No. 1257 葬った「2千万試算」報告書

金融庁の金融審議会が発表した「高齢社会における資産形成・管理」の報告書において、95歳まで生きると夫婦で2千万円が必要との試算が示された。これに対して麻生金融相は「正式な報告書として受け取らない」と撤回を求め、金融庁は配慮を欠いた対応だったと即座に謝罪した。

日本は超が付く高齢社会である。総人口が減る一方で高齢者(65歳以上)は増え続け、総人口の27%以上が高齢者と、世界で最も割合が多い。したがって以前から年金や医療費の増大という社会保障費の観点から問題視されてきた。

政府がなかったことにしたこの報告書は金融庁のホームページで読むことができる。そこには、若いうちから資産形成を始めて積み立てNISA(少額からの投資)やiDeCo(個人型確定拠出年金)を活用しながら年金受給をするようにとあり、現役で働く期間を延ばすだけでなく、高齢者にもっと投資をさせる、さらには高齢になると認知・判断能力の低下・喪失が起こるので金融サービスもそれに応じた対応が必要といったことなどが記されている。

大学教授や金融機関関係者が財務省や日銀、厚生労働省をオブザーバーとして(お金を使わない)高齢者にもっと投資をさせようという主旨の報告書であると私には受け取られたが、国の年金だけでは生活できないから老後に2千万円必要という部分だけが強調されて問題になった。

年金の減額を懸念する声が出るのも無理はない。国民年金や厚生年金の積立金の運用を行っているGPIFは2018年10月~12月期の運用実績で14兆8千億円もの運用損を出したことがわかっている。約150兆円を運用しているから、その1割近くを失ったことになる。もちろん元本は残っているのでこれで即年金制度が破綻するわけではない。しかし国内、海外の株式で14兆円も損失を出したという事実は、年金をこのような高リスクを伴う資産で運用すること自体が問われるべきだと思う。しかし金融庁の報告書はGPIFだけでなく個人にもリスクの高い投資を勧めるものだった。

元々GPIFは低リスクの国内債券を中心に運用を行ってきたが、安倍政権は2014年10月から国内債券の割合を60%から35%に減らし、リスクの高い株式投資の割合を24%から50%に引き上げた。この年金資金の投入はアベノミクスの株高を演出したとも言ってよい。そして安倍首相が提唱する「人生100年時代構想」や「70歳まで定年延長」の方針は、70歳までを労働人口に組み込み、年金支給開始年齢をそれまで遅らせたいとする政府の意向ともとれる。

2014年、安倍政権は消費税を8%に引き上げた際、引き上げ分は全額社会保障の充実に使うと訴えたが実際、社会保障費は削減された。政府はF35戦闘機を大量購入するだけでなく年金や国民の生活資金まで米国金融資本に差し出そうとしているのか。報告書を葬るのではなく冷静な議論が求められる。

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