No.883 GMは自動車を作るな

アメリカのゼネラル・モーターズ(GM)が破産法の適用を裁判所に申請した。製造業界最大規模の破綻で、オバマ政権は先の200億ドルに次ぎ、さらに300億ドルの追加支援を決定した。

GMは自動車を作るな

かつてGMの社長から後に国防長官になったチャールズ・ウィルソンが、「GMにとって良いことはアメリカにとっても良いことだ」と言ったが、税金を投入しても今までと同じことをするならその延命はなんの解決にもならない。

1930年代、路面電車が発達していたアメリカの45以上の都市で鉄道路線を次々と買収したのはGMであった。買収後、路面電車を廃止してバス路線に変え、その後アメリカが自動車社会に変貌していったことはいうまでもない。GMの戦略は、猛烈な宣伝キャンペーンをすることで消費者に人工的な買い替え欲求を起こさせることだった。自動車は富の象徴で、所得や社会的地位にあわせてブランドを提供し、人々がさらに上を求めることで売上げを増やしていった。

70年代後半、日本車の人気がでるとアメリカの自動車業界は議会を動かして日本に米向け輸出の規制を迫った。そして燃費の悪い大型車を作り続けた。80年代、GMの収益が記録的に上がったのは生産拠点を海外に移転し、多くのアメリカ人の雇用と生活を破壊したからである。今から20年前に見た、GMの工場が閉鎖され荒廃したミシガン州フリントの様子を描いた「ロジャー&ミー」というマイケル・ムーア氏によるドキュメンタリー映画をいまでも覚えているが、GMはアメリカのためでも国民のためでもなく、最初から貪欲な経営者のものだった。

資本主義が正しく機能していれば、経営に失敗した企業は倒産する。事実、膨大な数の中小、零細企業は、その道をたどっている。経営破綻した企業は倒産するのが資本主義のはずなのに、巨大企業にそれが適用されないのは、巨大企業はその富を利用して政府やメディアを買収しているからである。

オバマ政権は、GM破綻の一つの理由が、従業員の年金債務と医療保険給付金だとして、GMの労働者から年金を奪おうとしている。それを使って金融機関への借金を返済するためだ。資本主義で会社が破綻すれば、労働者は職や賃金を失い、株主は株が紙切れになり、債権者は貸したお金を回収できなくなる。法律が労働者に唯一保証しているのは、年金であり、積み立ててきた年金を破綻企業が取り上げることは違法とされている。しかしそれをいま、オバマ政権は法律を曲げて行おうとしている。

破綻したGMに国民の税金が投入され、労働者が職も年金を失い、それでもウォール街の金融機関だけは損をしないのはオバマ政権に企業献金をしているからで、それがアメリカ式資本主義の仕組みなのである。

つぶすには影響が大きすぎると、アメリカ政府は500億ドルをだしてGMを国有化したがGMに未来があるとすれば、マイケル・ムーアがブログで書いたように、石油に依存する環境破壊の自動車の生産を止め、かつてその手で滅ぼされた路面電車の車両を作ることだと私も思う。