No. 1219 米国主導から多極世界へ

4月27日、韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、冷戦終結後も分断されていた朝鮮半島の北と南の政府が再統一に取り組む「板門店宣言」に署名した。

米トランプ大統領は北朝鮮に対する圧力を最大限まで高めることで核兵器を放棄させると主張し、それに合わせて安倍総理も圧力をかけると言い続けてきた。河野外相は他国にも北朝鮮と国交断絶をすることを呼び掛けた。ところが平昌オリンピックあたりから南北の協力と和解の雰囲気が醸成され、板門店での会談が実現し、朝鮮半島の完全な非核化と1953年から休戦状態にある朝鮮戦争を年内に終わらせるという合意に至ったのである。

これをもたらしたのは日米の圧力などではなく「対話」ではなかったかと思う。3月25日から4日間、金氏は中国を訪問し習国家主席と会談した。北朝鮮の非核化と朝鮮半島の平和と安定を守るために韓国との対話を通じて問題を解決することを中国は提案したのである。

昨年2月、中国は核実験に対する国連安保理の制裁決議に基づき、北朝鮮からの石炭の輸入を停止した。最大の貿易相手国である中国の経済制裁は北朝鮮にとって死活問題であり、さらに北朝鮮は慢性的な食糧不足で、国連の報告書によれば2016年に人口約2490万人のうち1050万人が栄養不足にあるという。

核開発に反対してきた中国は北朝鮮に、非核化か、制裁によるさらなる困窮のどちらを取るかを迫ったのではないか。実際、金氏と習国家主席がどのような話をしたか詳しい報道はないが、朝鮮半島情勢が金氏の思惑だけで変わるはずはない。

北朝鮮に懐疑的な人々は、核開発をしないという金氏の言葉は今回も信頼できないと言うかもしれないが、私はそうは思わない。核を持たなければリビアのカダフィのように米国から攻撃されるとして核開発に固執していた金氏が方針を転換したのは、中国とおそらくはロシアの存在があるだろう。米国が攻撃したら中国(ロシア)が北朝鮮を守るという約束をしたのかもしれない。保障がなければ金氏が非核化に同意することは考えにくく、その保障を得たために核の代わりに平和を構築することに合意したのだと思う。

北朝鮮の目的は軍事大国になることではない。板門店宣言では「南北は民族経済の均衡の取れた発展と共同繁栄を成し遂げるため、最初のステップとして分断された鉄道と道路を連結し現代化して活用するための実践的な対策を取っていく」と記している。これは昨年、ウラジオストクで開かれた東方経済フォーラムの草案とも合致する。

ロシア、中国、日本、南北朝鮮が互いの発展と繁栄のために貿易障壁をなくした経済圏を確立する。そしてそれは中国が主導する「一帯一路」構想に組み込まれるのである。北朝鮮はこのユーラシア大陸の開発プロジェクトに参加するために核兵器を破棄する準備があると思う。朝鮮半島の平和は、米国主導から多極世界への移行の始まりを象徴する出来事となるだろう。