No.780 スウェーデンに学ぶ

今年1月、米ブッシュ大統領は一般教書演説でガソリン使用量削減とエタノール燃料使用量の増加について言及した。2006年度、米国内で約50億ガロン生産されたエタノール燃料をガソリンの代替として利用するために2017年には350億ガロン生産するという。

スウェーデンに学ぶ

化石燃料への依存と温室効果ガスの排出を減らすために、とうもろこしなどから作ったエタノール燃料を自動車に利用するという案はたしかに素晴らしく聞こえる。しかし、ブッシュ大統領の他の政策がそうであるように、これは世界が抱えている問題を解決することにはならない。原油の高騰によってガソリンの代替燃料として穀物を原料とするエタノールなどの国際的需要が急増し、その結果トウモロコシや大豆の国際相場が高騰しているし、それらを作るためにアマゾンの熱帯雨林などの伐採が進み温暖化はさらにひどくなるからだ。

食料問題や地球環境と対立せず、むしろ協調するバイオエネルギーはあるのだろうか。すでにこの点に気づいて次の段階に行っている国がある。スウェーデンだ。スウェーデンで環境が大きな話題となったのは20年以上前のことだった。見た目のよい漂白されたコーヒーフィルターを作るために使われる発ガン物質と、美しい自然に及ぼす環境汚染を人々が知るようになったためだ。90年には政府が塩素漂白を禁止し、スウェーデンの製紙会社は漂白なしで質の高い製品を作ることでこの分野で世界リーダー的存在となった。国民の環境を守りたいという思いが、人々の行動を変え、それが企業と政府を変えたのである。

バイオマスは生物由来の資源全体を表した再生可能エネルギー源で、とうもろこしや砂糖に限らず、木片や糞尿なども利用できる。先日わが社の顧客企業を訪問した際に、廃建材を集めてエタノールを作るプラントが日本でも建設されていることを知ったが、スウェーデンも森林国であることから木質系のバイオマスが自動車や暖房のエネルギー源となっている。

化石燃料に頼らず、また国産で地域分散型のエネルギーを作るために、スウェーデンはバイオガスプラントを作った。とうもろこしのように植物を植えることで土地を食料と取り合うのではなく、社会の廃棄物を使って燃料に変えるのである。スウェーデンは昨年世界最大のバイオガスプラントを作り、下水処理場の汚泥を使ってバイオガスを作っている。これ以外にスウェーデンの政府、地方自治体は、200の新しいバイオガスステーションを今後建設予定だという。これによって約3500万リットル分のガソリンとディーゼル燃料にバイオガスがとって代わり、温室効果ガスも年間5万トンが減るという。

バイオガスを作るにはバイオ・ダイジェスターとバイオ・リアクターの方法があるが、一般的なのはバイオ・ダイジェスターで、密閉された容器に有機廃棄物を入れて発酵させバイオガスを精製する。わずかなメタンガスの発生を除いて、まさに持続可能な発電所となる。森林の国スウェーデンでは木材や産業用パルプの廃棄物を燃料としているが、リサイクルされなければただの廃棄物が、こうしてエネルギーとして提供されるのである。

バイオリアクターはこの処理に熱と圧力を加え、より短時間でバイオガスを作る。またバイオリアクターは、汚泥や動物の屍骸、さまざまな廃棄物、汚れた川の水なども使用できる。川がきれいになり、エネルギーができるなど、まさに一石二鳥だ。とうもろこしで作られたエネルギーとちがい、廃棄物を利用したバイオマスはきれいではないかもしれないが、廃棄物をごみとして焼却すれば温室効果ガスをだすだけであることを考えれば、バイオリアクターで変換することがどんなに画期的な解決策であるかわかるだろう。

何百万トンもの廃棄物を貴重なエネルギーに代えることは、石油業界はじめ大きな抵抗があるだろう。しかし日本が抱えるエネルギー資源と気候変動という大きな問題を考えれば、中央、地方政府両方のレベルでこのバイオ燃料アプローチをとるべきだ。スウェーデンのようなバイオガスモデルを日本の多くの地方自治体が採用すれば、増え続ける廃棄物と、減少するエネルギー資源供給の両方を同時に解決することができるのである。