No.768 新春の集い ~脱欧入亜~ 講演録

新春というには、すでに2月も終わろうとしています。今年も、弊社のお客様をお招きしての講演会「新春の集い」を開催することができ、お忙しい中お越しくださった方々には、心よりお礼を申し上げます。

お話させていただいた内容は、毎週このコラムで書いているものの集大成です。福岡、大阪、名古屋、東京、仙台と進むにつれて、毎回少しずつ内容が変わっていたという指摘も社員から受けましたが、基本的な内容を広報部がまとめたということなので、お読みいただければ幸甚です。

新春の集い

毎年、私の講演タイトルは広報部が決めているが、今年の『脱欧入亜』は私が決めた。なぜかというと嫌いな日本語の1つが『脱亜入欧』だからである。中国や韓国、その他近隣諸国の人は、日本人がアジアを卒業して西欧の仲間入りをしたことを誇らしげに言うこの表現をどう思っただろうか。しかし実際にそんな言葉を掲げた日本はアメリカの植民地のようになってしまっているのが現実である。また昨年は、私自身、日本に帰化して米国籍を棄て『脱欧入亜』した。そんなことから新春の集いのテーマを『脱欧入亜』とした。

入亜のための帰化手続きは大変だった。戸籍の概念は日本と韓国にしかなく、戸籍に掲載する情報をアメリカから集めるのは一苦労だった。また、日本政府は二重国籍を認めていない。だから米国籍を放棄しようとしたのだが、まず米国領事館に電話をしたら1時間以上説得され、それから領事館へ出向いてどうしても放棄したいと申し出たが、それに対する担当者の台詞は「日本政府は調べないから大丈夫」だった。結局放棄できたが、つくづくこれがいつもの米国の強引なやり方だと感じた。

ピークオイルと気候変動

数年前から私は石油の減耗、いわゆるピークオイルについて話してきた。昨年は、米国の地質学者たちが石油は1バレル=100ドル以上に上がると予測していたので私もその数字を伝えてきたが、最近はまた下がっている。だから予測は当たらなかったと言われるが、石油価格は短期的な投機家のかけひきで決められるため、価格については触れるべきではなかったと反省している。特に昨年はカトリーナのようなハリケーン被害がなかったし、今年は暖冬で米国の石油需要が増えなかった。他にも、昨年11月に米国は中間選挙があったこと、世界で一番石油を買っている米軍が買い控えたこと、そして50ドルを超えてから貧しい国が石油を買えなくなっているという情報もある。

しかし、それでも石油価格が上がっていないというのは短期的な見方だ。2004年は1バレル平均38ドルだった。さらに1974年から2003年の平均は1バレル22ドルで、1947年から1974年は2ドル、1860年から1945年までは1ドルだった。だから最近は上がっていないとはいえ、自動車が発明された頃から見ると価格は56倍にもなっている。

これまで私は、石油が減耗することは大変なこと、困ったことになると言ってきた。しかし実は石油の高騰は良いこと、素晴らしいことでもある。なぜかというと今、気候変動が大きな問題となっているからだ。気候変動の原因の1つは化石燃料を燃やすことだ。つまり、このまま石油を燃やし続ければ地球はおかしくなる。しかし石油が稀少になり、高騰すれば、自然と燃やせなくなる時代が来るということだ。

環境問題はそれほど気にしなくていいという意見もあるが、100%の科学者は人類が環境を破壊しているという点で一致しており、国連IPCC(気候変動に関する政府間パネル)も温暖化に関する研究報告で「世界的な温室効果ガス濃度の著しい上昇は1750年以降の人間活動の結果」と結論づけている。

では何が環境問題の解決を阻んでいるのかと言えば、米国ではエクソンモービルが温暖化説反対派に巨額の助成金を提供してきたなど、利益を求める企業の姿勢がある。企業がスポンサーであるブッシュ政権が科学者に圧力をかけて報告書を書き換えさせてきたことも明らかになっている。これはタバコは肺がんにならないとキャンペーンを続けてきたタバコ会社と同じやり方だ。そしてタバコ業界は利益を上げ、一方で毎年10万人の日本人が喫煙が原因で亡くなっている。

