No. 1932 アメリカは中国の台頭を止められない

America Can’t Stop China’s Rise

だから止めようとするのはやめるべきだ。

by Tony Chan, Ben Harburg, and Kishore Mahbubani

アメリカ政府が、特に技術開発の分野で中国の経済的台頭を減速させると決めたのは間違いない。

確かにバイデン政権はそれが目標であることを否定している。ジャネット・イエレンは4月20日、「中国の経済成長は米国経済のリーダーシップと相容れないものである必要はない。米国は依然として世界で最もダイナミックで豊かな経済である。どの国とも健全な経済競争を恐れる理由はない」と言った。また、ジェイク・サリバンは4月27日、「我々の輸出規制は、軍事バランスを崩しかねない技術に焦点を絞ったものにとどまるだろう。われわれは、米国や同盟国の技術がわれわれに対して使用されないようにしているだけだ」と述べた。

しかし行動においてバイデン政権は、ビジョンがその控えめな目標を超えていることを示している。2019年7月、大統領候補だったジョー・バイデンは「トランプ大統領は自分は中国に対して厳しいと思っているかもしれないがその結果として彼がもたらしたのは、アメリカの農家、製造業者、消費者が損をし、より多くの支払いをすることだ」と批判したにもかかわらず、トランプが2018年に中国に課した貿易関税を撤回していない。またオランダや日本のような同盟国を説得し、追随させてきた。さらに最近では8月9日にバイデン政権は、「半導体・マイクロエレクトロニクス、量子情報技術、人工知能分野の機密技術・製品」で、「中国の軍事力、諜報力、監視力、サイバー対応能力を著しく向上させる可能性があるため、国家安全保障上、特に深刻な脅威となる」という理由から中国へのアメリカの投資を禁止する大統領令を発令した。

これらの行動はすべて、アメリカ政府が中国の成長を止めようとしていることを裏付けている。しかし重要な質問は、アメリカがこの作戦を成功させることができるかどうかで、その答えは、たぶんできない、である。幸いなことに、アメリカ人そして世界全体にとってより良くなるような中国の政策にアメリカが方向転換するのに遅すぎることはない。

中国の技術発展を遅らせるというアメリカの決断は、「馬に蹄鉄を打ってから納屋の戸を閉める」という古いことわざが示す愚行に似ている。現代の中国は、中国の技術発展を止めることができないことを何度も示してきた。

1949年に中華人民共和国(PRC)が誕生して以来、核兵器、宇宙、衛星通信、GPS、半導体、スーパーコンピューター、人工知能など、さまざまな重要技術において、中国のアクセスを制限したり、開発を停止させようとする努力が何度もなされてきた。アメリカはまた、5G、商用ドローン、電気自動車(EV)における中国の市場支配を抑制しようとしてきた。歴史を通じて、中国の技術的台頭を抑制するための一方的または治外法権的な執行努力は失敗しており、現在の状況では、長年にわたるアメリカの地政学的パートナーシップに回復不能な損害を与えている。1993年、クリントン政権は中国の衛星技術へのアクセスを制限しようとした。今日、中国は宇宙に約540基の衛星を保有し、スターリンクの競合機を打ち上げている。

同じ原則がGPSにも適用された。1999年にアメリカが地理空間データシステムへの中国のアクセスを制限したとき、中国は独自の平行したBeiDouグローバルナビゲーション衛星システム(GNSS)を構築した。これは主要な技術的デカップリングの最初の波の1つだった。いくつかの指標では今日のBeiDouはGPSよりも優れている。BeiDouは世界最大のGNSSで、GPSの31基に対し45基の衛星を持っているため、ほとんどの国際都市でより多くの信号を提供することができる。BeiDouは120の地上局によって支えられ、より高い精度を実現しており、双方向のメッセージングなどより高度な信号機能を備えている。他の国々も以前に中国の技術的な台頭を阻止しようと試みたが失敗している。1950年代と1960年代、ソ連が中国に核兵器技術を提供しなかったとき、中国は1960年代初頭に独自の「マンハッタンプロジェクト」を開始し、1964年までに最初の核兵器の実験に成功した。ロシアの中国に対する核の影響力はその日で終わったのである。

