No. 1231 米国から「中国の世紀」へ

米国が政治的超大国として世界の覇権を握った20世紀は「米国の世紀」と呼ばれることがある。特にその名称を好むのは米国人自身で、実際それを一般的にしたのは米国の雑誌「タイム」の創業者であるヘンリー・ルース氏だと言われている。

「タイム」は米国で1923年に創刊された世界初のニュース雑誌である。後にビジネス雑誌「フォーチュン」、写真雑誌「ライフ」なども創刊し、1960年代半ばには世界最大の雑誌社に成長した。1941年2月、ルース氏は「ライフ」の社説に、米国は孤立主義をやめて「善きサマリア人」となって世界に民主主義を広めよう、そして民主主義的価値観を守るために第2次大戦に参戦し、20世紀を偉大なる米国の世紀にしようと呼び掛けたという。そして同年12月の真珠湾攻撃は、米国が信じる世界への責任を果たす絶好の機会を与えた。

1945年、日本への原爆投下で第2次大戦は終焉した。しかし戦後米国が行ってきたのは善きサマリア人、すなわち困っている人に手を差し伸べるという行為ではなく、50年代の朝鮮戦争、60年代のベトナム戦争、90年代は湾岸戦争からソマリアやボスニアなどへの爆撃だった。21世紀に入って「9.11」の同時多発テロが起きてからはアフガニスタンを攻撃し、テロとの戦いだとして先制攻撃を明言し、攻撃をし続けている。その戦争にかかる莫大な軍事費が米国を内部からむしばみ、米国の国力は後退していった。

戦争に加え、20世紀後半から米国の衰退が急速に進んだ理由は、労働者を国際的な競争の海に放り込んだことだ。グローバリゼーションにより企業は生産拠点を人件費の安い中国などへ移転し、仕事を失った労働者の生活水準は大きく下がっていった。その一方で経営者や投資家は過去に例のないほどのお金を手に入れ、貧富の格差がこれまでにないほど拡大したのである。

そんな米国を方向転換させるために国民が選んだのが「米国第一主義」を掲げたトランプ大統領だった。TPPなど国際協調主義から撤退し、外交は単独行動主義をとり、米国に利益があると判断すれば、役に立つと考えた国との関係を強化していく。

米国の雇用を取り戻すために中国には貿易戦争を仕掛け、「一帯一路」に対抗する「インド太平洋経済ビジョンプログラム」という政策を発表し1億1300万ドルを拠出すると発表した。しかしその金額は中国の一帯一路への投資額からみれば微々たるものにすぎず、競争にすらならないだろう。

中国は購買力平価で見たGDPではすでに米国を追い越して世界1位となり、21世紀は中国の世紀になることはもはや疑う余地はない。ルース氏は宣教師だった父親と共に子供のころ中国で暮らしていた。父親は強い宗教心と米国への愛国心から中国人にキリスト教の「福音」を広めたという。ルース氏はその経験からメディアを使って米国の力を宣教師のように広めようとしたのかもしれない。今の米国の現状を見たらルース氏はなんと言うだろうか。