No. 1246 米大統領が一般教書演説

メキシコ国境の壁建設をめぐる予算案の成立を阻まれて政府機関の一部が閉鎖されていた米国で2月5日、ようやくトランプ大統領が一般教書演説を行った。

これは大統領が憲法の規定に基づいて連邦議会に「国の状況」を報告し、今後1年間の施政方針を表明する演説である。米国ではテレビやインターネットでも中継もされ、1時間半近い演説の中で何度も議員が起立して拍手喝采するなど、2年後のトランプ氏再選がほぼ確実な情勢をうかがわせた。

内容はメキシコ国境間の壁建設や国民の団結などに始まって多岐にわたり、中国との貿易問題については米国の雇用を守るために不公平な貿易慣行を修正することの必要性を強調した。選挙スローガンだった「Make America Great Again(米国を再び偉大に)」は一度も出なかったが、自国第一主義に基づく政策方針に変化は見られなかった。

また、ベネズエラ情勢に言及し、「社会主義が国を貧困と絶望に陥れた」と述べ、「米国は社会主義国にならない、自由であり続ける」と訴えると議員から大きな拍手が起きた。

この社会主義に対するトランプ大統領の発言は今後の世界情勢の成り行きを示唆している。米国とユーラシアの対立である。世界最大の石油埋蔵量を持つベネズエラを支配下に置きたい米国は、政府機関を通してベネズエラの反政府系の学生運動を資金面で支援し、また主要産業である石油産業への経済制裁を強めたため、ベネズエラ国民は困窮に陥った。そのベネズエラ政府を支持しているのがロシアや中国政府であり、またイランや北朝鮮なども支持を表明しているのである。

トランプ政権になって分裂している米国議会を統一するためにトランプ大統領が使ったこの「社会主義」と「自由の米国」の対比は、新しい世界秩序構築のための米国の戦略ともいえる。米国にとって、KGB出身のプーチンが率いるロシア、一党支配の中国、中東における対米強硬外交を展開するイランは永遠の敵なのだ。そして今それらユーラシアの国々は一つの大きな経済圏として融合しつつある。

ロシア経済は中国の10分の1に過ぎないが、両国は米ドルを迂回した貿易を拡大し、合同軍事演習を行うなどイデオロギー的な違いを超えて共生関係を築きつつある。ロシアの軍事産業は世界2位であり2017年の武器売上高の総額に占めるロシア企業の割合は9.5%を占める。中国はロシアから軍事産業でのノウハウが必要だ。中国、ロシア、そしてイランの敵はといえば武器売上高57%で世界第1位の米国しかない。

社会主義を標榜し市場経済を排除したソ連は1991年に崩壊した。トランプ大統領の一般教書演説はソ連のようにはならないという宣言にもとれるが、プーチン大統領になってわずか20年足らずでロシアは米国を上回る最新兵器を持つ国になり、中国やイランと共にユーラシア市場を統合しつつある。トランプ大統領はその発展を妨げることにエネルギーを注ぐのだろう。米国を再び偉大にするために。