バイデン政権が中国に対してとった措置の多くも、中国の報復能力を考慮せずに実行された。中国は、アメリカのテクノロジー・スタックの本当に重要なコンポーネントの多くを物理的に構築しているわけではないが、アメリカのイノベーション・エコシステムに燃料を供給する上での原材料投入(レアアース)と需要(収益創出)の重要性をよく知っており、これらを今、交渉材料として活用している。現在の一触即発のダイナミズムの中で、中国はアメリカの技術と資本の輸出制限に対抗して、バリューチェーンの重要な両端を圧迫し始めるだろう。中国が7月にガリウムとゲルマニウムの輸出を禁止したのは、レアアースとクリティカル・メタルの分野における中国の優位性をアメリカ(とその同盟国)に思い知らせるための口火を切ったにすぎない。中国はマグネシウム、ビスマス、タングステン、グラファイト、シリコン、バナジウム、蛍石、テルル、インジウム、アンチモン、バライト、亜鉛、スズの加工においてほぼ独占状態にある。中国はまた、リチウム、コバルト、ニッケル、銅など、アメリカの現在および将来の技術的願望に不可欠な素材の中流加工でも優位を占めており、これらは世界的に急速に発展している電気自動車産業に不可欠である。

アメリカやその他の中立国が、これら素材の多くは鉱物資源として埋蔵されているのでスイッチを入れるだけで採掘や生産が簡単にできると考えるのは甘い。必要な採掘・加工のインフラを構築するだけでも、少なくとも3~5年はかかるだろう。熟練労働者の確保と訓練、あるいはそのような活動に必要な操業許可と環境許可の取得については、言うまでもない。いずれも不可能の可能性もある。レアアースの加工は、非常に有毒で環境破壊的な取り組みである。そのような許可が下りる可能性は低いだろう。アリゾナ州ですらTSMCの製造施設のために有能な労働者を見つけるのに苦労しており、外国人技能労働者の輸入に対する国内組合の反対に苦慮している。アメリカが同様の材料加工能力を開発することは難しいだろう。その過程で、中国は加工材料へのアクセスをどのように配分するかでキングメーカーを演じることになり、アメリカの技術・防衛大手への供給が制限されるだろう。中国の報復能力を考慮に入れていないことは、アメリカが中国に対処するための熟慮された包括的なアプローチを持っていないことを示している。

中国から最先端チップへのアクセスを奪うアメリカの措置は、実際には中国をよりもアメリカの大手半導体メーカーにダメージを与える可能性さえある。中国は世界最大の半導体消費国である。過去10年間、中国はアメリカ企業から大量のチップを輸入してきた。米国商工会議所によると、中国の企業は2019年に米国企業から705億ドル相当の半導体を輸入しており、これはこれらの企業の世界全体の売上の約37%に相当する。クオルボ、テキサス・インスツルメンツ、ブロードコムのように収益の約半分を中国から得ている米国企業もある。

クアルコムの収益の60%、インテルの収益の25%、Nvidiaの売上の5分の1は中国市場からのものだ。これら3社のCEOが最近ワシントンに赴き、輸出規制によって米国産業のリーダーシップが損なわれる可能性があると警告したのも不思議ではない。米国企業はまた中国からの報復措置によっても損害を被るだろう。例えば中国が5月に米マイクロン・テクノロジーのチップを禁止したように。マイクロンの売上の25%以上は中国が占めているのだ。

