No. 1287 旭日大綬章受章のゲイツ氏

政府は4月、春の叙勲受章者を発表し、外国人叙勲として米マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏に旭日大綬章が贈られた。「保健分野における日本の国際貢献の向上に寄与」がその理由であるという。

ゲイツ氏は2000年に妻と共に慈善基金団体、ビル&メリンダ・ゲイツ財団を設立し、今年3月にはマイクロソフトの取締役会を退任し、慈善事業に専念することを発表していた。ゲイツ氏への授章は、日本政府と国内外の製薬会社との官民ファンドである「GHIT Fund」への多額の寄付に対する御礼かもしれない。

世界の製薬会社が新型コロナウイルスのワクチン開発に取り組んでいる。WHOによれば約50のワクチンが開発されているところだといい、ゲイツ氏の財団はWHOやファンド、製薬会社などに幅広い資金提供を行っている。ワクチンの安全性や有効性を確かめるためには通常、臨床試験に1年以上かかるが、官民提携により開発を早めており、ゲイツ氏も自身のブログ「Gates Notes」に、ワクチンができるまで通常の生活は戻らないだろう、しかし良いニュースは最短9カ月でコロナワクチンを開発できる可能性があると記した。

ゲイツ氏はコロナウイルスのワクチン開発に積極的に投資をしている。さらに何年も前から、いずれパンデミックが起きるが、我々は準備ができていないとさまざまな場で警告を発してきた。中国で新型コロナが発生するわずか数カ月前にも、パンデミックが起きることを予測してシミュレーションを行っていた。新型コロナの発生は長年進まなかった新しいワクチンの開発を一気に前進させたといえる。

たとえばゲイツ氏が10年以上投資をしてきた米バイオテクノロジー会社のモデルナは株価が急騰した。同社が開発しているのはウイルスのメッセンジャーRNAを使うワクチンだが、遺伝子工学によるワクチンの安全性や有効性に警鐘を鳴らす科学者もあり、モデルナの自社製品はこれまで販売に至ったことがなかった。それにもかかわらず新型コロナワクチンでは、モデルナは動物実験をせずにすでに人間で臨床試験を行っているのである。

ワクチンが完成すれば、ゲイツ氏が次に推進するのはワクチン接種活動だろう。ワクチン接種証明書を発行し、それが無い人は飛行機に乗ることができないようにすることも提案している。医師でも感染症の専門家でもないゲイツ氏が保健分野において国家の政策にまで関与するのは、慈善事業団体である彼の財団が保健衛生分野に毎年40億ドル(およそ4400億円)超を拠出しているからに他ならない。

ポリオのようにワクチン導入で流行がおさまった感染病もある。しかし全てのワクチンが安全で効果的なわけではなく、特定の人に有効だからといって政府が全国民にワクチンを強制することは正当化されるべきではない。いくら勲章受章者の提案だとしても、ワクチン接種証明書を持たない個人を隔離するような政策を日本政府がとることがないよう、国民はしっかり見守る必要がある。