No.422 CIA長官にあきれた選択

今回はOur World No.415「チェイニーの天下り」に引き続き、米国の天下り(回転ドア)に関する記事をお送りします。建設/エンジニアリング会社、ベクテル社の創始者であるジョン・アレックス・マコーンがCIA長官に任命されたことに関する記事です。その後、ベクテル社は米国の軍産複合体の中核的役割を果たすようになり、同社はレーガン政権時代のシュルツ国務長官やワインバーガー国防長官など多数の役人を輩出しています。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。

CIA長官にあきれた選択

『I F Stone’s Weekly』 1961年10月9日
I・F・ストーン

 CIAは古風で伝統ある裕福なビジネスマンの視点から運営されている諜報機関であり、その職員は上から下まで、ウォール街出身者、元アイビーリーグの芸術愛好家や退役米軍大佐、学者などで構成され、狂信的な反共主義であることが忠誠心の証となる。キューバでの大失敗は、一般人の考えをこのような組織に託すことはできないという教訓になったはずだが、ケネディ大統領は、これをまったく学んでいないようである。キューバ侵攻に失敗して辞任したアレン・W・ダレス(1953~61年)に代わってケネディ大統領はジョン・アレックス・マコーン(1961~65年)をCIA長官に任命した。ダレスよりも教養や知識面で劣り、今、世界において大きな原動力となっている怒りや野望をまったく理解しない無能な人物を選んだのである。

 マコーンの資金的および政治的な成功は、つねに戦争や軍備増強に関連している。1937年、マコーンは、建設およびエンジニアリング会社であるベクテル・マコーン・パーソンズ社の創設を手伝った。1941年1月にはカリフォルニア・シップビルディング社を創設し、社長に就任、ベクテル社にその経営権を与えた。戦後、会計検査院は、下院商船委員会による調査に対し、ベクテル社はカリフォルニア・シップビルディング社への10万ドルの投資で440万ドルの利益を上げたと報告している。また数ヵ月後には、カリフォルニア・シップビルディング社が政府から建設費2,500万ドルの造船所(1,400万ドル相当の余剰資材付き)を引き継ぐにあたり、250万ドルの支払いを政府から受けていたことを商船委員会が明らかにしている。

 マコーンの関心は造船業だけに限定されなかった。ベクテル・マコーン・パーソンズ社は、戦時中は空軍のためにアラバマ州バーミンガムに大規模な施設を建設し、またアメリカ原子力委員会の主要建設請負会社になった。加えてマコーンは、ユニオン・カーバイドおよびダウケミカルなど、原子力委員会の主要請負業者に対し輸送ビジネスを提供する民間の海運会社も設立した。これらの企業はすべて防衛予算に対して共通の利害を持っていた。マコーンが最初に政界に進出したのは1948年で、トルーマン政権下の航空政策委員会のメンバーになり、永遠に軍拡を続けるべきだと唱えた。同委員会が作成した報告書は航空産業のロビイ団体にとって権威ある書物となった。マコーンの意見に賛同した心配症の国防長官、ジェームズ・フォレスタルは、マコーンを副長官に任命した。1950~51年、マコーンは空軍次官も務めている。

 政権が共和党に移ると、マコーンはカリフォルニアに移って共和党に鞍替えした。カリフォルニアにおける彼の主な仲間は、政治家も宗教家も右派の人々だった。まるで台湾の上院議員のようだといわれるノーランド元上院議員の選挙資金集めを担当し、米国聖職団の自由主義者とはとても思えないロサンゼルスのマッキンタイヤ枢機卿とも親しかった。1958年にストラウス海軍将官は、原子力委員会委員長である自分の後任にマコーンを任命している。両者の共通点は、政府権力に対する敵愾心および核実験禁止に反対の立場にあったことだ。マコーン任命の公聴会では、カリフォルニア工科大学の理事をしていたマコーンが、同校の教授陣が水爆実験禁止を求めるアドレイ・スティーブンソンに賛意を表明したことに対し1956年に送った怒りの手紙が紹介された。この抗議文の中で、「水爆の父」と呼ばれる米国の核物理学者エドワード・テラーの友人であり称賛者でもあるマコーンは、水爆実験による放射能降下物が生命を危険にさらすという強迫観念を無知な大衆に植え付けるのは、ソビエトのプロパガンダと同じだとして、10人の教授たちを非難している。

 米国の諜報機関の長になるということは、戦争と平和に関わる決定を左右する立場に就くということである。CIAは巨大な官僚組織であり、国内外を問わず、自由に工作活動に従事させることができる何百万人もの職員を抱えている。CIAは、あまり公開できない外交政策を持つ陰の国務省といってもよい。スパイ活動を行う海外の工作員たちは、挑発的活動が和平達成を妨げかねない危険な領域で動いている。U-2(米空軍のロッキード社製、高度戦略偵察機。CIA の資金により 1954 年末から極秘裡に開発され、任務を隠すためU[雑用機]という用途記号がつけられた)が1つの例である。マコーンはCIAやFBIなどの米国の諜報組織、および戦時中に秘密裏に活動できる準軍事組織間の調整役となる共同諜報委員会も主宰することになる。ケネディ大統領は、これほど重要な役職にこれ以上不適切な人物はないという人選をしたのである。