中国への販売によってもたらされたこれらの莫大な余剰収益は、研究開発に回され、その結果、アメリカの半導体企業は競争に先んじることができた。商工会議所の試算によると、もしアメリカが中国への半導体販売を全面的に禁止した場合、米国企業は年間830億ドルの収益を失い、12万4000人の雇用を削減しなければならない。また、年間研究開発予算を少なくとも120億ドル、設備投資を130億ドル削減しなければならなくなる。こうなると、長期的に世界的な競争力を維持することはさらに難しくなるだろう。アメリカの半導体企業は、半導体分野でのアメリカ政府の対中行動が、中国の利益よりも自分たちの利益を害することを痛感している。米国半導体産業協会は7月17日に声明を発表し、ワシントンの度重なる措置は「過度に広範で、あいまいで、時には一方的な制限を課すことは、米国半導体産業の競争力を低下させ、サプライチェーンを混乱させ、市場の重大な不確実性を引き起こす危険性がある。そして中国からの継続的なエスカレートしうる報復を促す」として、バイデン政権に対し半導体業界の代表および専門家とのより広範な関わりなしにさらなる制限を実施しないよう求めた。

CHIPS法(米国における半導体の国内生産を支援する「the Chips and Science Act」)はアメリカ半導体産業にいつまでも補助金を出すことはできないし、中国に代わる世界的な需要基盤は他にない。他のチップ生産国は必然的に仲間割れして中国に売り込み(歴史的にそうしてきたように)、アメリカの行動は無駄になるだろう。そして、半導体やその他の核となる中核的な部品の中国への輸出を禁止することで、アメリカは中国に戦いの数年先を見越した戦争計画を手渡した。中国は、それ以外の場合よりもはるかにはやく自給自足を構築するよう促されているのだ。ZTEとファーウェイの部品が禁止される前、中国はアメリカの半導体を購入し続け、フロントエンドのハードウェアに焦点を当てていた。ASMLのCEO、Peter Wenninkは、中国はすでに半導体の主要アプリケーションと需要でリードしていると述べている。Wenninkは次のように書いている。「通信インフラの整備、バッテリー技術、これらはミッドクリティカルで成熟した半導体のスイートスポットであり、例外なく中国がリードしている」

眠れる巨人は米国の近視眼的な保護主義政策によって目覚めたのだ。米国は今、自国をイノベーション・リーダーにした研究開発の原動力となった重要な収益を失うという短期的な脅威と、中国が独自の本格的な半導体エコシステムを構築するという長期的な不可避性に直面している。ファーウェイがアメリカの厳しい制裁にもかかわらず国産の5GチップとOSを搭載した新型スマートフォン「Mate 60 Pro」を発売できたことは、中国の技術成長と発展を止めようとするアメリカの政策がいかに賢明でなかったかを物語っている。

アメリカは中国の技術的成長と発展を止めることはできないだろうから(そして実際、中国が世界の同列の大国として台頭するのを止めることはできないだろう)、より賢明な関与の仕方がある。それを最もよく表しているのが、イソップ寓話の「北風と太陽」である。この物語では、北風が強く吹いて旅人の外套を脱がせず、むしろ太陽の暖かい日差しが旅人に外套を脱がせるように説得するのだ。

米国の政策立案者たちの間では、米国の50年にわたる対中関与政策は失敗したとの見方が広まっている。カート・キャンベルとイーリー・ラトナーが最近のフォーリン・アフェアーズ誌の記事で率直に述べているように、「ニクソンが和解に向けた最初の一歩を踏み出してから半世紀近くが経過したが、その記録は、ワシントンが中国の軌道を形成する力を再び過信しすぎたことをますます明確にしている。中国はその代わりに米国のさまざまな期待を裏切りながら、独自の道を歩んできた」。

確かに、関与政策が中国内部の統治システムを変革することを意図したものであれば、それは失敗した。しかし、もしそれが目的だったとすれば、250年の歴史を持つ共和国(人口は中国の4分の1)が、4000年の歴史を持つ文明を自分たちの思い通りに変えられると信じるのは驚くべき思い上がりである。しかし、アメリカの政策の目的が、(ロバート・ゼーリックの言葉を借りれば)「責任ある利害関係者」としての中国の台頭を促すことであったとすれば、この政策は成功したかもしれない。全米アメリカ外交政策委員会(NCAFP)、アメリカン・フレンズ・サービス委員会、そして4人の独立研究者が行った包括的な調査によると、中国の行動は、特に気候変動の緩和、公衆衛生の改善、世界金融の安定に関するさまざまな関与政策によって変化したという。NCAFPのアジア太平洋安全保障フォーラムのディレクターとしてこの研究を監督した元国務省職員のスーザン・ソーントンは、次のように述べている。「この米中外交の監査は、交渉によって前進できること、そして中国が約束を守ることを示している。 中国との関与が米国に利益をもたらさないという考え方は、正確ではない。実際、この記録は、イソップ物語の「北風と太陽」の教訓に含まれる知恵があることを示している: 「武力と威勢がないところでは、優しさと親切な説得が勝つ」のである。

