No.1001 経営者に巨額報酬必要か

日本で高額納税者公示制度、および法人所得の公示制度が廃止されて久しい。個人情報であるとはいえ、お金のある者が権力を持ち、社会を支配している現実を考えると、公開されることでノブレス・オブリージュ、社会的地位には責任が伴うという自覚につながるといえるかもしれない。

上場企業においては、2010年3月期決算から報酬1億円以上を受けた役員情報を有価証券報告書に記載することが義務付けられるようになった。東京商工リサーチによれば、11年では上場企業3619社が提出し、1億円以上の役員報酬を開示したのは226社、364人、役員報酬総額合計は607億200万円だったという。個人の役員報酬の最高額は日産のカルロス・ゴーン社長で9億8200万円、ついでソニーのハワード・ストリンガー会長の8億8200万円だった。

ソニーは4月には従業員を1万人リストラする方針を発表し、会長らは役員賞与を返上すると発表したが、ストリンガー会長にとっては返上額は手にする報酬のほんの一部にすぎないことは明らかである。このような企業経営者が法人税引き下げやTPPを推進するとしたら、強欲以外のなにものでもない。

企業の収益が上昇し、それによって経営者の報酬が増えるなら納得がいくが、いまでは経営者の報酬を増やすために労働者の給与をカットするのがアメリカのやり方だ。ロイター通信によれば、米キャタピラーのイリノイ州ジョリエット工場では、従業員が会社側からの新たな賃上げ案を拒否し、ストライキに入っている。なぜなら会社側の提示は、賃上げ案といえど、従業員には昇給がない上に年金の削減、健康保険料の値上げなどが含まれているためだという。

赤字に苦しむソニーと違い、キャタピラーの昨年の売り上げは601億ドルと好調で今年も新興国などからの需要増によって増収が見込まれている。同社のCEO(最高経営責任者)オバーヘルマン氏の報酬はそれによって2011年は前年比60%も増えて1690万ドル、13億円を超えている。これにはボーナスや株式オプションが含まれているが、現金だけで490万ドルと4億円近くの年収だ。

CEOだけが高額な報酬を手にし、従業員とその家族はたとえキャタピラーのような優良企業で働いていても医療費の支払いにも苦労するような現実に生きているのが今のアメリカだ。従業員が経営者の1年分の報酬を稼ぐには、何百年間も働かなければならない。これほどの大きなギャップがある社会は健全とは程遠いが、日本もこの経営手法を取り入れてアメリカのような社会に向かいつつある。

経営者に、ここまで巨額の報酬を払う必要がなぜあるのか。もともと長時間、一生懸命働く人間だけが企業経営という責任を負えるのである。企業になくてはならないのは誠実に働く従業員と、企業の製品やサービスを購入することのできる消費者と安定した社会だということを忘れてはならない。経営者が自分の報酬や企業の利益という枠の中だけでなく、社会や国家の在り方に目を向ける必要性がいまほど求められているときはないと思う。