余談になるが、経済の歴史を振り返って「法人」を作ったことが原因だと私は思う。法人という考え方ができたのは南北戦争が終わった後である。法人の問題は簡単に言うと人間と同じ権限を持つが、責任はほとんどないということだ。企業が犯罪を犯しても、会社は刑務所に入れられない。裁判で経営者が知っていながら悪事を働いたという立証がなされなければ、責任を取る必要はないのだ。

情報を精査する

こんなにも深刻な環境問題だが、大新聞やテレビは警告を出していない。地球の何億人もの命が危機に晒されているという事実よりも、女は産む機械と言った大臣のニュースの方が大事なのだ。以前から私は、テレビは頭を悪くさせる「娯楽」と、金持ちが流したい「嘘」しか報道しないと思い、テレビを全く見ていない。昨年からは新聞も読まなくなった。なぜなら嘘やプロパガンダを吸収するのは百害あって一利なしだと思うからだ。現在、すべてのニュースはインターネットで集めている。インターネットの世界にも嘘や広告が溢れているから、自分で判断しなければいけない。それでも、すべて広告から成り立ち、広告主がコントロールしているテレビや新聞よりはましだと思う。

『不都合な真実』

地球が直面している気候変動とは何か。この冬は私はオーバーを着る必要はほとんどなかった。草履も裸足で履いて平気だった。異常気象という言葉をよく聞くが、気候がおかしくなっていることは誰もが肌で感じているのではないだろうか。

2005年に米国を襲ったハリケーン、カトリーナはハリケーンの歴史上最悪の被害をもたらした。ニューオリンズは人口45万人位だったが、1つの台風で半減した。3年前にはヨーロッパを熱波が襲い、一夏で3万5千人が亡くなった。昨年日本を襲った台風は例年より少なかったが、ブラジルに初めて台風が来た。そして日本は、冬も来ないのにもう春が来ている。

色々なデータがあるが、誰もが自分の肌で理解しているのではないか。昨年日本を襲った台風は少なかったが、強さは増した。海水の温度が上がることで嵐が強くなるためだ。科学者たちは1860年からの気温を記録しているが、1860年以降最も暑い年の13年のうち、12年は最近の12年だった。

先日、私はゴア元米国副大統領の『不都合な真実』という映画を観たが、私の講演を聴くよりもこの映画を観ていただく方が、より鮮明に気候変動について理解していただけると思う。そしてこの映画には、気候変動を証明するデータがいくつも紹介されている。海面は20世紀で10~20センチ上昇しており、科学者は21世紀にまた50センチから1メートル上昇すると予測している。そうなったら、東京や大阪といった、埋立地がほとんどの沿岸地帯はどうなるのだろう。日本だけでない。世の中の数億人は海のそばに住んでいる。海面が上昇すれば、フロリダ、マンハッタン、上海、おそらく東京の埋立地も浸水する。気候変動がこのまま続けばそうなると、科学者たちは一同に警告している。その原因を作っているのは人間の行動なのだ。

臨界点まで10年

昨年から環境問題に興味を持ち、様々なレポートなどを読んだが、科学者たちは10年以内に大幅に行動を変えないと地球はあと戻りできないようなポイントに達すると言っている。10年が1つの期限で、それ以内に解決しなければ改善は不可能だという。

地球に何が起きているのか、解決策を見つけるためには何が問題かを理解する必要がある。地球温暖化とは人間の活動によって「温室効果ガス」が大気中に大量に放出され、地球の平均気温が上昇することだ。温室効果ガスの中で最も温室効果をもたらしているのは水蒸気、二酸化炭素、メタンである。水蒸気は自然なものだが、二酸化炭素は化石燃料を燃やしたり、森林を伐採することで大幅に増えている。人類が初めて化石燃料を燃やした産業革命(1750年)が始まるまでの1万年間、二酸化炭素の量はほとんど変わらなかったが、1750年以降38%増加し、さらにそのほとんどは1945年以降に増えている。また、メタンも1750年から150%増加しており、その原因は人間が飼育する家畜である。

