No. 1877 地政学的チェス盤が米帝国に不利な方向へシフト

Geopolitical Chessboard Shifts Against US Empire

by Pepe Escobar

地政学的なチェス盤は常に変化している。そして、現在のような白熱した局面はかつてなかった。

中国人(加えて少数派のアジア人やアメリカ人)の学者の間で議論された興味深いコンセンサスは、ドイツ/EUがロシアをおそらく取り返しのつかない形で失っただけでなく、中国がロシアを得たということだ。それによって中国自身の経済を高度に補完し、グローバル・サウス/グローバル・マジョリティとの強固な結びつきを持ち、北京に利益をもたらし、援助することになった。

一方、大西洋主義者の外交政策アナリストたちは、現実政治学の初歩を応用して、NATO対ロシアという構図を変えようと躍起になっている。

新たな解釈はワシントンがモスクワを打ち負かすことを期待するのは「戦略的狂気」であり、キエフの汚いシャツをきた戦争屋(ゼレンスキー大統領)が「信用を失う」につれ、NATOは「援助疲れ」を経験しているというものだ。

これはつまり、ウクライナの戦場での屈辱がグローバル・マジョリティの目に痛いほど生々しく映るようになり、信頼性を完全に失いつつあるのはNATO全体だ、ということだ。

さらに、「援助疲れ」とは、大きな戦争に大敗していることを意味する。軍事アナリストのアンドレイ・マルティアノフが執拗に強調しているように、「NATOの『計画』はジョークだ。彼らはうらやましく思っていて、痛ましいほど妬ましく、嫉妬している」。

信頼できる道筋は、モスクワがNATO(単なるペンタゴンのアドオン)と交渉するのではなく、ヨーロッパ各国にロシアとの安全保障協定を提案し、NATOに所属する必要性をなくすことだろう。そうすればどの参加国にとっても安全保障が保証され、ワシントンからの圧力も軽減される。

ヨーロッパのハイエナであるポーランドやバルト三国のチワワはもちろん受け入れないだろうが、ヨーロッパの大国はそれを受け入れるだろう。

これと並行して、中国は日本、韓国、フィリピンと平和条約を結ぶことができるだろう。そうなれば米国の基地のかなりの部分は消滅するかもしれない。

繰り返すが、問題は属国には平和を保証する協定に従う権限も力もないということだ。ドイツのビジネスマンたちは、オフレコで、遅かれ早かれベルリンがワシントンに逆らってロシアと中国の戦略的パートナーシップとビジネスを行うかもしれないと確信している。

しかし黄金のルールはいまだ達成されていない。もし属国が主権国家として扱われたいと望むなら、最初にすべきことは帝国の軍事基地の主要な拠点を閉鎖し、米軍を追放することだ。

イラクはもう何年もそうしようとしているが、成功していない。ロシアの介入によってアメリカがダマスカスとの代理戦争に敗れても、まだシリアの3分の1はアメリカが占領している。

実存的紛争としてのウクライナ・プロジェクト

ロシアは隣国や親族との戦いを余儀なくされているため、負けるわけにはいかず、核兵器と極超音速ミサイルがあるので負けることはないだろう。

たとえモスクワが戦略的に多少弱体化したとしても、結果はどうであれ、 帝国ができてから最大の戦略的失策を犯したのはアメリカであると中国の学者たちは見ている。ウクライナ・プロジェクトを実存的紛争に発展させ、帝国全体とその家臣すべてをロシアとの全面戦争に巻き込んだことである。

だから和平交渉もなく、停戦さえ拒否されている。アメリカの外交政策を牛耳るストラウス系ネオコンが考え出した唯一の可能性は、ロシアの無条件降伏である。

過去には、ベトナムやアフガニスタンとの戦争は負けてもかまわなかった。しかしロシアとの戦争に負けることはできない。そうなれば、そしてそれはすでに目前に迫っているが「属国の反乱」は広範囲に及ぶだろう。

今後、中国とBRICS+(来月南アフリカで開催されるサミットから拡大)が米ドルの弱体化に拍車をかけることは明らかである。インドが参加しようがしまいが。

この議論{1}でいくつかの優れた指摘にあるように、すぐにBRICS通貨ができることはないだろう。その範囲は広大であり、首脳国会議の裏方たちによる議論は初期の段階に過ぎず、大枠はまだ決まっていない。

