No.471 ブッシュは世界の脅威

米国のブッシュ新政権による京都議定書離脱、北朝鮮や中国との外交政策などから、米国が自国の利益だけを考える傾向が以前にも増して顕著になってきています。以下の記事の分析を是非お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。

ブッシュは世界の脅威

『デイリー・ヨミウリ』紙 2001年4月15日
マイケル・バイヤーズ

 米軍の偵察機と中国軍戦闘機の接触事故は、その後一連の問題の引き金となって外交官や政治家を動揺させている。アジアに再び竹のカーテンが下ろされつつあることに大きな懸念が持たれるのは当然だが、この衝突事故で最も心配されるのは、この事故で明らかになった米国の新大統領とその大統領率いる政権についてである。

 昨年の大統領選でジョージ・W・ブッシュは、自分を思いやりのある、総意作りを行う者だと述べた。しかし実際は、彼はこれまでの米国大統領の中でもっとも保守的で、党派心が強いタカ派のリーダーかもしれない。

 米国民、その中でもブッシュに投票した人々は、社会保障費の大幅削減、富裕層を主な対象とした減税、産業界の思惑によってのみ動いているエネルギー/環境政策といったものを通じて、彼のレトリックに惑わされたために大きな代価を払うことになるだろう。しかし、さらに大きな代価を払うことになるのは、米大統領選に投票できない、この地球上に住む他の50億人の人々であろう。

 過去3ヵ月間、ブッシュ政権は、世界の国々に対する米国の対応を根本的に変更した。外交政策における同情は、すべて米国の私利追及に置き換えられた。協調は威圧に変わり、多国間主義は片務主義に変わった。

 新しいアプローチへの変更を示すもっとも顕著な例は、1997年京都議定書をブッシュが放棄したことである。米国環境保護局の科学者たちは、地球温暖化が起こっていること、それもこれまで考えられていたよりも急速に進んでいることをブッシュに認めさせたものの、ブッシュはその科学に疑問を呈している。彼はまた、気候の変動によって被害を被るのは欧州や発展途上国であり、しかもこれら諸国の対応能力には米国に比べ限りがあることを十分承知しながら、二酸化炭素排出量削減のための措置をとればいかに米国経済が打撃を被るかを強調する。

 外交政策への新しいアプローチは、ロシアへの敵対にも明らかである。今ロシアは失敗した国とされ、尊敬や財政援助を受けるに値しない国だと見なされている。ロシア人外交官50人の追放、そしてチェチェン反乱軍と米国の高級官僚との会談は、ロシア政府に対して米国政府がこれまでと打って変わって強硬な態度に出たことを知らせるために画策された。

 ロシアが困窮した今、副大統領のディック・チェイニーと国防長官のドナルド・ラムズフェルド率いる軍産複合体は、ペンタゴンの予算増加を正当化するために、新しい敵を切望している。2月のバグダッドへの攻撃はサダム・フセインを挑発することが目的だったが、その代わりに噴出したのは、ドイツ、フランスはもちろん、アラブの同盟国からの予想外の非難だった。

 昨年始まった和平会談の延期を決めたことで、北朝鮮は今も「ならず者国家」の地位にある。これは好機を逸したどころの話ではない。外交政策でノーベル平和賞を受賞した韓国の金大中大統領の立場を著しく傷つけた。この米国の躊躇によって金大中が失脚するようなことになれば、和平会談はもう終わりである。

 しかし、貧しい北朝鮮は地政学上、よくいっても弱小プレーヤーに過ぎない。米国の世論を自分たちの味方にするには、チェイニーとラムズフェルドはもっと確実な敵を作らなければならない。

 4月初め、ラムズフェルドは、将来の武力紛争で最大の敵になりそうな国は中国だという戦略計画をホワイトハウスに提出した。主な支出項目には、国家ミサイル防衛システム、長距離爆撃機、そして太平洋におけるハイテク戦のために設計されたステルス軍艦が含まれていた。また台湾に対して高性能駆逐艦、レーダーシステム、戦域ミサイル防衛システムを売り込む決定が近々なされるはずである。中国への監視は海、空、宇宙、さらにはモンゴル国境からも大幅に増強された。

 中国政府も神経質になっている。WTO加盟によって西側に加わるという見通しから、中国には成長という大きな配当がもたらされ、反政府派に対する中国共産党の立場は安定し、その一方で軍事費削減も可能になった。しかし、再び敵にされ、世界最強の軍事大国の脅威に直面したことで、中国にはそれに応じるしか道がなくなった。中国の軍事費は増加している。近々、米国大陸に到達可能なミサイル18基には複数の弾頭が設置され、さらにミサイルが増設されると見られている。

 4月初めに起きた接触事故は、このプロセスを加速させた。ラムズフェルドにとって、彼の戦略計画を認めさせるにはまたとないチャンスだっただろう。中国政府が米軍機と乗員を拘留したことに対して、米国の報道機関が猛烈に怒りを示したからである。しかし、米国が防空区域に指定するカリフォルニア海域上で同じような事故が起これば、米国も中国とまったく同じ行動をとるであろうという事実は無視されている。

 たとえ私利を追求する超保守派であっても、必然的に環境悪化を招く、核兵器ホロコーストの危険性を劇的に高める政策をどうして採用できるのかと尋ねるだろう。

 この要因の1つが大統領選挙の周期にある。米国の政治家に4年以上の長い展望を持たせる要素がまったくない。しかし、短い選挙周期は民主主義制度では一般的な特徴であり、環境や戦略問題の長期計画にようやく真剣に取り組み始めた国もある。

 さらに大きな要因は米国社会の特性にある。そこでは向上心こそが最重視され、共通の利益や義務は否定される。特に右派の共和党ではそれが著しい。互いを信頼せず、ましてや政府に不信感を持つ人々に、海外の個人やグループを信頼するよう求めるのは極めて難しい。また、国民の不信を助長しているのが、大部分の米国人には、他の国や文化に関する知識があきれるほど欠如していることである。米国テレビで放映された外国のニュースは過去5年間に50%も減少している。

 おそらく最も重要なのが、多くの米国人は過去や未来といった感覚をほとんど持たないことだ。20世紀に起きた戦争は米国外で起きている。離婚は蔓延し、家族はばらばらか機能不全に陥っている。ほとんど会うことのない孫の将来を心配することは難しい。

 しかし、将来にまったく見込みがないわけではない。米国国務長官のコリン・パウエルは、外交と共同作業がもたらす利点をタカ派の同僚よりずっと理解している。米国で最も人気のあるパウエルだが、その声を大統領の耳まで届けることはできなかった。彼はそう長くないうちに辞任し、2004年にはおそらく自分が大統領選に出馬するであろう。

 それまでの国際和平と環境保護の唯ひとつ真の希望は、中堅国であるオーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、イギリスなどの肩にかかっている。米国の片務主義に対抗するためにこれらの国が団結し、かつ発展途上国と共同し、ブッシュ政権が断固反対する価値感を維持し育てることができるかもしれない。その価値観とは、思いやりや信頼に加え、国際的なレベルの共通の利益が存在し得ること、また共有する慣例、義務、規則にコミットしてのみ発展するという理解である。

 特にブッシュやその友人のように力のある、イデオロギー的にコミットした「いじめっこ」に抵抗するためには勇気と信念がいる。彼らをのさばらせておけば、また弱いものいじめをするのは確実だ。