ではなぜ10年しかないのか。それは森林は二酸化炭素を吸収しているが、人間はそれを毎年伐採し、さらに焼き払うことで二酸化炭素を排出して温暖化を進めている。温暖化が進むと氷河が急速に融け始める。氷の部分が減り、海面が増えれば、さらに多くの氷河が融けて温暖化が進む。地表と海水が暖かくなれば、より多くの水蒸気が大気中に放出される。水蒸気は温室効果ガスの最大の原因であり、したがってさらに温暖化が進むということだ。つまり、温室効果は相互に影響し合い、互いの相乗効果で倍増するような仕組みになっているために、その臨界点にあと10年しかない。言い換えると、われわれは10年以内に化石燃料の燃焼と森林伐採を大幅に減らさなければならないということだ。

なぜこんな急に温暖化が進んだかと言えば、まず人口が増えすぎた。19世紀には10億人だった世界人口が、20世紀には6倍の60億人になった。2人から始まった人間が何千万年もかかって10億人になったのが、化石燃料を使うようになってわずか100年で60億人にまで増えたのだ。

100年前、ほとんどの人は生まれてから30~40キロの範囲内で生活をしていた。それが石油によって海外へ行くことが当たり前となり、世界が1つの市場となって物が売買されるようになった。人間の行動がここまで激変したのだから、環境に影響が出ないと思う方がおかしい。さらに、この影響のほとんどは豊かな国の豊かな国民の行動によってもたらされている。

国連のデータだが、世界の金持ちの上位20%が世界の86%の資源を使っている。最も貧しい人々の20%は世界の1.3%の資源しか使っていない。イギリスに生まれた人は一生で、バングラデシュに生まれた人の30倍の二酸化炭素を出す。そして世の中で一番温室効果ガスを出しているのはアメリカで、全体の30.3%を排出している。環境を最も悪化させている国が、解決のための方向転換に反対し、京都議定書を拒否して環境規制の法律を作ることを拒んでいる。

日本にある解決策

明治時代から西欧を見習い、文明を進化させてきた日本人は、今生活を見直す時期に来ている。江戸は再生可能なリサイクルの時代だった。食べ物1つにしてもそうだ。日本人が肉を食べるようになったのは脱亜入欧のあとだ。牛は環境の面からも極めて問題だ。農業に使われている世界の土地の70%は牛の飼料を作っている。アマゾンの森林の70%も牛のえさを作るために乱伐された。さらに牛は温室ガスの原因となるメタンをげっぷをするたびに出している。メタンは二酸化炭素の20倍くらい濃い温室効果ガスだ。

もう一つの解決策は生活の速度をおとすことだ。日本を見れば、30年前から一人当たり生産性は19倍増えている。しかし、19倍幸せになっているか。労働時間は減っているか。生産性が上がっても自転車操業のような感じではないだろうか。行動が速くなると使うエネルギーは二乗で増加する。2倍の速度で4倍のエネルギー、3倍なら9倍のエネルギーが必要になる。9倍になれば排出する二酸化炭素も9倍である。逆に、速度を半分におとせばエネルギーは4分の1、排出される温室効果ガスも4分の1になる。つまり、われわれが行動の速度をおとせば気候変動問題は解決できる。

速いことが良いという価値観を刷り込まれてきた現代人にとっては、大きな転換を強いられるだろう。しかし、今のままの経済システムは決して人間を幸せにしない。資本主義と言われる経済体制は、基本的に強い者が弱い者を搾取するシステムだ。世界を見ても、日本国内でも、それは同じである。国連のデータによると、世界の豊かな国に住む20%の人と、貧しい国に住む20%の人との所得格差は1820年には3対1だったのが、1912年は11対1、1990年は60対1、そして入手可能な最新データである1997年には74対1にまで広がった。これが搾取でなければ何だろう。

資本主義経済の下、つい最近も米ゴールドマンサックスは50人の社員に30億円ずつボーナスを支払った。このような狂った経済を維持し続けるために、地球を、環境を壊してもよいのだろうか。今常識だと言われていることは、冷静に考えるとおかしなことがたくさんある。

税制を見直す

私が初めて日本に来た時によく言われたことは日本は平等な国、というものだった。もちろんそれは幻想だったかもしれない。しかし少なくとも格差を肯定する政治家はいなかった。それが今では財界が政治献金で大企業を優遇する税制を求め、政治家はそれに応えた政策を推し進める。こうして法人税や相続税が減税された。相続税はほとんどの国民には無縁であり、対象はごく一部の金持ちだけだ。平成元年から相続税は大幅に減税され、例えば5億円を相続したら6,300万円、10億円なら2億3,000万円も減った。もう1つは所得税とキャピタルゲイン税だ。国民の多くは勤労者で、働いて得た給料で生活しており、税率は累進制で一番上が50%である。しかし株の売買なら1億円儲かっても税金は10%しか払わなくていい。税制が貧富の格差を広げている。

