No.556 法人税は高いか

 税金や物価などを単純な国際比較をして日本は高い、という議論がしばしばなされるが、それは公正な比較ではない。よくいわれる「高い日本の法人税」について今回は考えてみたい。

法人税は高いか

 前のOWで日本は税金を先進国並みに増税するべきだと書いたが、政府与党からも大幅な増税を求める発言がなされている。しかしそれは「社会保障費の財源を賄うために“消費税率”を引き上げるべきだ」というものだ。

 しつこいようだが、日本のデフレの原因は消費の不足にある。政府は消費税の導入および増税で消費を減退させたことを忘れてしまったのか。また、所得が少ないほど負担の重くなる消費税を増税することは、失業率の上昇という雇用不安の中ではさらに消費を冷え込ませるだけだということが、なぜ分からないのだろうか。

意味がない税率比較

 法人税についてはさらなる減税の声が根強い。「日本は法人課税の実効税率(国税と地方税を合わせた税率)を現在の40・87%から35%程度に引き下げるべきだ。欧州主要国の実効税率は30%台で、アジア諸国に至っては20%台が中心だ。企業の国際競争力を強化するためには、せめて欧州並みに引き下げるべきだ」。これが大新聞に掲載されていた主張である。

 私は、法人税の税率だけを比較してこの国の税金は高く、他の国は安いというような比較はできないし、してはならないと思う。

 それぞれの国は、その国民の所得や生活水準に合わせて税率を決める。さらに、二つの国で収益に対して同じ税率で税金を課していたとしても、収益の定義が同一とは限らず、例えば接待費が利益を計算する前に控除される経費とみなされるか否かで、大きく変わってくる。

 日本の場合、地方税のうち事業税は費用として所得から引くことも認められている。また国際競争力の強化というが、基本的には優れた製品には輸出力があり、劣った製品しかなければ海外から輸入されるだろう。日本企業が海外へ工場を移転するのは、税率よりも海外の安い労働力を利用したいためであり、私には競争力と税率の関連性はまったくのこじつけとしか思えない。

 法人税が高いか低いかを複数国で比べる方法で私が最も適切だと思うのは、その国のGDPにおける法人税収の割合を見ることだと思う。

 GDPは国民総所得、つまり国民が年間に稼いだお金の総額と等しい。そして実際に調べてみると、日本の場合、法人税はGDPの3.8%であり、EU平均はGDPの3.6%、日本を除くOECD諸国は3.3%という結果であった。確かに大新聞の主張通りだ。

「利益」のみに課税

 しかし企業が払っているのはそれだけではない。企業は社会保険料も払っており、その割合を比べると、日本はGDPの5.6%、EU平均はGDPの6.6%、OECDは5.5%であった。

 つまり、法人税と社会保険料の合計を比較すると、日本はGDPの9.3%、EU平均は10.2%、OECDはGDPの8.8%となり、日本よりもEU諸国の方が税率は高いことが分かる。

 大新聞は法人税率だけを取り上げて、読者に「法人税は高すぎる」という結論を導かせようとしているが、社会保険料という、同じく企業に課せられる税金については無視している。

 ついでに言えば、日本の個人所得税収はGDPの5%であり、EU平均の11%、OECD平均の10%と比べてもわずか半分しかない。日本は圧倒的に所得税収が少ないのである。他国と比べて低いから法人税を下げよというのなら、なぜ個人所得税もそれらの国並みに上げるべきだと言わないのだろうか。

 最後に付け加えると、法人税減税提唱者は、法人税は「利益」に対してのみ課税されているという事実をあいまいにしている。所得総額にかかる個人所得税と異なり、法人税は企業が費用を支払った残りにかかる。つまり企業が預金に回すお金に対して法人税はかかってくる。

企業預金増やすだけ

 税金を払ったあとの残りで、消費したり貯金をする個人と違い、企業は消費をしたあとの所得から税金を払う。従って法人税率を下げることは企業の預金を増やすだけで、企業の消費を増やすことにはならないのだ。研究開発費も設備投資も費用であり、企業は預金を使ってそれらを行っているわけではないのである。

 これは国家全体を考えると極めて重大なことである。消費の不足がデフレの原因であり、過剰な預金が銀行の不良債権をつくり出している中で法人税減税は預金に回される企業のお金を増やすことであって、消費が増えることではないからである。

 企業は従業員を雇い、給料を経費として支払っている。または原材料の購入も費用である。日本で商売をする場合、企業は原材料や人だけではなく電気や水道、道路や港、交通機関などさまざまなインフラを利用している。よい教育を受けた人を雇いたいと思うし、安全に取引を行うためには治安がよいことを望むであろう。

 これらはどれも、原材料と同じくらい、いやそれ以上にビジネスを行う上で大切なことであり、多くの利益を上げている大企業ほどその恩恵を受けているはずである。

 それにもかかわらず、なぜそのインフラや治安維持に使われる「法人税」を払うことを損失であるかのように言うのか。ジャングルのような国になり果ててから、商売がうまくいかなくなったことを嘆いても遅いということに気付くべきである。