No. 1592 原油削減:米国外交政策における最悪の事態

Oil cuts: A perfect storm in US foreign policy

バイデン政権の産油国とのお粗末な取引は、西側諸国にとって政治的・経済的に大きな影響を及ぼすだろう。

by MK Bhadrakumar

優れた外交政策は国策の反映であるという古い格言がある。その意味で、10月5日のOPECによる日量200万バレルの原油減産{1}の決定を契機に、米国の外交面では最悪の事態が起きている。

これによって一方では国内消費者のガソリン価格の上昇を招き、他方では、米政権の偏った外交政策の優先順位を暴露することになるだろう。

最も明白なレベルでは、OPECの動きは、米国が産油国カルテルに対する影響力を失ったという考えを裏付けている。これは、ジョー・バイデン大統領時代に米国とサウジアラビアの関係が悪化したことに起因するとされている。しかし根本的には、米国の利益と産油国の利益との間に矛盾が生じたのである。

石油外交

とはいえ、石油をめぐる地政学に矛盾はつきものである。1970年代と1980年代には、2つの大きな「石油危機」があった。一つは人為的なものであり、もう一つは歴史的な力の交錯であった。1973年のヨム・キプール戦争と1979年のイラン・イスラム革命である。 前者は、アラブ諸国が石油を武器化し、イスラエルを支援したとみなされた欧米諸国に対して石油禁輸を宣言した。

その結果、石油価格は半年足らずの間に300%近くも上昇し、世界経済を破綻させた。米国ではニクソン大統領がガソリンスタンドに対して、土曜日の夜から月曜日の朝までガソリンを販売しないように要請し、一般消費者よりも業界に大きな影響を与えた。

1979年、イラン革命により石油生産率が低下し、世界の石油供給量は4%縮小した。パニックに陥ると、原油の需要が急増し、価格は2倍以上に跳ね上がった。

バイデンの愚行

バイデン政権は、近代外交において石油の重要性を過小評価し、石油が当面、世界中で支配的なエネルギー源として自動車や家庭用暖房から巨大産業や製造工場まで、あらゆるものに電力を供給し続けることを無視することで危機的状況を招いたのである。

時間をかけて着実にグリーンエネルギーに移行していけるかどうかは、潤沢で安価な化石燃料が継続して利用できるかどうかに大きく依存している。しかし、バイデン政権は、石油を保有する者が、石油を中心としたエネルギーシステムに対して巨大な力を持ち、一方で石油を購入する人は、逆に、壊滅的な打撃を受けるほど市場やそれを動かす外交関係に依存しているということを見落としていた。

西側諸国は、ロシアのようなエネルギー大国を、単純に生態系から「消し去る」ことができると考えるにはあまりにも認識が甘すぎる。したがって、ロシアとの「エネルギー戦争」は失敗する運命にあるのだ。

歴史的に見れば、西側諸国は産油国と良好な外交関係を維持することの必要性を理解していた。しかしバイデンはサウジアラビアを侮辱し、2020年の大統領選挙において、後先考えずに同国を「のけ者の国」にすると公言(※2)したのだった。

2022年7月に仲直りのためにジェッダを訪問したことは大いに話題になったが{3}、サウジは米国の意図に不信感を抱いており、バイデン政権下で米国とサウジの関係が改善されることはないだろうと考えられている。

OPECが原油価格を高く維持するのは、基本的に支出予算と石油産業への健全な投資水準を維持するために余分な収入を必要としているからである。 国際通貨基金(IMF)は4月、サウジアラビアの損益分岐点原油価格(予算を均衡させる原油価格)を1バレル79.20ドルと予測した。

サウジ政府は想定損益分岐点原油価格を公表していないが、ロイターの報道{4}によると、望ましい価格水準はブレント原油で1バレル90ドルから100ドル程度で、この水準であれば世界経済に大きな影響を与えないだろうという。もちろん、100ドルを超えれば大儲けである。

石油を売る人、売らない人を決める

一方、”システミック “な危機が進行している。米国やEUが最近ロシアの石油輸出を抑制する動きをOPECが懐疑的に見るのは当然である。西側はこれらの動きを、ロシアの石油輸出収入の激減(つまりウクライナ戦争での戦力)を狙ったものだと説明している。

