No.643 武器輸出再開への提言

 日本経団連が武器の輸出を制限した「武器輸出三原則」の見直しなどを求める提言をまとめた。(詳細は経団連のホームページhttp://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2004/063.htmlに掲載されている)。これは「防衛大綱」の策定作業を進める小泉首相の私的諮問機関の議論にあわせ、「国益」という言葉を使って企業の利益を自由に追求できるよう、禁止されている武器輸出を再開させるべきだという軍需産業界からの提言ともいえる。

武器輸出再開への提言

 この提言で、宇宙空間からの衛星による情報収集が欠かせないが日本では防衛目的での利用が禁止されているため、その最先端技術で国民の安全を守ることができない、だから日本も安全保障における宇宙利用の重要性の増大をかんがみて宇宙の平和利用を国際的な解釈と整合させる必要があると、宇宙の防衛目的での利用(つまりは軍事利用)促進がうたわれていた。これは今年1月、ブッシュ大統領がNASA本部で、月面への宇宙基地建設や火星への有人宇宙飛行などを盛り込んだ新たな大規模宇宙開発計画の概要を明らかにしたが、その演説を思い出させる。

 日本経団連の目的が経済の発展を促進することとはいえ、憲法の平和主義に基づいて1967年に禁止された武器輸出を、防衛予算抑制によって利益が少なくなったからと(防衛庁が発注する新規契約総額は1990年の1兆727億円をピークに減少、2003年には7630億円)、このような提案をすることは私には信じがたい。日本最大かつ最強のロビー団体である経団連が、予算減の影響で軍事産業の売り上げが減少しているから武器輸出を認めるべきだと政府に圧力をかけることは、ビジネスマンである以前に、人間として良心がとがめることがないのだろうかと思う。

 ビジネス界ではコンプライアンスを導入する企業が増えている。コンプライアンス制度とは法令順守ということであり、簡単にいうと行動基準や倫理基準で人間がしてはならないことを定め、回復困難な企業不祥事を回避するためのものである。事実、経団連の『企業行動憲章』には、“企業は、公正な競争を通じて利潤を追求するという経済的主体であると同時に、広く社会にとって有用な存在でなければならない。そのため企業は、次の十原則に基づき、国の内外を問わず、人権を尊重し、関係法令、国際ルールおよびその精神を順守するとともに、社会的良識をもって、持続可能な社会の創造に向けて自主的に行動する…。”とある。

 今年はじめ、石破防衛庁長官はアメリカだけでなく欧州やロシアとも共同で兵器開発をしたい、古い自衛艦を東南アジアに輸出したい、そのために武器輸出三原則を見直したいという発言をしたが、財界からも、もっと利益を上げるために殺人と破壊をもたらす武器を売る、つまり人を殺したり建物や都市を壊滅させることを支援する、人類の道徳にもっとも反する行為を助けることを日本の政府に認めさせようという提案が経団連を通してなされたのである。これは人命よりも利益が大切だということだが、利益を出すことと同じくらい、ビジネスでは何から利益を得るかということも大切だと私は思う。

 小泉政権になってから、経団連も政府も、ますます大胆に日本という国を変えつつある。数年前、「日本が集団的自衛を禁止していることが日米同盟協力の制約になっている」という報告書を書いたアーミテージ米国務副長官は、先月、日本の憲法9条は「日米同盟関係の妨げ」だとして、憲法を改正し、積極的な国際軍事貢献に向けた態勢づくりが必要だと自民党議員に伝えたという。敗戦直後、日本が二度とアメリカにたてつかないようにと米総司令部の草案をもとにできた日本の平和憲法だが、一九五四年に日本に自衛隊が作られたのもアメリカの都合からだった。

 1990年の湾岸戦争では自衛隊を派兵しなかったために130億ドルもの湾岸復興費を出してもアメリカから非難された日本の政治家は、今回のイラク戦争では真っ先にアメリカ支援を打ち出し、お金と自衛隊の両方を差し出した。敗戦国日本は、これまでも、そしてこれからもアメリカに守ってもらわなければならないからだという。そしてこれによって経団連企業はアメリカという大きな市場から、多くの利益を上げることができる。アメリカ追従さえしていれば、国益も企業利益も安全も保障される、ということを日本の政財界のリーダーは信じているようである。

 しかし、そんなことはありえない。食料とエネルギー自給率の低い日本では、経済封鎖によってたちまち壊滅する。日本の安全保障や防衛を真に考えるなら、憲法改正だとか武器輸出原則の見直しを提案する前に、40%の食料自給率、20%のエネルギー自給率を上げるという、人命にかかわる問題に真剣にまず取り組むべきだ。