No.991 食の原点に戻るべき

TPP(環太平洋連携協定)交渉の参加国であるペルーが、昨年、遺伝子組み換え作物の導入を10年間停止する法律を公布した。これによってペルーでは今後10年間、遺伝子組み換えの植物や動物の輸入、そして遺伝子組み換えにより作られた農畜産物や水産物を栽培、繁殖することが禁じられた。

食の原点に戻るべき

遺伝子組み換え作物については、人体への安全性、生産者からみた種子の支配の問題、そして生物多様性が失われる可能性といった問題が言われている。TPP交渉において、遺伝子組み換え食品についての規制が緩和/撤廃されるのではないかという主張があるが、ペルーではさらにそれを上回る厳しい法律が制定されたことになる。

TPP交渉について、とくにアメリカでは民間企業が強烈な後押しを行っており、先日も穀物メジャーの一つであるカーギル社の幹部が、TPPによってあらゆる意味で自由化がなされるべきであり、撤廃すべき問題として各国が独自の食料安全基準を適用することだというコメントがあった。

つまりこれはもっとも緩い国、おそらくはアメリカの基準を参加国に押し付けるということに他ならない。アメリカでは巨大アグリビジネスからの圧力で、どれだけ農薬や化学肥料を使用しても、加工品であれば原材料が放射線を照射されていても、そして遺伝子操作された作物であっても、それを表示する義務はない。つまりそれらを消費者が避けたいとしても選択肢はないということだ。

それだけではない。アメリカの州のなかには、「食品悪評禁止法」(Food Disparagement Law)という法律がある州がある。この法律は「科学的根拠やデータを証明せずに食品の安全性について悪い評判を立てることを禁じる」というものであり、疑わしい食品であっても科学的データで証明できなければ、その問題を報道機関は報じられないということになる。

スーパーマーケットへ行くと数多くの食料品が並び、われわれにはたくさんの選択肢が与えられているように感じる。しかし実際は、数少ない原材料から、さまざまな技術によって作られた多種類の加工食品があるだけだ。そしてかつてはさまざまな品種の野菜が存在していたが、そうした多様性は過去のものとなった。長い年月をかけて日本の環境に適応しながら生き延びてきた在来種は姿を消し、人工交配によって生まれたF1種の野菜にとって代わったのである。

近代農業では、F1種、農薬、化学肥料はなくてはならないものとなったが、現状をみれば、毎年種子を買わなければならないことから種子の支配と、失われた生物多様性という問題があることはすでに明らかである。利益を手にしているのは大手種子会社であり、さらにこれに遺伝子組み換え種子という安全性の問題も加わろうとしているのだ。

豊かさとは、リンゴやキュウリを一年中食べられることではなく、その季節ごとに、さまざまな種類の野菜や果物を楽しめることだという、食の原点にわれわれは戻るべきだ。そのためにはTPPのような協定が日本に何をもたらすのかを考えるだけでなく、小規模の有機農業、つまり家庭菜園を始めることが、安全で健康な食べ物と多様性を実現する第一歩だと思う。