No. 1338 大ユーラシア:世界秩序を変えるSCO

9月の世界的に大きな出来事といえばイランが「上海協力機構(SCO)」に正式加盟したことである。アフガニスタンの隣、タジキスタンで開催されたSCOの20周年記念サミットで、イランの正式加盟に向けた手続き開始が決まった。中国とロシアが主導するSCOにイランが加わることでは強力な「対米同盟」ができあがるのだ。

イランは2005年にSCOの準加盟国となったが、核開発を巡る問題などから正式加盟は先送りされてきた。今回の加盟でイランは各国との経済協力関係を強め、米国の制裁の影響を軽減していくことになるだろう。SCOは経済面だけでなくイスラム過激派対策などで軍事的な協力関係を築いている。合同演習もおこなっており、これにより中国とロシアは軍事面でも対米圧力を強めることになる。

イランの参加で加盟国が9カ国となったSCOは、アフガニスタンの復興とユーラシア大陸の統合に注力していくことをロシアと中国のリーダーが高らかに宣言したのである。ロシアのプーチン大統領は、SCOとユーラシア経済連合は、ASEANと中国のBRI(一帯一路)をカバーする大ユーラシア・パートナーシップを確立するというロシアの考えを推進するための覚書を締結したことを発表した。イランの参加によりユーラシア大陸の全ての統合経路が、新たな世界の地政学的パラダイムに向かってまとまり始めたのである。西側、とくにアフガニスタンから撤退直後の米国にとっては更なる打撃だ。中国の習主席も同様にBRIとユーラシア経済連合の補完関係を強調し、真の多国間主義者による南半球宣言をまとめた。カザフスタンのトカエフ大統領は、SCOが地域のマクロ経済の発展を進めるべきだと述べた。これはSCOが米ドルを使わず、地域の通貨を使って貿易を行おうとしているということだ。

もちろんすべてがスムーズだったわけではない。例えば、インドのジャイシャンカール外務大臣と中国の王毅外相の二国間協議では、ジャイシャンカールは、中国は第三国のレンズを通してインドとの関係を見るべきではないと述べ、インドは「いかなる文明の衝突理論にも賛成しない」と強調した。しかしインドはその翌週には第三国(米国)がワシントンDCで主催する米日豪印4カ国「クアッド」に参加することを考えると、それはかなり難しい話だ。

パキスタンのイムラン・カーン首相は、イラン、ベラルーシ、ウズベキスタン、カザフスタンの大統領とそれぞれ会談した。パキスタンの公式見解はアフガニスタンは見捨てるべきではなく、関与すべきだというもので、これについてロシアのバフチヤー・カーキモフ大統領特使(SCO担当)が、アフガニスタンSCOに加盟しないのは「現段階では、すべての加盟国が、アフガニスタンに一般的に認められた合法的な政府が誕生するまでは、招待する理由がないと理解している」と説明した。これはSCOの主要なメンバーであるロシア、中国、パキスタン、イランの外務大臣による四者会談につながるだろう。

パキスタンのクレシ外相は「我々は、アフガニスタンのすべてのグループが政府に含まれるかどうかを監視している」と言った。今後アフガニスタンに関するSCOの戦略をパキスタンが調整し、タジク、ウズベク、ハザラの上級指導者とタリバンの交渉を仲介してアフガニスタンは最終的にはSCO加盟国に認められるようになるだろう。

イランとインドにとって特に重要なのは、イランのチャバハル港の将来である。アラビア海に面しパキスタン国境に近いイランのチャバハル港はインドと欧州を陸と海で結ぶシルクロード構想の一部である。チャバハル港が地政学的に成功するかどうかは、これまで以上にアフガニスタンの安定にかかっている。イランの関心事はロシア・中国主導のSCOの思惑と完全に一致するのである。

SCOのドゥシャンベ宣言でアフガニスタンについて綴られた内容は非常に明快だった。

  1. アフガニスタンは、テロ、戦争、麻薬のない、独立した、中立の、統一された、民主的で平和な国家であるべきである。
  2. アフガニスタンでは、アフガニスタン社会のすべての民族、宗教、政治的グループの代表者による包括的な政府を持つことが重要である。
  3. SCO加盟国は、地域および近隣諸国がアフガニスタン難民に長年にわたって提供してきた歓待と効果的な支援の意義を強調し、国際社会が彼らの尊厳ある安全で持続可能な祖国への帰還を促進するために積極的な努力を行うことが重要であると考える。

