No. 1875 デカップリング

“Decoupling”

中国経済を骨抜きにするワシントンの計画

by Mike Whitney

アメリカは、中国の発展を阻止し、世界秩序におけるアメリカのトップの地位を維持するための多方面にわたる戦略をとることに決めた。この計画の経済的な部分は「デカップリング」と呼ばれ、中国による重要技術(特に先端半導体)へのアクセスを選択的に遮断することを指している。この戦略は中国の爆発的な技術開発を抑制するために直ちに措置を講じなければならないと考えるアメリカの外交エリートたちの間で、ほぼ普遍的な支持を集めている。しかし中国と世界の間に「デジタルの鉄のカーテン」を設置するような計画を実行することにはかなりマイナスのリスクもある。もし中国がワシントンの攻撃に対して報復措置を取るならば、供給ラインは大きく寸断され、再び世界的な不況が発生する可能性が高まるだろう。

注目すべきは、「デカップリング」という言葉が、この政策がどのように機能するように設計されているかを不明瞭にしていることだ。ケンブリッジ辞典によればデカップリングの意味は、「2つ以上の活動が分離されている状況」である。遺憾なことに、ワシントンのデカップリング戦略は、穏便な「別れ」を実現しようとするものではなく、中国経済に最大のダメージを与えるために中国の主な技術的脆弱性を特定しようとするものである。言い換えれば、メディアやシンクタンクの分析で紹介されているデカップリングは、ワシントンの対中経済戦争を隠すための広報的なでっち上げである。外交問題評議会のマイケル・スペンスによる記事から、デカップリングの背景を少し紹介しよう:

昨年来、米中関係の軌跡は議論の余地のないものとなっている。アメリカと中国は、完全ではないにせよ、実質的なデカップリングに向かっている。この結果に抵抗するどころか、今や米中双方は、これがほぼ非協力的なゲームとして展開されることを受け入れているようで、政策枠組みにそれを組み込もうとしている。しかし、デカップリングとはいったい何を意味し、どのような結果をもたらすのだろうか?

 アメリカ側では、国家安全保障上の懸念から、中国への技術輸出や投資、および技術移動の他の経路に対する制限が長いリストとして作成され、さらに拡大している。この戦略の影響力を高めるため、制裁の脅しを含めて、アメリカは他の国々もこの取り組みに参加させようとしている。

「相互不信の等式」とも呼べる両側の多くの人々が、「デカップリング」は明らかに最適ではなく、危険な道筋であることを理解している。しかし、アメリカと中国の両国で、異なる意見を持つ声は、政治的な圧力や完全な抑圧を通じて、無視されるか封じ込められている。

 新興国や発展途上国の多くは、分断された世界経済が自分たちの利益にならないことを認識している。しかし、現在のところ、主要プレーヤーたちのインセンティブを変える力はない。将来は部分的なデカップリングと分断化が進むだろう。{1}

中国を包囲する米軍基地

著者の言うことの多くには同意できないが、彼の運命論には共感する。実際、これは現在私たちが向かっている方向であるだけでなく、この先数カ月でもっと悪化するだろう。アメリカの両政党の指導者たちはデカップリングに完全にコミットしており、外交政策のエリートたちも舞台裏で動いている。私たちが目にしているのは、中国を西側の「ルールに基づく秩序」に組み込もうという甘っちょろい努力は完全に失敗したという認識が広がっていることである。中国はアンクル・サムの広大な帝国の属国には決してならないことを証明した。中国人は終始、頑固なまでの独立性を保ち、自分たちの政治的志向に合致する改革にのみ着手し、党指導部に異議を唱えるような改革は拒否してきた。中国においてアジェンダを設定し、国家という船を操縦するのは依然として党であり、ワシントンでもダボスのエリートでもない。この認識は米中関係の完全な見直しを促し、必然的に中国を孤立させ、包囲し、最終的には封じ込めることを目的とした戦略へとつながっている。以下が、カーネギー財団のマット・シーハンによる背景の説明である:

10月初旬、米国政府は、先端半導体とその製造装置に対する中国のアクセスに新たな制限を設けた。その制限は、中国内の事業体への先進的な半導体の販売に対してライセンス取得を困難にし、それによって中国が人工知能(AI)の大規模なトレーニングに必要な計算能力をほとんど持たない状況にしている。この規則はまた、チップ製造ツールに関する制限を、半導体のサプライチェーンを支える産業にまで拡大し、米国のノウハウとチップ製造ツールを構成する部品の両方を遮断している。これらの規制を合わせると、中国の技術力を弱体化させようとするアメリカ政府のこれまでで最も実質的な動きとなる。

 新たな規制はまた、米国の技術政策の中で長く続いてきた論争に決着をつけようとするものでもある。その議論の中心は、現在の中国の能力にダメージを与えるか、それとも将来的にアメリカの影響力を維持するかという、相反する2つの目標の間で認識されるトレードオフであった。最新の規則によって、米国政府は、中国の半導体製造能力を深く損なうことができ、中国が自国の半導体産業を創出するためにどれほど意欲的で十分な資源を投入しても、追いつくことができなくなることに賭けている。 

米国政府がこの賭けに勝つかどうかは、将来の世界経済と技術力のバランスを決定する上で大きな意味を持つだろう。{2}

 これは新しい政策の「全体像」の優れた要約である。シーハンは米国の意図を明確にしつつ、潜在的なリスクについて説明している。彼はまた、商務省の新しい制限を3つの主要な見出しで分解して解説している。

1.商務省は個々の中国企業を対象にするのではなく、中国全体を対象にするようになった。これにより、中国のどの企業にも先進的なチップを販売する場合、ライセンスが必要となり、議会はそのほとんどを拒否すると述べている。

