撃に関する真実

 

 ルーズベルト元大統領が、1941年12月7日の真珠湾攻撃を事前に知っていたかどうかについては、歴史家の間で長い間議論されてきた。ロバート・B・スティネットは「情報の自由法」の下で機密扱いを解かれた公文書を17年間にわたり丹念に調べ上げ、その著書『Day of Deceit』の中で、ルーズベルトとその最高顧問たちが真珠湾攻撃の前に日本の戦艦がハワイに向かっていると知っていたことを示す、確固たる証拠を提示している。そしてスティネットは、本書の核心として、ルーズベルトは当時第二次世界大戦への参戦に否定的だった米国世論を戦争支持に変えるために日本を挑発する政策をとったと主張している。

 米国がまだ大恐慌の後遺症に苦しんでいる頃、ルーズベルトはすでに、ヨーロッパでの戦争に米国が最終的には巻き込まれると予見していた。そしてイギリスが日独伊枢軸国に敗れることになれば、世界が危険な状況に直面すると恐れ、参戦はせずとも可能な限りイギリスを助けていた。イギリスに必要物資を提供するため武器貸与法を成立させ、カリブ海の海軍基地と引き換えに50艘の駆逐艦をイギリスに提供し、また米国の「中立」という立場の解釈を最大限に拡大して大西洋の巡視も開始した。

 米国の世論調査では、88%の国民が海外派兵に反対しており、ルーズベルトはこれ以上戦争に肩入れすれば初の3期目の再選が危ぶまれることを承知していた。さらにルーズベルトは米軍を海外派兵しないことを公約にしていたのである。

 そこへ願ってもないチャンスが訪れた。1940年10月7日、アーサー・H・マクカラム少佐が海軍諜報部の長官に、米国の参戦を容易にかつ正当化するための8つの行動からなる計画を送ったのである。その計画とは日本との戦争開始を最優先にしたものであり、米国を軍事攻撃せざるを得ない状況に日本政府を追い込むための一連の方策が盛り込まれたものだった。そして、日本領海内への米国の戦艦配備や、日本経済の圧迫を狙った完全な経済封鎖を含むこのマクカラム少佐の8つの提案を、ルーズベルト大統領は即座に実行に移し始めたのであった。

 ルーズベルトはどうしても日本に奇襲攻撃をさせる必要があった。そうなれば、米国は自己防衛のために行動しているのであり、海外派兵は行っていないと有権者に説明できる。日本の奇襲攻撃により米国民が一致団結し、孤立主義は終わるとルーズベルトは見込んだのであった。

 著者のスティネットは、ジョージ・ブッシュ大尉の下で第二次世界大戦に参戦し受勲した海軍退役軍人である。彼は、様々な政府および軍の覚書や記録から、説得力のある証拠文献を豊富に引用し、自らの主張を実証した。日本艦隊の無線は決して傍受されなかったという神話を覆し、12月7日の10日前に、米国の暗号解読者が日本海軍の無線をいくつか傍受し、日本が真珠湾を攻撃することを米側は事前に掴んでいたことを明らかにしている。ハワイの高級将校たち(太平洋艦隊司令官のハズバンド・キンメル海軍大将とウォルター・ショート陸軍中将)は、政府の指令に関する連絡網から外され、さらに日本の真珠湾攻撃を事前に察知できなかった責任を被せられ、解任されている(米上院は1999年5月、彼らの容疑を晴らした)。実際には、キンメル海軍大将は艦隊を北太平洋に移動させ、日本の部隊集結地を積極的に探していたが、海軍本部はキンメルに戻ってくるように命令していた。

 さらにスティネットは、真珠湾攻撃が終わるやいなや、どのように証拠隠滅が始められたかについても触れ、海軍将官がすべての覚書や書類を破棄するよう命令したとし、さらに本書の最後では、今も、ルーズベルト元大統領がこの陰謀に荷担していなかったことを証明しようとするいい逃れやごまかし、偽証が行われていると記している。

 スティネットは、ルーズベルトが日本を騙すためにとった策略は憎むべき行動だと信じてはいるものの、「ルーズベルト大統領が直面した、苦痛を伴うジレンマは理解できる。彼は、孤立主義をとっていた米国に自由のための戦いへの参加を納得させるため、間接的な方法を見つけなければならなかったのである」と語っている。ただし、これは単に理解できるということに過ぎず、決して容認しているわけではない。

 もしスティネットの主張が正しければ、ルーズベルトは真珠湾の犠牲となった米国人の英霊に対して多くの責任を負っている。スティネットは本書において、米海軍が日本の真珠湾攻撃を少なくとも予期はしていたと、ほぼ確実に立証している。ルーズベルト大統領自身がその攻撃を意図的に挑発したという見方は情況証拠でしかないが、今後米国内においてかなりの論議を呼び起こす説得力を持っているといえるだろう。