プーチン大統領からエルビラ・ナビウリナ中央銀行総裁までが強調しているBRICS+のアプローチは、国境を越えた決済メカニズムの改善から、最終的には新しい通貨へと発展していくだろう。

これはおそらく、ユーロのようなソブリン通貨ではなく、貿易手段となるだろう。それは最初はBRICS+諸国の間で、将来的には米ドルの覇権的な生態系を回避できるよう設計されるだろう。

ここでの重要な質問は、マイケル・ハドソン{2}が臨床的に解体したように、アメリカのための経済がこの広範な地域経済戦争でいつまで持ちこたえられるか、である。

すべてが「国家安全保障上の脅威」

電子技術の面では、米国は知的財産権を独占し、マイケル・ハドソンが指摘するように「ハイテク・コンピューター・チップ、通信、武器生産を高価格にして経済的賃貸収入を得て」、世界経済を米国に依存させるための手段を選ばない。

実際には、台湾が貴重なチップを中国に供給することを禁止し、TSMCにアリゾナでのチップ製造コンプレックスをできるだけ早く建設するよう要請している以外あまり大きなことは起こっていない。

しかし、TSMCのマーク・リウ会長は、工場が「半導体グレードの設備設置に必要な専門知識」を持つ労働者の不足に直面していると発言している。そのため期待されているアリゾナのTSMCチップ工場は、2025年までに生産を開始することはないだろう。

帝国/属国NATOの最重要要求は、ドイツとEUがロシアと中国の戦略的パートナーシップとその同盟国に対して「貿易の鉄のカーテン」をかけ、「リスクを回避した」貿易を確保するである。

予想通りアメリカのシンクタンクは発狂している。アメリカン・エンタープライズ研究所のしがない研究員たちは経済的なリスク回避だけでは不十分で、アメリカに必要なのは中国との断絶であると熱狂的に語っている。

実際、これはワシントンが国際的な自由貿易ルールや国際法を粉砕し、あらゆる形態の貿易やSWIFTや金融交流をアメリカの経済的・軍事的支配に対する「国家安全保障上の脅威」として扱うこととぴったり適合する。

つまり今後のパターンは、中国がEUに貿易制裁を科すのではなく(EUは北京の貿易相手国であることに変わりはない)、米国主導の貿易ボイコットを破ろうとする国々に対してワシントンが多くの制裁を科すのである。

ロシア・北朝鮮がロシア・アフリカと出会う

今週、チェス盤は2つのゲームを変える動きを見せた。注目されたロシアのショイグ国防相の訪朝と、サンクトペテルブルグでのロシア・アフリカ首脳会議である。

ショイグは平壌でロックスターとして迎えられた。彼は金正恩と個人的に会談した。相互の好意は、北朝鮮がやがて多極化への道を切り開く多国間組織のひとつに加わる可能性を強くした。

それは間違いなく、拡大ユーラシア経済連合(EAEU)である。ベトナムやキューバと結ばれたような、EAEUと北朝鮮の自由貿易協定から始まるかもしれない。

ロシアはEAEUのトップパワーであり、BRICS+やSCO、ASEANが二の足を踏む中、北朝鮮への制裁を無視することができる。モスクワにとって重要な優先事項は、極東の開発、朝鮮半島両国の統合、そして北極海航路(北極シルクロード)である。その場合、北朝鮮は自然なパートナーとなる。

北朝鮮をEAEUに加盟させることは、BRIの投資にとって大きな効果がある。北京が北朝鮮に投資する際には、今のところ享受していないことをカバーするようなものだ。それはBRIとEAEUの統合を深める典型的なケースになるかもしれない。

最高レベルのロシア外交北朝鮮に対する圧力を和らげるために全力を尽くしている。戦略的には、これは本当に画期的なことだ。巨大で非常に洗練された北朝鮮の産業・軍事複合体が、ロシアと中国の戦略的パートナーシップに加わり、アジア太平洋全体のパラダイムをひっくり返すことを想像してほしい。

