No.881 政治家とウォール街

オバマ大統領が、選挙期間中にゴールドマンサックスやシティグループといった金融機関から多額の献金を受けてたことは周知の事実であり、就任以来とっている政策も、まさにそのお返しとしか思えないような行動が多い。

政治家とウォール街

今でもオバマ氏に「チェンジ」を期待する人々は、「オバマ大統領がとっている真の国民のための政策に目を向けるべきだ」と言う。しかしアメリカ一般国民の暮らしは明らかに悪くなっており、それにもかかわらず、人ではなく“経済”の救済が政策の中心であること自体が問題だと私は思っている。

昨年11月、シティグループのトップアナリストが、世界の金融情勢をどうみているかに関する社内メモが明らかにされた。その予測は、金融システムにつぎ込まれた巨額のお金によって、ハイパーインフレが起きるか、または恐慌から動乱になり、戦争に突入するかもしれない、という暗いものだった。さらにこれが起きるのを2009年か2010年と予測していたというのだ。

アメリカの失業率は4月には8.5%と1983年以来最悪になったが、実際はこれを上回る上に、現在職のある人でもリストラにおびえる日々を送っている。この現実の中、大手保険AIGは、政府から約17兆円もの公的支援を受け破綻をまぬがれた。この一件ではAIGの経営幹部に巨額のボーナスが支払われたことに国民の怒りが広がったが、実はもっと大きな問題がある。

それはAIGに投入された政府からの支援金の半分以上が、ゴールドマン・サックスなどのAIGの取引先金融機関に支払われたことだ。支払い先は信用リスクを取引するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の取引先などで、ゴールドマン・サックスだけでも1兆円以上が支払われたという。政府の支援、つまり納税者のお金がAIGから取引先に渡ったのだ。

シティグループのアナリストは、リーマンブラザースの破綻をきっかけに、金融システムのすべてが連鎖的に崩壊することを恐れ、メモに記したのであろう。AIGが破綻していたら、その予測の通りになっていたのかもしれない。なぜならAIGの取引先はゴールドマン・サックスを始め、アメリカ、日本を含む世界の金融大手機関なのだから。

つまり、AIGの救済によって、昨年ブッシュ政権が不良資産救済プログラムとして70兆円投入した先と同じ金融機関が救済されたのだ。そして4月、ゴールドマン・サックスは2009年度第1四半期が黒字決算になったことを発表した。日本と同じくアメリカでも、一般国民がリストラにあえばすべて自己責任だといわれるが、こうして政治家とウォール街は、仲間を守るためにはさまざまな画策を続いているのだ。

今日もオバマ大統領は、国民に痛みを分かち合うようにと演説をする。それは改革には痛みが伴う、といって日本を改悪した小泉政権を思い出させる。そのパフォーマンスで高い人気を得たことも似ているかもしれない。しかしチェンジといいながらアメリカ政府の金庫番がウォール街であることは、変わりないのだ。