No.748 永久的なテロとの戦争目的

8月、ロンドンで英国発米国行きの複数の旅客機を同時爆破するテロを計画したとされる容疑者が逮捕された。

永久的なテロとの戦争目的

家宅捜索でイスラム教徒の容疑者21人が「反テロ法違反の疑い」で逮捕され、標的とされた旅客機は9月11日の米同時多発テロを上回る計9機だったという(英AP通信)。犯人は液状の爆発物を手荷物に忍ばせて機内に持ち込もうとしたらしく、このため機体への手荷物の持ち込みは原則禁止されるなどの措置がとられ、混乱するヨーロッパの空港の映像がニュースで報道された。

セキュリティが強化され機内に液状のものを持ち込めなくなっても、よほどの理由がないかぎり飛行機に乗らないと決めている私には影響がない。

テロの脅威は未遂に終わったが、その10日後、ロシアの旅客機がウクライナで墜落し乗員全員が死亡した。雷が原因だったらしいが危険に変わりはない。また、老朽化した機体、燃料高騰で経営不振となり正社員の代わりに時給で雇われている乗務員、待遇に不満を持っていないとも限らない技師が保守点検する機体等々、飛行機に乗るにはそれなりの覚悟が必要だ。

しかし今回の事件ではセキュリティのために不自由は仕方ないし、憎むべきは「テロリスト」や「アルカイダ」だという印象ばかりが残ったのではないか。米国政府の目標はまさに人々をそういう心理状態にすることだ。

米国では6月にはシカゴのシアーズタワーへの攻撃を計画したとしてアルカイダと見られる7人が逮捕され、7月にはマンハッタンとニュージャージーを結ぶ電車の地下トンネルを自爆し、マンハッタンを洪水で襲う計画をしていた容疑者らが逮捕された。日本にこれらの報道はなされていないかもしれないが、米国では「テロ未遂」でイスラム教徒が大勢逮捕されている。しかしトンネル爆破では逮捕したが犯人グループは爆発物すら持っていなかったことが後で分かり、テロ対策に関わる官僚の中にはこうした「計画」だけでの容疑者逮捕を危惧する声がでている。

なぜなら米国のイラク侵略はまさにこのロジックで行われた。イラクは大量破壊兵器を持っているから先制攻撃をしないと世界が不安定になる。そしてイラクを攻撃した。しかし大量破壊兵器は見つからず、今、世界はより不安定になった。

2003年にイギリスでアルカイダ系のテロリストがリシンという猛毒を製造していたとして逮捕される事件が大々的に報道された。ところが逮捕後、リシンはなかったしテロの計画もなかったことが分かり不起訴になった。この事件も、逮捕は大きく報道されたが不起訴は記事にならなかった。目的はテロの脅威をあおること、そしてマスメディアを通して行う情報操作はこんなにも簡単なのである。

未遂テロ事件の多くはジョージ・オーウェルのいう「思想犯罪」に該当する。8月の事件で捕まった容疑者のうち、数人は実際パスポートも持っていなかったという。それでどうやって飛行機を爆破させるというのか。彼らは米英政府がイスラム諸国で行っている暴力に対する怒りを言葉で交わしたかもしれない。政府がテロリズムと呼ぶ行為をやろうと考えたかもしれない。そしてそれを誰かが通告し、監視をする。あとは都合のいいタイミングで容疑者を大々的に逮捕するのだ。

事実、ロンドンでテロ未遂の発表のあった36時間前、米国では民主党予備選でイラク戦争を支持していたリバーマン氏が、イラク撤退を訴えた新人に敗退した。「テロとの戦い」を政策に掲げる共和党にとって、テロ未遂事件は危機感をあおるよい知らせとなった。

テロの脅威を放っておけば飛行機は爆破され、マンハッタンやシアーズタワーは被害を受けていたかもしれないという人もいるだろう。しかしそのテロ計画自体、政府当局の発表だけで何が真実で何がねつ造だか、国民は知る由もない。そして存在しない敵を作り出す意図的なプロパガンダ活動は米国政府の得意とするところだ。

アフガニスタン、イラク、そしてレバノンやパレスチナといったイスラム諸国で日常的に行われている残虐行為は、米国政府とその同盟国がいなければそのほとんどは起きていなかったはずである。今後さらにイランやシリアなど都合の悪い政権を米国とその同盟国で転覆させ、占領を続ければ、世界はさらに危険な場所となり、それこそ米国政府の永久的なテロとの戦争状態という目的が遂行される。