No. 1858 ワシントンの本当の対中政策

Washington’s Real Policy Toward China

by Brian Berletic

米国と中国は、中国の台頭を「封じ込めよう」とする米国の執拗さ、とりわけ台湾に対する米国の干渉をめぐって激しくエスカレートしたため、 アンソニー・ブリンケン米国務長官はボロボロになった米中関係を修復するために北京を訪れた。

その過程でブリンケン長官は、米国は「一つの中国政策」を公言し、台湾独立を支持していないことを認めた。しかし中国の台湾に対する主権を認めながらも、ブリンケン長官は一方的な台湾関係法に基づく米国の「責任」、すなわち「台湾が自国を防衛する能力を持つようにすること」を繰り返し述べた。これは言い換えれば北京の許可なしに台湾に武器を売り、中国の主権を踏みにじることである。

これに続いてジョー・バイデン米大統領は、ホワイトハウスの公式ウェブサイトに掲載された演説で、中国の習近平国家主席を「独裁者」と呼んだ。数日後、ブリンケン長官はバイデン大統領の発言を肯定し、米政府系メディア『ボイス・オブ・アメリカ』は「米政府関係者は同意:中国の習近平は独裁者である」と報じた。

なぜ米国は外交をしているように見せかけながら、米中関係の改善を意図的に妨害しようとしているのだろうか?

この問いに答える前に、米国の中国封じ込め政策が実際にどれほど長期にわたるものなのか、そして今日、それを変えようとする真剣な試みがどれほど見られそうにないのかを理解することが重要である。

中国を封じ込めようとするアメリカの政策は
数十年前にさかのぼる

米国の対中外交政策は何十年にもわたり、そして今もなお包囲と封じ込めに焦点を当てている。ブリンケン長官が北京を訪問したときでさえ、全米民主化基金(ロシアでは禁止されている)や隣接する組織が主導する無数の米国政府出資のプログラムが東南アジアの中国周辺地域の政府を威圧し、不安定化させ、さらには代替わりさせて、この地域を北京に対抗する統一戦線に形作ろうとしていた。

米国はまた、クアッド(アメリカ、インド、日本、オーストラリア)とAUKUS(オーストラリア、イギリス、アメリカ)という2つの重要な反中同盟の活動を拡大するために、今も緊密に動いている。

米国は、フィリピンにおける米軍のプレゼンスを拡大し、中国沿岸に米軍艦船を継続的に航行させるなど、インド太平洋地域での軍備増強を続けている。

さらに、外交問題評議会、戦略国際問題研究所、大西洋評議会のような米国政府や企業が出資するシンクタンクは現在、中国に課す経済制裁と、制裁を強制し悪化させる軍事介入の両方を計画している。

今日の米国の中国に対する好戦的な姿勢は、数十年前に米国政府の文書で明確にされている政策の続きである。米国務省の公式ウェブサイト、歴史文献室(Office of the Historian)には、ワシントンの中国封じ込め政策を説明する文書や覚書が多数掲載されている。

ロバート・マクナマラ米国防長官(当時)がリンドン・ジョンソン米大統領(当時)に宛てた「ベトナムにおける行動方針」と題された1965年の文書にはこう記されている:

2月の北ベトナム空爆の決定と7月の第1段階派兵の承認は、共産中国を封じ込めるという長期的な米国の政策を支持するものでなければ意味をなさない。

 中国は、世界におけるわれわれの重要性と有効性を低下させ、より遠隔ではあるが、より脅威的に、アジア全体をわれわれに対して組織化しようとする大国として迫ってきている。

このメモには、「中国を封じ込めるための長期的な努力には3つの前線がある」とも記されており、その中には「日韓前線、インド・パキスタン前線、東南アジア前線」が含まれていた。

ベトナムやソ連への言及を省いたこのメモは、まるで今日書かれたかのようである。これは、中国の封じ込めを追求する米国の外交政策が、どの大統領がホワイトハウスに居座り、誰がアメリカ議会を支配しているかにかかわらず、何十年も続いてきたことを反映している。

制裁と戦争の合意構築のための外交

もし米国が何十年にもわたって中国を封じ込めようとし、それをやめるつもりもないのなら、なぜ米国務省は中国との外交をしているように見せかけようとしたのだろう?

答えは簡単だ。それはワシントンが米国を「外交的」で「理性的」、敵対国を「好戦的」で「不合理」であると見せかけるための広範なパターンに合致している。制裁や戦争に踏み切ろうというとき、米国はそれを不本意に行っていると米国の同盟国に思わせることは合意を築くのに役立つ。世界経済全体で米国の制裁を実施し、戦場で米軍を強化するために同盟国は必要な存在なのだ。

2009年、当時の米国国務長官であったヒラリー・クリントンは、ロシアの外務大臣セルゲイ・ラブロフに対して、ワシントンがモスクワとの関係を「リセット」するという意向を象徴するために実際の「リセット」ボタンを手渡した。しかし、クリントン国務長官がこの見え透いた芝居を行っている間にも、米国務省や関連機関・組織は、2011年の「アラブの春」と、リビアやシリアを含むアラブ世界全体における複数のロシアの同盟国の暴力的転覆を画策していたことを後にニューヨークタイムズが認めている。

もうひとつの例は、「イラン核合意」としても知られる2015年の「包括的共同行動計画」である。この合意が公にされたのは2013年で署名されたのは2015年だが、アメリカのシンクタンクはその何年も前からこの合意を計画していた。

ブルッキングス研究所の「イランへの道筋はどれか? テヘランへの新しいアメリカ戦略の選択肢」という文書では、米国の政策立案者たちは、提案が根本的にはテヘランの政権転覆を目指した罠であることを認めている。

同文書はこう認めている:

