No.971 復興は信用創造でなく政府貨幣で

昨年上梓した、『アングロサクソン資本主義の正体~100%マネーで日本経済は復活する』でも述べたが、銀行の「信用創造」という特権をなくし、代わって「政府貨幣」を発行することが、日本の、またアメリカやヨーロッパでも問題になっている国家の財政危機の解決策になると私は思っている。

復興は信用創造でなく政府貨幣で

政府に対する銀行の強い影響力を考えると、それは非現実的なことだと多くの人は考えるだろう。しかし手元にない(準備金として実際に持っていない)お金を貸し出して、それから金利を得られるという銀行の特権は、市場原理によってもたらされたものではなく、「部分準備銀行制度」という名のもとに、政府の法律によって支えられている仕組みであり、政府がこれを撤回するしか、この社会全体に対する不公平を取り除くことはできない。

部分準備銀行制度から政府貨幣へ移行することを提唱しているエコノミストは少なからず存在する。アメリカが債務危機問題にゆれる7月、米民主党のデニス・クシニッチ議員が説明会を開催し、そこで議員に具体的な解決策を提示したのは同志社大学の山口薫教授であった。

日本の財政問題の解決方法も、国債を発行するか、復興のために増税はやむを得ない、といったものばかり論じられているが、アメリカのそれも富裕層の特権を保護し、一般国民への手当てを削減する方法ばかりである。そこで山口教授が提示したのは、貨幣制度の改革であった。

銀行が、手元にあるお金の10倍以上の金額を「貸し付け」ることで貨幣を作りだせるのが現在の貨幣制度である。この制度だと、政府や民間の借金は、天文学的、かつ無限に増える。この結果は、金融メルトダウンか債務不履行か、またはハイパーインフレとなり、それを増税や公務員のリストラ、福祉の削減で解決しようとすれば、経済は麻痺し、失業が増える。国家税収は減少し、さらなる削減が必要という悪循環にはまる。しかし部分準備銀行制度を廃止して政府が貨幣を作り、そのお金を直接国家インフラ構築のために使うと、国債のように借金の必要もなく、またインフラ構築によって雇用の創出がもたらされるのである。

今の貨幣制度は貸し手(銀行)に一方的に有利であり、不公平な所得配分を作り続け、貨幣創造に付随する利子の支払いは、借り手である生産者に環境の許容量を超えるほどの継続的な経済成長を追い求めさせる、と山口教授は米議員の前で語ったという。

私が親しくしているエコノミストのマイケル・ハドソンは、クシニッチ議員のエコノミック・アドバイザーをしており、山口教授のスピーチを教えてくれたのも彼だった。メディアは無視するが、クシニッチ議員のように真に国民のための政策を考えている議員はアメリカにもいるのだ。

わが国の状況を振り返ると、山口教授にはぜひ日本の政治家にも同じ話をして欲しいと願っている。増税や国債ではなく、政府貨幣で震災復興をする、それが公的債務を増やさず日本の未来を構築する唯一の方法なのである。