不可能な夢のように聞こえるかもしれないが、これがロシア、中国、イラン、インド、パキスタン、そして中央アジアの国の統一メッセージなのだ。

中国の一帯一路構想は、習主席が2013年にカザフスタンでのSCOサミットで提言、1か月後にジャカルタで開かれたAPEC会議で正式に発表したものである。SCOは2019年のキルギスサミットで、テロ組織や分離独立運動など、加盟国に脅威を与える勢力に協力して対抗する長期善隣友好協力条約など8条約に調印した。ワシントンやEUからは単なる話し合いの場に過ぎないとみられていたが、SCOはテロリズム、分離主義、過激主義という「3つの悪の勢力」と戦うという当初の任務を超え、すでに政治や地政学をも包含するものとなっていたのである。

2013年に、習(中国)-プーチン(ロシア)-ローハニ(イラン)の三者会談が行われ、中国はイランの平和的な核開発を全面的に支持することを表明した。これは国連常任理事国が締結したイラン核合意の2年前のことである。また当時から、シリアに関して中国・ロシア・イランの共通戦線が存在していた。 中国の新疆はユーラシアをつなぐ重要な拠点であり、カザフスタンの石油、トルクメニスタンのガスなどのパイプラインが中国の戦略の中心だった。

習主席はこれまでも多国間主義が単独主義に必ず打ち勝つと主張してきたが、SCOはまさに21世紀の多国間主義の優れた例であり、発展途上国の発言力を高める上で重要な役割を果たすことになるのである。

ロシアのウラジオストクで9月上旬に開催された東方経済フォーラム(EEF)の直後にSCOサミットが開催されたことも戦略的にきわめて重要だろう。EEFはロシアとアジアの相互接続を促すもので、日本も参加しており、ロシアを経由してアジアとヨーロッパを結ぶ物流回廊なのだ。

プーチンが基調講演でこれこそが「大ユーラシア・パートナーシップ」だと示唆した:ユーラシア経済連合(EAEU)、一帯一路、インドのSCO参画、ASEAN、そして今回のイランと、「主権者の意思決定センター」によって運営される、調和のとれたネットワークの中で発展していくからだ。

つまり、一帯一路が道教的な「人類の未来を共有する共同体」を提案しているとすれば、ロシアのプロジェクトは概念的には文明の対話と主権的な経済・政治プロジェクトを提案している。そして両者はまさに補完関係にある。

ノルウェー南東部大学の教授で、雑誌『Russia in Global Affairs』の編集者でもあるグレン・ディーセンは、このプロセスを深く分析している数少ない学者の一人である。彼の最新の著書『Europe as the Western Peninsula of Greater Eurasia: Geoeconomic Regions in a Multipolar World』(大ユーラシアの西の半島としてのヨーロッパ:多極化する世界における地政学的地域)はタイトルがすべてを語っている。西欧と北米の政治・経済・軍事における協調政策で目的は参加国の安全保障および共通の価値観である「民主主義、個人の自由、法の支配」を守ること、とされる「大西洋主義」の奴隷で大ユーラシアの可能性を把握できないEUの官僚たちが真の戦略的自治を行使するかどうかは定かではない。

ディーセンは著書でロシアと中国の戦略の類似性を詳細に説明している。中国は、「『中国2025計画』による技術的リーダーシップ、1兆ドル規模の『一帯一路構想』による新たな輸送回廊、銀行や決済システム、人民元の国際化などの新たな金融手段を確立することで、三本柱の地政学的イニシアチブを追求している」と指摘し、ロシアも同様に、デジタル分野をはじめとする技術的主権、北極圏を通る北海ルートなどの新しい輸送回廊、そして主に新しい金融商品を追求している。」

グローバルサウス(いわゆる発展途上国)は米国とその一方的なルールベースの秩序が急速に衰えていることに驚きながらも、タジキスタンでのSCOサミットが示した「主権国家が対等な多極的な大ユーラシア」を受け入れる準備ができたようである。

出所:https://thecradle.co/Article/Analysis/2104