No.829 持続可能なライフスタイルへ転換を

先日、経済産業省の事務次官が、高騰する原油価格の要因としてウォールストリート資本主義のマネー経済を批判したという。

持続可能なライフスタイルへ転換を

原油市場に流れ込む投機マネーは膨大な金額である。しかし石油急騰の根本的な原因は、いくらメディアや政府が認めるのを拒もうと、投機マネーや、中国、インドによる石油使用量の急増ではない。石油が有限だからである。

私はこれまで「石油ピーク」がくると繰り返し警告してきたが、その警告通り1バレル130ドル超という価格が現実になってもいまだに多くの人が今の生活を変えようとしない。巨大油田がどこも生産ピークをすぎているというのに、新しい油田が見つかっているとか、埋蔵量は十分にあるといった説を信じているのだろうか。重要なのは量よりも採掘コストだ。採掘可能な石油の半分を取り出した後は、採掘にかかるコストが、取り出す石油の価値を上回ってしまうのである。

高騰するガソリン、または、その影響で食料品を含むさまざまな物価が上昇して国民生活に影響がおよぶといった現実に対して、政治家や政府がまず国民に伝えるべきことは「真実」である。その真実とは、もはや石油を湯水、いやまさに、「油水」のように使った現在の生活を改める必要性、資源は有限という事実を受け入れて、持続可能なライフスタイルに転換する、つまり今よりも不便な生活にシフトしていかなければいけないということだ。

しかし政治家にとっては、国民に苦境を強いる説教をするより、石油高騰の責任を顔の見えない「投機家」のせいにして、石油先物取引を規制するほうが簡単だ。なぜなら石油を使うなということは生活が不便になるだけでなく、必ずや経済の停滞がもたらされるからである。しかしそのような小手先の戦略はいつまでも続かない。

この地球上には67億人の人々が暮らしている。そのうち食料生産に携わっている人は半分もいなくて、残りは食料生産を他の人に依存している。食料を自分で作らない人は都市部に集中しているが、安くて豊富な石油の供給が途絶えたらいったいどうなるのだろう。

最初に影響が及ぶのは途上国の都市部の住民であり、すでに現実問題となっている。食料や燃料費の高騰は生死にかかわり、したがって社会不安をもたらし暴動につながる。中国政府などは石油価格に上限を設定しているし、インド、インドネシア、パキスタンなどの政府も補助をすることで過去5年間で6倍にもなった原油の影響を直接国民が受けないよう努めている。しかし現在の原油高騰をみれば、その補助を今後も続けることはどう考えても不可能だ。現に5月末にはインドネシアが石油輸出国機構(OPEC)からの脱退を表明した。生産が減って輸出する余裕がなくなったためである。

ローマで開かれた食糧サミットで福田総理は、途上国への対応として約5千万ドル(約52億円)の資金供与、そして不要なのに無理やり輸入させられて倉庫に眠っていた輸入米30万トンを放出することなどの発表をしたが、真剣に日本のエネルギーと食糧問題に着手していただきたいと切に願う。

これまで、いくつもの優れた古代文明が跡形もなく消えていったことをわれわれは知っている。今目にしているのは、化石燃料の減耗による石油文明時代終焉の始まりだ。巨大都市の崩壊は、われわれが生きている間にはこないかもしれない。しかし確実に、歴史は繰り返される。