サンクトペテルブルクで行われたロシア・アフリカサミットは、西側主要メディアを驚愕させる別のゲームチェンジャーだった。それは、敵対的な集団である西側諸国がアフロ・ユーラシアに対してハイブリッド戦争などを繰り広げているにもかかわらず、ロシアがアフリカ全体との包括的な戦略的パートナーシップを言動で公言したことにほかならない。

プーチンは、ロシアが世界の小麦市場で20%のシェアを占めていることを示した。2023年の最初の6カ月間で、ロシアはすでにアフリカに1000万トンの穀物を輸出している。そして今、ロシアはジンバブエ、ブルキナファソ、ソマリア、エリトリアに、今後3~4ヶ月の間にそれぞれ2万5千トンから5万トンの穀物を無償で提供する予定である。

プーチン氏は、アフリカ全土における約30のエネルギープロジェクトから、石油およびガスの輸出拡大、医療を含む原子力技術の「ユニークな非エネルギー応用」まで、詳細な内容を説明した。また、スエズ運河近くにロシアの工業地帯を立ち上げ、アフリカ全土に輸出する製品を生産する計画や、アフリカの金融インフラの開発、ロシアの決済システムとの接続についても述べた。

また、EAEUとアフリカの緊密な関係についても強調した。フォーラム・パネル「EAEU-アフリカ:協力の地平線」では、BRICSやアジアとの大陸間のより緊密な関係などの可能性が検討された。自由貿易協定の奔流がパイプラインにあるのかもしれない。

フォーラムの範囲は非常に印象的だった。「産業協力による技術的主権の達成」や「新世界秩序:植民地主義の遺産から主権と発展へ」といった「脱植民地化」のパネルがあった。

そしてもちろん、国際北南輸送回廊(INSTC)についても議論され、主要なプレーヤーであるロシア、イラン、インドがNATOの沿岸地域を回避してアフリカへの重要な延長を推進することになった。

サンクトペテルブルクでの慌ただしい動きとは別に、ニジェールでは軍事クーデターが起きた。最終的な結果はまだわからないが、ニジェールは隣国マリとともにパリからの外交政策の独立を再び主張することになりそうだ。中央アフリカ共和国(CAR)とブルキナファソでも、フランスの影響力は少なくとも「リセット」されつつある。直訳すれば フランスと西側諸国はサヘル(サハラ砂漠南縁部)全域で一歩ずつ、不可逆的な脱植民地化のプロセスの中で追い出されている。

破壊の荒馬に気をつけろ

北朝鮮からアフリカ、そして中国とのチップ戦争に至るまで、チェス盤を横切るこれらの動きは、ウクライナにおけるNATOの屈辱を打ち砕くものと同様、極めて重要である。しかし、ロシアと中国の戦略的パートナーシップだけでなく、グローバル・サウス/グローバル・マジョリティ全体の主要プレーヤーも、ワシントンがロシアを戦術的な敵とみなしていることを十分に認識している。

現状では、ドンバスの悲劇がまだ解決していないため米国は忙しく、したがってアジア太平洋から遠ざかっている。しかし、ストラウス派のネオコンのサイコパスの指導下でのワシントンはますます自暴自棄になり、より危険になっている。

BRICS+の “ジャングル”が、一極集中する西側の “庭”を傍観するのに必要なメカニズムを加速させている間に、無力なヨーロッパは、奈落の底に突き落とされ、中国、BRICS+、そして事実上のグローバル・マジョリティから自らを切り離すことを余儀なくされている。

熟練した気象予報士でなくとも、草原の風がどちらに向かってふいているかわかるだろう。破壊の青白い馬たちが、チェス盤を踏みつぶすために陰謀をめぐらし、風がうなり始めている。

Links:

{1} https://www.nakedcapitalism.com/2023/07/russian-central-bank-governor-elvira-nabiullina-and-head-of-brics-bankthrow-cold-water-on-brics-currency-project.html

{2} https://michael-hudson.com/2023/07/global-economic-history-in-2-5-hours/

{3} https://sputnikglobe.com/20230719/chinese-chip-makers-accuse-us-of-disrupting-global-supply-chain-1111991311.html

https://www.unz.com/pescobar/geopolitical-chessboard-shifts-against-us-empire/