No.992 ウォール街からの告発

米投資銀行「ゴールドマンサックス」に12年間勤めた幹部がニューヨークタイムズ紙に寄稿した、“私がゴールドマンサックスを辞める理由”という告発文書が、ウォール街を中心にアメリカで話題になった。

ウォール街からの告発

内部告発したのはグレッグ・スミスというエグゼクティブディレクターだった人物で、ゴールドマンサックスは、“これほど腐敗し、破壊的な環境は見たことがない”会社で、そこで出世するには、会社が早く処分したい株や商品を顧客に押し付ける、なんでもいいからとにかく会社に最大の利益をもたらす取引をする顧客を探す、そして現金化しにくく不透明で頭文字3文字のわからない商品を売りつけることだとし、社内では顧客のことを「操り人形」と呼んでいたという激しい内容である。

ゴールドマンサックスのビジネスについては、オリンパスの問題でも関連が指摘されているし、リーマンショックの時でも唯一空売りで儲けたことなど、この告発の内容はそれを裏付けるものだ。ニューヨークタイムズ紙がこのような内部告発を掲載したことはメディアやウォール街にも「良心」が目覚めてきた証しとも思えたが、同業のモルガン・スタンレーではすぐにCEO(最高経営責任者)から、その記事をモルガン・スタンレー社内で回覧しないようにという通達が従業員宛てにあったというから、この業界体質は変わることはないのかもしれない。

ゴールドマンサックスのようなビジネスが成り立つのは、それを利用する人々がいるためだ。具体的には、何かを生産したり、社会や人に役に立つサービスを提供するのではなく、簡単に利益を得ようとすることで、それは競馬やカジノといったギャンブルと変わらない行為である。

実は、私の経営する会社も、本業ではなくギャンブルで利益を上げようとして損失を被った。今年の1月13日、わが社に日本の大手証券会社の一社の営業担当者が訪問し、約2ヶ月後の2012年3月22日に償還が到来するエルピーダメモリ社の社債を1億円買わないかと持ちかけてきた。提示された資料によれば、同社の業容が好転するポテンシャルは十分、というもので、わが社の財務担当者はそれを信じて購入した。そしてわずか6週間後にエルピーダメモリ社は負債額4480億円で破綻、社債はもちろん債務不履行となった。

私個人はこれまでギャンブルをしたことは一度もないし、社会に貢献する労働という形でしか金儲けをしようと思ったことはない。社員に対しても同じことを説いてきたつもりだったが、今回のことで私は、余剰資金があれば貸し金庫か、または政府保証のある銀行口座に置くか、さもなければ日本の国債を買う以外は禁じると、あらためて財務担当者に命じた。

こうした社会に害を及ぼすような行為をなくすには、新規発行以外の株式や債券の売買に課税すればよい。例えば日本では1年間に約420兆円の株式売買が行われているが、新規公開株はそのうちわずか1%にすぎず、400兆円以上は短期的な利益を求めるギャンブルなのだ。

ゴールドマンサックスのやり方がこの業界の標準なら、この大手証券会社も1月時点でエルピーダメモリ社が破綻寸前であると認識しつつ、自分たちの損失を減らすためにわが社に売り込んだのであろう。わが社と同じように、破綻寸前にエルピーダ社の社債を証券会社に勧められて購入した人がいれば、ぜひ私に連絡をしていただければと思う。