今回のG7の動きは、ロシアの原油販売価格に上限を設けるという極端なものである。

OPECは、価格制限をパラダイムシフトとみなしている。世界の石油供給と需要を一致させるというカルテルの特権に暗に挑戦するものであり、需給バランスの重要な指標のひとつが価格であるからだ。西側は事実上、石油消費国の対抗カルテルを立ち上げ、石油市場を規制しようとしているといえる。

地政学的な理由から、産油国が石油を輸出する際の価格を規定するという西側の動きは、間違いなく先例を作ることになる。今日がロシアなら、明日はサウジアラビアやイラクでないと誰が言えるだろうか?G7の決定が実行されれば、世界の石油市場を調整するOPECの重要な役割は失われることになるのだ。

OPECの反撃

そのためOPECは最近、日量200万バレルの減産を決定し、原油価格を1バレル90ドル以上に維持するなど、積極的に反撃している。OPECは、OPEC+に対抗するためのワシントンの選択肢は限られていると見ている。過去のエネルギー史とは異なり、現在の米国にはOPEC+グループ内に味方が一人もいない。

石油やガスの国内需要の高まりから、米国の両品目の輸出が抑制されることは十分に考えられる。その場合、最も大きな影響を受けるのは欧州だ。ベルギーのアレクサンダー・デ・クロー首相は先週、『フィナンシャル・タイムズ』紙のインタビュー{5}で、冬が近づき、エネルギー価格が下がらない場合、「ヨーロッパ大陸は大規模な産業空洞化のリスクがあり、その長期的影響は実際に非常に深いかもしれない」と警告している。

さらに、次のような恐ろしい言葉も付け加えた。「我が国の国民は、まったく正気の沙汰とは思えないような請求書を受け取っている。ある時点でそれは崩壊するだろう。 国民が怒っているのはわかるが、国民にはそれを支払う手段がないのだ」。デ・クローは、ヨーロッパ諸国の社会不安と政治的混乱の可能性を警告したのだ。

経済的・政治的な波及効果

間違いなくこれは地政学上の地殻変動であり、多極化する世界秩序を形成する上で、おそらくウクライナ紛争よりも重要になるかもしれない。

バイデンの外交政策のこの最悪の事態は、11月の米国中間選挙にも影響を与え、上院で共和党が多数を占めるようになり、2024年の米国大統領選挙の試金石となる可能性がある。

クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は、ロシアのエネルギーに背を向けることで、欧州は今や狂ったように儲けている米国の石油会社の人質となっているが、その高いコストが欧州経済の競争力を奪っていると述べた{6}。

「生産が崩壊している。産業空洞化も進んでいる。これらのことは、おそらく少なくとも今後10〜20年の間に、ヨーロッパ大陸に非常に、非常に嘆かわしい結果をもたらすだろう」とペスコフは語った。

ついでながらOPEC+削減で最も得をするのはロシアである。専門家の意見では、原油価格は現在の水準から年末から来年にかけて上昇に転じるという。つまり、今後数ヶ月の間に原油価格が上昇する一方で、ロシアは減産を行わないだろう。

原油価格が上昇しても、12月以降に欧州向けの原油を販売できるだけの大きな市場がある限り、ロシアは1バレルも減産する必要はない。またモスクワは、G7の価格上限に参加する国には石油を供給しないことを改めて表明している。そうすることでバイデン政権の市場経済に反したやり方に対抗しているのだ。

Links:

{1} https://www.nbcnews.com/business/business-news/opec-announces-will-cut-production-2-million-barrels-day-move-likely-s-rcna50808

{2} https://theintercept.com/2019/11/21/democratic-debate-joe-biden-saudi-arabia/

{3} https://thecradle.co/Article/Analysis/12939

{4} https://finance.yahoo.com/news/analysis-opec-leaders-100-oil-113553837.html

{5} https://www.ft.com/content/11e5f521-9811-459f-84e2-bf8d335a151d

{6} https://www.rt.com/russia/564355-peskov-russia-eu-deindustrialization/

https://thecradle.co/Article/Columns/16714