2.米国市民、居住者、企業は、先端チップを製造する中国企業と協力することができなくなる。

3.半導体製造装置に入る部品を制限することで半導体のサプライチェーンにさらに深く踏み込んだ。以前は、チップとチップを製造するツールを制限していただけだった。今は、チップ、チップを作る道具、そしてチップを作る道具に入る部品を制限している。当面の間、中国のテクノロジー産業は、AI企業やスーパーコンピューティングセンターがチップを与えられず、壊滅的な打撃を受けるだろう。{3}

https://youtu.be/rQpK4n7Rabg

ワシントンのデカップリング政策はトランプの手抜き関税やバイデンの中国企業に対する一方的な制裁をはるかに超えている。重要な技術へのアクセスを遮断することで、中国経済を弱体化させようとする露骨な試みである。これは明らかに戦争行為であり、政権の盟友であるニューヨーク・タイムズ紙でさえ公然と認めている。World Socialist Web Siteのニック・ビームスがタイムズ紙の記事を引用している:

先週末の『ニューヨーク・タイムズ』に掲載されたジャーナリストのアレックス・W・パーマーによる主要記事は、米国が中国に対して行っているハイテク戦争の規模を明らかにした。この戦争は今、さらに激化しようとしている。米国は間もなく、中国のハイテク分野に投資される米国資金を削減するための投資審査メカニズムを発表し、10月の発表以降に出現した抜け穴を塞ぐために輸出規制を更新すると予想されているからだ。 

    (重要なパラグラフ以下:)

 「10月7日の輸出規制によって、米国政府は中国が最高級チップを生産する能力、あるいは購入する能力さえも麻痺させる意向を表明した。この措置の論理は簡単だ。先進的なチップ、そしてそれを搭載するスーパーコンピュータやAIは新たな兵器や監視装置の製造を可能にする。しかしその範囲と意味において、この措置は中国の安全保障国家よりもはるかに広い範囲を対象としており、これ以上ないほど広範囲に及んでいる。ワシントンの戦略国際問題研究所でAIと先端技術のためのワドワニ・センターのディレクターを務めるグレゴリー・C・アレンは「ここで重要なのは、米国が中国のAI産業に影響を与えたかったということを理解することだ。半導体関連はそのための手段だ」と語っている。

     パルマーは、10月の規制は「本質的に、中国の先端技術のエコシステム全体を根こそぎ根絶しようとしている」と書いている。 

    米国の措置がどの程度のものかを示すもう一つの指標は、Evercore ISOのシニア半導体アナリスト、C・J・ミューズの発言である。「もしあなたが5年前にこの規則について話していれば、それは戦争行為だと言っただろう。戦争にならなければならなかっただろう」{4}

何が起こっているかわかるだろうか?バイデン政権は中国が人工知能やスーパーコンピュータを開発するのに必要な先端半導体の入手を不可能にしている。このような封鎖は、現在の世界貿易機関(WTO)の規則に明らかに違反しているが、アメリカが恣意的に1,300社以上の中国企業に課している一方的な制裁も同様である。要するにアメリカは自国の地政学的利益に最も適した行動をとることを、規則のために止めるつもりはないのだ。著者のジョン・ベイトマンは、『フォーリン・ポリシー』誌の記事でこうまとめている:

産業安全保障局(BIS)は、中国への先進的な半導体、チップ製造装置、およびスーパーコンピュータ部品の輸出に対する新たな制限を発表した。これらの規制は、中国の広範で基本的なレベルでの能力を阻止することに一心に焦点を当てている。中国への主な損害は経済的なもので、ワシントンが挙げている軍事および情報上の懸念に比べて非常に大きな規模となるだろう。このシフトは、先端コンピュータだけでなく、戦略的と見なされる他のセクター(バイオテクノロジー、製造、金融など)でも、より厳しい米国の措置を予示している。ペースと詳細は不確実だが、戦略的な目標と政治的なコミットメントは今まで以上に明確になっている。中国の技術的な台頭は、いかなる代償を払っても遅らせられるだろう。{5}

この主に「目立たない」技術戦争は、米国が台湾に政治使節団を送り続け(「一つの中国」政策に異議を唱えるため)、アジア太平洋で反中連合を強化し続け、台湾海峡と南シナ海で北京を挑発し続け、台湾へ殺傷力のある武器を売却し続け、この地域での軍事的プレゼンスを高め続け、アジア太平洋へのNATOの「東方拡大」を推進し続け、西オーストラリアで過去最大規模の「実弾射撃」軍事訓練(「タリスマンセイバー」)を実施し続けているのと同時に行われていることを認識することが重要である。

中国の「一帯一路」構想: 主権国家の世界経済統合

つまり、デカップリングは、中国の防衛力を弱め、同盟国から孤立させ、敵を強化し、ワシントンの命令に従わせるために中国に仕掛けられているより大きな戦争のほんの一部にすぎない。米国は今、急速に台頭するライバルが中央アジアの国土を支配するのを防ぐために、核武装した中国と直接対決する危険を冒す用意があることを示している。我々は非常に近い将来、敵対行為の勃発を予想すべきかもしれない。

{1} https://www.cfr.org/article/destructive-decoupling

{2} https://carnegieendowment.org/2022/10/27/biden-s-unprecedented-semiconductor-bet-pub-88270

{3}https://youtu.be/rQpK4n7Rabg 4:37 minutes

{4} https://www.wsws.org/en/articles/2023/07/22/shom-j22.html

{5} https://foreignpolicy.com/2022/10/12/biden-china-semiconductor-chips-exports-decouple/

https://www.unz.com/mwhitney/decoupling-washingtons-plan-to-kneecap-chinas-economy/