No.976 ウォールストリート占拠運動(OWS)

昨年12月にチュニジアで起きた民主化運動が世界中に飛び火したかのように、アメリカでは、ニューヨークから始まったウォールストリート占拠運動(Occupy Wall Street)が全国的に勃発し、すでに全米の1200を超える市に広がっている。

ウォールストリート占拠運動(OWS)

テレビや新聞などの報道は、この運動を冷ややかに、あるいは若者たちのうっぷん晴らしにすぎないかのような調子で伝えていたが、1ヶ月以上たった今ではそうはいかなくなってきた。若者を中心にしたこの世界的な動きを、日本のメディアはあまり報じてはいないようだが、これは新しい民主主義の実験のようにも思える。

なぜならこれまでの市民革命運動にみられた指導者が不在であり、労働組合など大組織の後押しもない。あらゆるレベルの若者が参画し、政府に具体的な要求を掲げるでもない。またインターネットが駆使され公式のウェブサイトもある。デモの宿営地にはノートパソコンやビデオ装置を備えたメディアセンターが開設され、最新情報やメッセージはツイッターなどで伝えられている。

そこで配布されているパンフレットには「私たちは99%」と書かれ、1%の富裕層に対して、普通のアメリカ人、若者たちがどのような状況に置かれているかを訴えている。例えば22歳の大学生は、7万ドルの学生ローンと1万2千ドルの医療費を抱えているが、政府は救済してくれない、それなのになぜ銀行は救済されるのか、といった具合だ。これはやらせでもなんでもなく、アメリカの実体であるからこそ参加者が増え続けているのだ。

オバマ大統領はこの運動の原因は共和党のために金融改革が進まないからだとコメントしたが、若者たちはチェンジを唱えながら何も変えなかったオバマをもはや信じてはいない。なぜならオバマこそウォール街から多額の政治献金をもらい、その御礼にウォール街に2009年7500億ドルものお金を提供したからだ(08年にはブッシュが7000億ドル支援した)。ブッシュ、オバマ政権で約140兆円ものお金がウォール街救済のために使われたが、学生ローンや住宅ローンを抱える個人や借金を抱えた中小企業、または個人の医療費負担も、アメリカ政府は助けてはくれない。国民はひたすらそれらの借金を銀行に返済し続けなければならないのだ。

銀行は社会の経済をうまく機能させるための重要な役割を担っている。それは、現在と未来をつなぐ橋のような存在だ。しかし橋は橋だ。預金と投資を社会のために流すという役割を果たさなければその価値はない。ウォールストリートは資金の流れを社会のために使わず、デリバティブやサブプライムローンのような自分と株主だけがもうかるような仕組みに投じた。そして損失を政府に救済してもらった。ウォールストリート占拠運動を始めた人たちが訴えているのはこの点である。

この運動が何かを達成できるか、私にはわからない。しかし国民の大部分が、少数の人間がアメリカの民主主義をのっとったことに気づけば、この小さなうねりは大河のような流れとなってアメリカを変えるかもしれない。期待はしていないが、それでも若者たちを見ていると、もしかしたらという気持ちになる。