No. 1288 ベーシックインカム

政府は4月末に公表した月例経済報告で、新型コロナの感染拡大により景気は急速に悪化し、極めて厳しい状況にあるとの判断を示した。

「悪化」という言葉が出たのはリーマン・ショック以来初めてということだが、悪影響は2009年をはるかに上回るだろう。休業要請と外出自粛で消費やサプライチェーンを含めあらゆる分野に影響が及んでいる。しかし本当は日本の経済は新型コロナ発生前から弱っていた。昨年10月に消費税率が増税されたためである。昨年は集中豪雨や大きな台風もさまざまな地方を襲い、災害から復興の目途も立たない中で消費税が増税され、また一方で2019年の実質賃金は前年比マイナス0.9%だったからである。

1989年4月、3%の消費税が導入されてから日本経済の動きは鈍化した。消費は景気を大きく左右するからだ。消費税は「逆進税」で、所得が少なければその大部分を消費に回さざるを得ず、一方でお金持ちが消費に使う金額はその所得や資産の一部で、富裕層ほど所得に占める消費の割合は小さくなる。その逆進性ゆえに消費者の購買力が下がれば経済が停滞するのは当然のことなのである。

しかし消費税を増税する一方で政府は所得税と法人税を減税し、消費税税収のほとんどは減税分の補填に使われた。消費税は税金の負担をお金持ちから国民の大部分に当たる中流と貧しい世帯に移転し、その結果、日本社会における貧富の格差はさらに大きくなった。新型コロナで景気が悪化すると分かっているなら、消費税は即刻撤廃し、税収の減少分は、所得税、法人税、相続税を日本が経済的に成功していた昭和の高度成長期時代の累進課税率に戻すべきだろう。

新型コロナは国境を越えて広まったが、国によって対策は異なっている。中国、台湾、韓国などが比較的うまく感染症を抑制できたのは、過去にSASRSやMERSの流行を経験していたからであるし、中国が封じ込めに成功したのは一党独裁で実体経済やインフラの多くが国営のため、リソースの割り当てが簡単にできるからだ。しかし民主主義国家はそうはいかない。外出制限をかければ経済活動が停滞し景気が悪化する。日本では2019年に約2万人の自殺者のうち3千人以上が経済的問題を理由に命を絶っている。

政府は10万円の一律給付を発表したが、長引く自粛でさまざまな業界の多くの人の生活が脅かされている中で、継続的な支援は必須である。今こそ全国民に最低限の所得を保障する「ベーシック・インカム」を導入するときではないだろうか。スペインは貧困層に対してベーシック・インカム導入を検討していると発表したし、休業や失業した人へ現金給付を実施する予定のイギリスでもベーシック・インカムを検討しているという。

いつまで続くか分からない感染症の恐怖に失業が加われば免疫力はさらに低下する。感染防止策としての自粛はお金に余裕のある人にとってはよい施策かもしれないが、十分な給付や補償のないままの自粛ではウイルスよりも絶望が人を殺すことになりかねないだろう。