根本的な問題のひとつは、米国の国内政治が現実的な立場ではなく、中国に対して強硬な立場を取ることを米国の政策立案者に強いていることだ。例えば、中国の李商務部長の訪米を阻む制裁措置が、軍事事故を防ぐための米中防衛対話の妨げになっている。それでも、米国政府の手は縛られている。制裁が米国の政策目標を確保する上で効果がないことが証明されたとしても、制裁を解除することはできない。

だからこそアメリカは外交政策目標を確保するための方法を大幅に見直す時期に来ている。制裁を科すという常套手段は、中国の技術開発を止めることも、中国の行動に大きな影響を与えることもできなかった。制裁に代わるもっと効果的な方法はあるのだろうか?

2022年5月、バイデン政権の対中アプローチを説明する声明の中で、アンソニー・ブリンケンは次のように述べている。「協力できるところは協力し、争うべきところは争う」。我々はこのアプローチに同意する。自国の利益を損ない、地政学的・経済的な競争相手を強化するのではなく、アメリカはより賢明な技術政策を実践すべきである。特定の国家安全保障上の脅威を外科的に除去しつつ、アメリカのイノベーション・リーダーシップを持続的に支援し、拡大する取り組みに重点を置かなければならない。 

米中技術競争というゼロサムの枠組みではなく、持続可能な協力体制が両国と人類にとって有益なのである。欧米のほとんどの排出削減目標は、太陽光発電、風力発電、電気バッテリー発電の特許や核となるインプットの多くを保有する中国の参加なしには達成できない。共同研究プログラム、臨床試験、データセットは、癌などの慢性的な世界的健康問題の解決に不可欠である。デカップルされた技術のエコシステムは進歩を妨げるだけでなく、並行開発や一方的な規制がもたらす他の常在リスクも生み出している。人工知能や原子力のような潜在的な破滅的技術の無制限な成長がすぐに思い浮かぶ。米国で学び、働き、定住したいという中国からの科学的才能を歓迎し続けることは、両国の科学的進歩にとっても有益である。これらの科学者たちは、米中間の科学協力への架け橋となることができる。

米国政府はまた、ブッシュ政権が始めてオバマ政権が継続し、トランプ政権が終わらせたハイレベル対話の全面的な再開を検討すべきである。ハイレベル対話の再開は、両国のトップ科学者を集めたハイレベル科学技術対話の設置とともに、米国の長期的な国益にとってよりポジティブな結果をもたらす可能性がある。

初めはこの大国間の協力は双方が共通の長期的利益を有する分野(気候変動、パンデミック対策、世界経済の安定、教育など)に焦点を当てることができるだろう。基本的な信頼関係が確立されれば、対話と協力を段階的に拡大することができる。こうした動きはいずれも、世界における米国の力と地位を低下させるものではない。実際、米国が米国と世界の利益の両方に資する合理的な政策を追求していると世界の他の国々が見るようになれば、米国の威信と地位は上昇する可能性は十分にある。中国に対してより賢明な道を追求すれば、米国は世界で最も称賛される国であり続けるだろう。

このエッセイは、シンガポール国立大学アジア研究所のアジア平和プログラムとの協力により出版された。

Tony Chanはキング・アブドラ科学技術大学の学長。

Ben Harburgはグローバル投資会社MSAキャピタルのマネージング・パートナーであり、全米米中関係委員会の理事。

Kishore Mahbubaniはシンガポール国立大学アジア研究所の特別研究員で著書に『Has China Won? The Chinese Challenge to American Primacy』(2020年)

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