江戸時代はそうではなかった。当時は士農工商という制度によってお金をたくさん持っていても商人は身分が低く、したがって政府を買収することはできなかった。世の中には様々な陰謀説があり、よく言われるのがユダヤの陰謀だ。ローマでもアテネでも、江戸の商人のようにユダヤ人は身分が低かった。聖書はお金でお金を生む、つまり利子をとることを禁じていたため、お金を扱う仕事は卑しいとされ、そのためにユダヤ人がお金を扱う仕事に就いていた。米国は今イスラム教を目の敵にしているが、イスラム教も利子をとることを許しておらず、イスラム圏内ではそのような主義で作られた銀行が存在している。仏教や孔子の教えも利子を取ることを許していなかったのではないかと思う。

金持ちが必要以上にお金を手にしたら、それを確実に投資する先は有限の土地である。人口は増えても土地は増えないし、政府は地価税を取らない。世界の歴史を見るとかつてほとんどの国は土地から税金を取っていたが、金持ちが権力を持つにつれて、政府は土地から税金を取らないようになってきた。その代わりに消費税や所得税で一般国民から広く浅く取るようにしたのである。

今、世界で一番力を持っているのは経済力を持つ者であり、その人々が政治を動かしている。経済をこのように拡大させたのは石油である。石油以前は人間は自分で必要なものを作り、作れないものだけを買っていた。分業化が進んだのは安くて豊富な石油による。

米国の歴史

石油で大量生産が可能になった米国を1910年頃不況が襲った。いくら品物があっても人は必要なものしか買わなかったからだ。米国で広告業界が誕生したのはこのためだ。人をだまして不要なものを欲しいと思わせるテクニックが広告だった。

その後第一次世界大戦が勃発し、米国は他国の戦争には参加しない方針だったが、フランスとイギリスに多額の融資をしていたウォール街が、ドイツが勝つと大変だということで、参戦しない公約で当選したウィルソン大統領を説得し、広告業界がドイツ人が赤ん坊を殺す残酷な宣伝を行い、国民を参戦の方向へ扇動したのである。

戦後再び不景気になった。当初は金融バブルでわかりにくかったが、1929年大恐慌が襲った。ルーズベルト大統領は一般労働者のために労働組合の強化など様々な施策を行ったが解決しなかった。そこに運良く参戦のチャンスをくれたのが真珠湾を攻撃した日本だった。そして再び米国は活況した。

ここで米国政府は気づいたのだ。いくら広告をしても買うものは限られている。経済を永遠に繁栄させるには戦争ビジネスが一番だと。爆弾を作って、燃やす。都市を破壊し、また米国企業が再建する。これほどビジネスを生み出すものはない。この米国の戦略はNSC-68(国家安全保障会議政策文書)という機密扱いを解かれた文書で、インターネットで検索できる。

脱欧入亜を

日本政府も同じことをしてはいないだろうか。政府の発言、メディアの報道を見れば、北朝鮮の脅威を煽り、憲法を改正して日本も核武装をせよといった洗脳、メディアコントロールを必死で行っている。国民をマインドコントロールして、日本の軍事産業を活性化させたいと思っている。これはすべて入欧、米国の真似である。

民主主義の日本は国民が政治家を選ぶことができる。次の選挙ではこれらをよく考慮して投票してほしい。そして、気候変動についても一人ひとりが行動を起こすしかない。そのためには、前述したように主流メディアの洗脳から脱するためにも情報の選択をすること、そして国産のものを消費し、環境のため健康のためにも飛行機や自動車から公共交通網や自転車、徒歩の生活にすることだ。それ以外にも、『不都合な真実』の映画で、自宅や外出時に取り組む排出削減というリストが提示されているので是非これも参考にして欲しい(http://futsugou.jp/takeaction/index.html)。

環境問題も、政治問題も、共通している点は私たち一人ひとりのモラルの問題である。そしてその解決策は、脱欧入亜にあるといえるだろう。