今年も4月に高校や大学を卒業した人々が新しく社会人の仲間入りをした。2月ごろに政府が発表した数字では、この春の大学生の就職内定率は8割強だったという。つまり2割弱の学生は希望通りの就職ができなかったということになる。
日本のような資本主義国家で雇用を提供するのは民間企業である。企業の生産量が増えれば雇用は増えるが、生産性が上がればより少ない労働力で同じ量を生産できる。また安倍政権が進めるインフレ誘導や消費税増税などの政策も、国民の消費を減退させ、したがって生産も雇用も増えることはないだろう。これが今の日本の労働事情である。
これよりも厳しい状況にあるのがアメリカだ。アメリカの大学生の多くは「学生ローン」で大学にいくからである。ニューヨーク連銀によれば2012年、25歳の若者の43%が学生ローンを抱えているという。
アメリカの学生ローンはおよそ1兆ドル(95兆円)で、うち17%が90日以上の長期延滞となっているという。日本よりも若年失業率の高いアメリカでは大学を卒業しても借金を返済できる仕事がみつからないためだ。
学生ローンはいまやアメリカの銀行にとって住宅ローンに次ぐ融資ビジネスである。しかし50年前はそうではなかった。教育は道路や上下水道のような公共サービスだとみなされて、公共サービスが安く提供されれば生活費は安くなり、またビジネスのコストも少なくてすむ。企業は高い教育を受けた若者を安く雇い入れることができ、それによってアメリカという国家の国際競争力も強くなった。また一般の人々にとって、大学は良い仕事を得て中流階級に入る、アメリカンドリームの入り口でもあった。
しかし過去30年間でアメリカの教育システムは完全に営利目的に変わった。シカゴ大学のような名門私立大学は10万円以下だった年間授業料が今では500万円近い。4年間ではなく1年の学費が500万円だ。仕事のない学生は高額な学費が払えないのでローンで大学に行くしかないが、よい仕事が見つからなければ卒業証書とともに残るは借金だけである。親の家に住み続け、結婚をすることも自分の家を買うことももちろんできない。
この学生ローンの滞納についてウォールストリートジャーナル紙が問題にしているのは、職につけない学生ではなく、貸し手である銀行がいかにそれを回収するかということだ。ローン残高が増えれば消費や不動産市場の停滞など経済全体に悪影響を及ぼすからだ。仕事がないのは、企業経営者が利益のために製造業を安い労働者のいる海外に移転してしまったことが大きな原因であるのに、これではあたかも借金を返せない学生だけが悪いかのようだ。
急速に進んだ新自由主義によって、アメリカの教育システムは銀行のビジネスに組み込まれた。そしてそれが大学をでてもサービス業のような仕事にしかつけない、出口の見えない厳しい就職氷河期をアメリカにもたらした。それが安倍政権が追随するアメリカの真の姿なのである。
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