この場合の理想的なシナリオは、米国と国際社会が、イラン国民がこの協定を支持するような魅力的なパッケージを提示し、政権がそれを拒否することである。

 同様の考え方で言えば、イランに対するどんな軍事作戦も世界中で非常に不人気になる可能性があり、適切な国際的な状況が必要とされる。それは作戦に必要な物流支援を確保し、それによる反動を最小限に抑えるためである。

 国際的な非難を最小限に抑え(たとえそれが不本意なものでも秘密裏のものでも)、支持を最大化する最善の方法は、誤った理由で核保有を決意し、それに踏み切ろうとしている政権だけが拒否をするような素晴らしい提案をイランに行い、イランがその提案を拒否したという確信が広まったときにのみ攻撃することである。 

そのような状況下なら、米国(あるいはイスラエル)は、怒りではなく悲しみからこのような行動に出たと表現することができ、少なくとも国際社会の一部は、非常に良い取引をイラン側が拒否したことで「自業自得」と結論づけるだろう。

米国とロシアの「リセット」が不誠実なものであったことは明らかだが、ブルッキングスの文書は、米国が見かけの善意と外交をあらかじめ決められた制裁や軍事介入に先立つ合意形成の手段として用いていることを証明している。

イラン核合意が署名され発効してから数年後、米国は合意から一方的に離脱し、イランが合意に「違反」したと非難し、イランに制裁を再び科して米国が支援するイラン国内での破壊工作(ブルッキングス文書の別の箇所で計画されている通り)と、イランとその同盟国に対する中東全域での代理戦争の組み合わせを追求し始めた。

ブルッキングスの政策立案者たちが2009年に述べたように、米国は平和と和解の申し出をしたように見せかけ、イランが核合意に不誠実に違反したかのように見せかけ、米国がイランに対して準備していた制裁措置や軍事行動を正当化しようとしたのである。

ブリンケン長官の最近の北京訪問で、米国は中国に対して同様の戦略をとっている。

米国の制裁とすでに進行中の対中戦争

ロシアやイランと同じように、米国はすでに中国に対するエスカレートする経済制裁と軍事侵略のキャンペーンを計画し、直接的、あるいは代理人を通じてそれを行っている。

米国は長年にわたり、パキスタンのバルチスタン地域から東南アジアのミャンマー、太平洋のソロモン諸島に至るまで、中国の外交官、市民、インフラプロジェクト、企業を攻撃する武装集団を支援してきた。

米国はすでに中国の経済活動に対して制裁を行っている。米外交問題評議会(CFR)のような米政府や西側産業界が資金を提供するシンクタンクを通じてさらなる制裁が準備されている。それは、2022年2月の特別軍事作戦開始後にロシアに課された制裁よりもさらに大規模なものになる予定である。

CFRの文書「新時代の米台関係、より攻撃的な中国への対応」は、ワシントンの計画が、台湾をめぐる北京との合意を台無しにすることであることを明記しており、台湾に対する米国の影響力を維持するため、ひいてはアジアにおける中国に対する米国の優位性を維持するために、政治的、経済的、軍事的措置の数々を推奨している。

台湾をさらに武装させ、台湾を中国本土から経済的に切り離し、この地域における米軍のプレゼンスを高めるといった措置はすべて本質的に中国が台湾を政治的に掌握するのを防ぐために行われている。米国が台湾の支配を維持することは、明確な意味でアジアにおける米国の「影響力」と「アクセス」を維持するための重要な要素なのである。

CFRの文書は米国務省が1965年に公式サイトで発表した覚書を引用しながら、「台湾の将来だけでなく、第一列島線の将来、そして西太平洋全域における米国の成功と影響力を維持する能力も危機に瀕している」と結論付けている。

この文書は、台湾が「米国の同盟国のネットワークを支えている」ことを示す地図まで掲載されており、ネットワークは明らかに中国を包囲し、脅かしている。

米国が中国を包囲し、封じ込めようとしているのは明らかである。中国の力が大きくなっているためワシントンは単独ではそれを行うことができない。この台頭する超大国を従属させる試みには、ますます極端な経済制裁と軍事的侵略が必要であり、緊張が拡大するにつれて、自国、同盟国、そして制裁と軍事的侵略の両方を支持するよう強要しようとする世界各国のコンセンサスが必要となる。

米国の政策立案者たちがイランについて述べたように、「国際的な非難を最小限に抑え、(たとえ不本意でも)支持を最大限にするためには、広く共感された確信がある時にのみ攻撃を行うことである」。 中国の場合、米国は外交を「試みた」が、「中国」が好戦的な姿勢をとることを選択したのでそれに対して「不本意だが」米国は経済制裁と軍事介入以外の選択肢がなかった、としてうまく世界を納得させ、従わせ、あるいは少なくとも他の国々を同調させることが容易になるだろう。

ロシアもイランも、米国の外交と呼ばれる二枚舌のやり方をよくわかっているようだ。中国が気づいていないということはないだろう。中国も同様に、米中間の緊張が高まる中で世界的な支持を求めているが、忍耐と粘り強さ、そして建設的に世界と関わることでそれを実現しており、ワシントンが北京を非難するのとは対照的である。

ワシントンが主導する一極主義的な「国際秩序」の衰退の速度と、中国だけでなくロシアやイランも提唱する多極主義の台頭を判断すると、中国は勝利の戦略を追求しているように見える。ますます危険で必死になってきたワシントンが中国を封じ込めるという長年の政策が成功するかどうか、または最終的に逆効果になりこの政策を考案し続けてきたワシントンとウォール街の権力者たちの現在のサークルが解体するかどうかは、時がたてばわかるだろう。

https://journal-neo.org/2023/07/04/washingtons-real-policy-toward-china/