No. 1061 アベノミクス理論とは

11月に発表された9月中間期決算によると、大手銀行のうちメガバンク3行は増収増益となり、前年同期比で利益が大きく伸びる好決算となった。各社の経営陣は、株高、円安というアベノミクスの成果が有効に機能した、と語ったという。

アベノミクスは基本的に、富裕層や大企業にお金を回せば彼らがお金を使い、結果として日本経済が活性化するという考え方である。これは新自由主義の提唱する、「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が浸透(トリクルダウン)する」というトリクルダウン理論と呼ばれ、これを実行したのがアメリカのレーガン大統領のレーガノミクスであった。

しかし、それで高級ブランド製品やスポーツカーの売れ行きがよくなったとしても、日本経済の大部分を支えているのは一般の勤労者であり、給料は上がらないのにインフレで物価は徐々に上がっている現状においては、幅広い側面からみて経済が回復することはありえない。

銀行だけでなく、輸出企業もアベノミクスの円安のおかげで大幅な利益増となった。トヨタやホンダといった自動車大手もそうだが、しかしそれも日本経済復活にはつながらない。例えばホンダとマツダは工場の新設や拡張を発表したが、それは日本国内ではなく、タイやメキシコで実施される。実際、国内における民間企業による設備投資は少しも増えていないのだ。

国内の製造業投資が縮小し、国内工場を閉鎖して海外生産に移転するということは、国内で雇用が削減し、ますます日本経済が悪化するということである。2011年以降、自動車各社だけでなくパナソニックやシャープなども大幅な雇用削減を行った。つまり大企業は、国内に新たな設備投資をするのではなく、日本に見切りをつけて海外の労賃の安い国へ移っているのだ。

アメリカの経済学者ポール・クルーグマンは、「アベノミクスは目覚ましい結果を出している、世界のモデルになる」とニューヨーク・タイムズのコラムで評価したが、何のモデルになるというのか。雇用を減らし一般国民を貧しくし、一部の人々をさらに富ませて貧富の格差を押し広げることが為政者の役割だとでもいうのだろうか。

今年4月以降、アベノミクスにより日銀は民間銀行から国債を購入し続けている。しかし民間銀行は国債を売って手にしたお金を貸し付ける先がない。銀行からお金を借りて設備投資をして生産を増やす企業はないのである。だから日銀が国債を買っても、お金は市中に出回らずに民間銀行の日銀の口座に入ったままだ。いくら量的緩和政策をとっても実体経済への影響はないのである。

さらに安倍内閣は大企業に大盤振る舞いを続ける。資本金1億円超の大企業を対象に、接待などに使う交際費の一部を経費として認め、非課税とする制度の概要を固めた。消費税増税による景気の落ち込みを防ぐために、企業が交際費を使いやすくするためだという。大企業に限り、交際費を年間1億円使えば、5千万円まで経費と認められるというのだ。まさにトリクルダウン理論なのだろうが、これで貧富の格差が広がることだけはまちがいない。