No.364 過熱する経済、増えるホームレス

今回は、米国経済が好景気の新記録を更新している一方で、米国の多くの都市でホームレスが増加傾向にあることを示す記事をお送りします。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。

過熱する経済、増えるホームレス

クリスチャン・サイエンス・モニター (2000/2/14)
アレキサンドラ・マークス

 2000年2月に米国経済が史上最長の好景気を記録したにもかかわらず、米国東部が身を切る寒さと雪に覆われる中でホームレスが増加傾向にある。ニューヨーク、アトランタ、サンフランシスコなどの主要都市ではどこでも、ホームレス収容施設(シェルター)の利用者の割合が、昨年10%も増加したという。最も増えたのは子供のいる家族で、その多くは最近福祉手当の支給が打ち切られたり、減額された家庭である。

 そして今年寒さが例年より厳しいことも、シェルターの利用増に拍車をかけた。「ホームレスのためのメトロ・アトランタ対策委員会」は、ホームレス用シェルターが満員のため、さらに500人の独身男性を収容する仮施設を開いた。同委員会の事務所では、女性や子供が50人以上、寝場所が見つかるまでの間、椅子の上で休んだり、床に寝転んだりしている。同委員会の理事、アニタ・ビーティは、「このひどい天候のために、普段ならシェルターを利用しない人々までここに来ている」という。

 昨年行われたいくつかの調査も、シェルターを必要とする人の数が増えていることを示している。2月1日に都市研究所は、ホームレスの増加が明らかに長期化傾向にあることを示す国勢データの分析結果を発表した。政府推計で、1987年の一時期にシェルターを利用した人の数は50万~60万人であったが、経済が好景気に入った1996年にその数字は84万2,000人にも増加している。「米国の貧困者の10%に近い人々が、この1年間にホームレスを経験したことになる。景気が良くてもホームレスを生み出す条件はなくなっていない」と都市研究所のマーサ・バートはいう。同研究所の分析はこの種の分析の中でもっとも総合的なものとされている。しかし、調査方法が全国で異なると同時に、多くのホームレスが絶対に必要な時以外はシェルターを利用しないため総数を割り出すのが困難なので、統計数字は必ずしも信頼できないと指摘する評論家もいる。

 しかし、専門家は、以下のような要因により、ホームレスが増加傾向にあると見る。

1) 好景気によって住宅価格が上昇する一方で、貧しい人々の賃金は停滞、あるいは減少している。同時に、低価格住宅の戸数は1990年から19%減少している。
2) 過去10年間でシェルターの収容人数が増加したため、より多くのホームレスを数えることが可能になった。
3) 福祉制度改革の影響

 これらの要素が組み合わさった結果、ホームレスの顔ぶれが変わったものと専門家は見ている。1999年12月に発表された住宅都市開発省の分析では、ホームレスの34%は子供のいる家族であった。そして44%は少なくともパートタイムの職を持っている。フレッドもその一人だ。バイク便の配達人として最低賃金を得ており、3~4ヵ月前に家賃を滞納して以来ホームレスになったという。気温が零下になった2月初めの夜、身を切るような寒風の中、ニューヨーク港湾局の外で無料のスープをすすっていた。「問題はこのあたりの家賃が高すぎること。簡易宿泊所が2つほどあるが、そこに落ち着くことはできない」とフレッドはいう。専門家は、フレッドのような人々が安いアパートを見つけられる可能性は、ほんの数年前に比べてもさらに低くなっているという。「新しい公営住宅法では新規の補助金のほとんどが非ホームレス向けとされ、それによってホームレスを対象とした住宅補助が削減された」とペンシルバニア大学、社会福祉政策学部教授のデニス・カルヘインはいう。

 調査は働く貧しい人々の中にシェルターの利用者が増加していることを示している。550世帯以上を収容するニューヨーク市のシェルター「ホームレスの家」では、利用した家族の50%以上が1年前には貧しくても職を持ち、公的援助を一度も受けたことのない人々であった。「こうした家庭は共働きである。医療保険に入っていないため、家族が病気になると医療費を払わなければならず、するとたちまち家賃が払えなくなり、ホームレスになるのだ」と「ホームレスの家」のラルフ・ナナズはいう。

 アトランタのホームレス用緊急連絡先に、泊まる場所を求めて電話をかけてくる人々の中で、職のある人の割合は10年前には17%であった。当時でさえ担当者は、人はまず職を失い、それからホームレスになるものと思っていたため、その事実に大変驚かされたという。それが現在では緊急電話への連絡者のうち、37~40%のホームレスには就労所得がある。「最低賃金労働者にとって、シェルターが手近な住宅になっているようだ」という。

 デレナ・プライスのケースには福祉改革も影響している。若いシングルマザーの彼女は、1週間前に2人目を出産した。ニューヨーク福祉事務所が事務処理であふれ混乱した結果、プライスは緊急住宅手当を受け取ることができなくなったという。彼女と2人の子供は、寝室が1つしかないアパートに母親とその他3人の人々と住んでいるが、そこにはあまり長くいられないという。「仕事を見つけ、自分と子供たちを養うために、どこかよそに住む場所を見つけなければならない」と彼女はいう。

 「貧しい子供のための研究所」が昨年全米のシェルターに対して行った調査では、福祉手当を受けている家庭の37%は、手当てを打ち切られたか減額されたという。それがホームレスになった直接の原因だと答えた家庭は20%であった。「福祉手当の打ち切りや減額とホームレスの間に直接的な関係があると見ている。確かに、福祉手当を受けている人の30~40%はそこから脱して職に就いた。しかし、下位25%は貧困に深く落ち込み、多くは文字どおりのホームレスになっている」とニューヨークの「ホームレスのための連合」の理事、マリー・ブロスナンはいう。