No.525 預金は生産と消費のギャップ

日本の貯蓄率が高いのに、なぜ日本の金融機関は世界で最も病んでいるのでしょうか、またなぜ日本経済は停滞しているのでしょうか。今回は、この素朴な疑問から発し、その原因について貯蓄の使い道という観点から考えてみました。是非、お読み下さい。

預金は生産と消費のギャップ

 

【 預金は生産と消費のギャップ 】

日本人は世界のどの国よりも貯蓄率が高く、国民一人当たりの貯蓄額も一番多いという。それなのになぜ、日本の銀行は世界でもっとも病んでいるのか。なぜ日本の大手銀行は不良債権で窮地に陥り、利益を出せずに赤字に苦しむのか。なぜ日本の銀行は一等地に支店を構えながら、税金を払う代わりに、国民が払った税金を公的資金として吸い取っているのだろうか。

世界で最も多くの預金を国民から集めている銀行が赤字に苦しみ、公的資金に依存して評判を落としているのは、おかしいどころか矛盾しているといえないだろうか。

【 幻のような預金 】

しかし、これはおかしくも矛盾でもない。銀行の預金は、実際には存在しない幻のようなものなのだ。その理由を何回かに分けて説明したい。

ある地域社会、例えば日本という国を見た場合、そこで生み出される財貨およびサービスの価値の総額は、その地域に住む人々の所得の総額と等しい。なぜなら、そこでつくられた物や提供されるサービスがもたらす利益は、その生産に貢献した人々に支払われるからだ。労働力には賃金、土地の提供者へは地代、資金を出した人には利益と利子という形である。

ほとんどの人は所得の一部を消費に回し、残りを将来使うために預金する。現在の生活に必要なものやサービスを購入して、残りは住宅費や子供の教育費、さらには定年後の生活費として預金に回す。つまり預金とは消費の繰り延べにほかならない。

【 デフレ回避が必要 】

生産イコール所得となるために、そこに住む人々が現在の消費を遅らせてその分を銀行に預金すると、その預金分だけ現在の消費が減ることになる。

農民が1,200万トンの米を生産しても、人々が1,000万トンしか消費しなければ、200万トンは不要となり腐ってしまうし、1,200万台のカメラを生産しても1,000万台しか売れなければ、200万台はカメラメーカーの帳簿の上で腐っていく。

このように、日本が500兆円分の製品とサービスをつくり出しても、国民が490兆円分しか消費しなければ、その国の経済は10兆円分腐ることになる。

これはつまり、多くの国民が現在の消費を遅らせて預金をすれば、預金の分だけ、生産された物やサービスが余り、それが今、日本が経験しているデフレという現象になっているということができる。

【 余分なものまで輸入 】

デフレを回避するためには、預金額以上に、人々が実際の所得を上回って消費をすればよいのである。例えば、いずれ収入が増えると見込んだ人がお金を借りて物やサービスを消費すればよい。それは後で使おうと預金している人のお金を、あるいは将来のためにと過去に預金していた分を、現在の消費に充てることを意味する。だが現在の日本で、こういう人は明らかに少数派のようである。だからこそ日本はデフレに陥っているといえる。

では、デフレを回避するもう一つの方法として、消費されない分を輸出するのはどうだろう。しかし、これが解決策になっていないのは明らかだ。1995年以降、日本は国内総生産(GDP)の約10%を輸出してきた。

しかし同時に、常に総生産の9%を輸入しているため、全体として1%しか減らないのである。確かに30年前は、資源を輸入する外貨獲得のための輸出だったかもしれないが、今日ではそれが逆になり、余分なものを輸出するから、余分なものまで輸入しなければならなくなっている。

【 限定される資本財 】

三つ目の方法は、預金分に相当する金額を製造者が新しい資本財、つまり物を作るための部品や設備、機械などに投資することである。しかしこの方法もうまくいかない。なぜなら必要な資本財の量は、消費される量に限定されるからだ。

例えば靴を製造するための道具や設備を増やしても、靴の消費が増えなければ新しい資本財は役に立たない。あるいは売れない靴の在庫がただ増えていくだけである。日本はすでに消費しきれないほど多くの物を生産している。消費を増やすため、今以上に資本財の追加投資を行うべきだろうか。

日本人の国民一人当たりの年間消費支出は320万円である。米国人の平均より43%、ドイツ人より46%多い。イギリス、イタリア、カナダと比べると2倍以上の金額だ。日本人よりも消費支出が多いのはスイスだけである。

では、なぜ日本はこれ以上消費できないのに、こんなにたくさん物を製造するのだろう。理由は簡単だ。過去50年間に日本は生産性を向上させる技術や機械を発明、導入し、生産力を大幅に増加させてきたからだ。日本人の一人当たりの生産性は30年前の16倍に増加した。しかし、消費を16倍に増やすことはできなかったのである。

生産と消費のギャップ。預金され銀行口座に「預金残高」として記載されるのが、この余剰分なのだ。トマトを2,000トン作っても700百トンしか売れなければ、余剰である1,300トンは腐ってしまう。銀行に預けられた預金がどうやって腐っていくかは、次回に説明しよう。