No. 1172 米国民の間に深い溝

トランプ氏が勝利したアメリカの大統領選挙では、当初からクリントン氏の勝利は確定という報道に対して、トランプ氏陣営は投票結果が信頼できない、つまり不正選挙の疑いがあると主張してきた。

アメリカの選挙では、ブッシュ大統領が接戦で当選した2000年にも集計過程に疑惑があるとしてゴア候補が票の数え直しを訴えるなど、不正疑惑が持ち上がっている。この時に投票の電子化が推進されたが、専門家たちからは電子式の方が、改ざんが容易にできるとの声があがったものの、一部の州で電子投票システムの導入が進んだ。ちなみにイギリスの欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票では、電子投票による不正を防止するために投票用紙での投票が行われボランティアの手によって集計されたという。アメリカでは不正の危険性を指摘されながらも手だてがなされることはなかった。

トランプ氏は期日前投票の段階から不正投票を警告してきた。メディアもクリントン陣営もトランプ氏の発言を無視してきたが、ロシア政府は10月にアメリカに選挙監視団の派遣を申し出ていたという。選挙監視団とは、発展途上国などの権威主義的な政治体制において政権担当者が選挙で不正を行う可能性があるとして、選挙が正しく実施されるように監視する目的で国外から来る団体のことだが、アメリカはもちろんそれを拒否したという。

ところが一部の州で票数が不正に操作されたり、コンピューター・システムへの不正侵入があった可能性を専門家らが指摘しているとCNNが報じた。電子投票システムを使った一部の郡で有権者の投票率が低かったことを踏まえ、投票システムがハッキングを受けていた可能性があるというのだ。そして11月25日には緑の党から立候補したジル・スタイン氏がウィスコンシン州の票の再集計を申し立てた。

振り返ると、民主党は候補指名を決める予備選挙でもトラブルが多発した。バーニー・サンダース氏に対しクリントン氏が僅差で勝利したケンタッキー州の予備選挙では、不正があったとしてサンダース氏は全ての投票マシンと不在者投票について、完全なチェックと再集計を要請していた。サンダース氏は予備選挙で若者たちから熱狂的に支持され、ニューハンプシャー州の予備選挙ではクリントン氏に大差をつけて圧勝した。民主党が政権を取れなかったのは、クリントン氏を大統領候補にしたためだったのかもしれない。

緑の党の再集計要求は、トランプ氏の大統領就任を阻むためと考えられなくもない。なぜなら12月19日の選挙人投票で過半数270人の支持を得なければ大統領には就任できないのだが、それまでに再集計が終わらなければ、トランプ氏が過半数を獲得しない可能性もあるからだ。しかし、そうなればトランプ氏の支持者は納得しないだろう。(19日、選挙結果がひっくり返ることなくトランプ氏は正式に当選した。)

アメリカ大統領選挙は、世界の国々に軍隊を派遣し民主主義を押し付けている国で投票数操作という不正選挙が行われているということを世界に知らしめた。選挙期間中に見られた激しいトランプ氏たたきは今も続いている。今明らかなのは、誰が大統領に就任しようとアメリカ国民の間に深い溝ができてしまったということだ。