No. 1962 中国に関する言説の武装解除が必要  

The Need to Disarm the Discourse on China

nakedcapitalism.com (October 20 2023)

アメリカの指導者たちが完全に正気を失っていることはますます明らかになってきている。我々は中国が最大の敵であると主張し、エスカレートさせながら二正面戦争を遂行しようとしている。この記事では、プロパガンダ・プログラムに焦点を当てる。

かつて超忠実だったシュタージの上級将校が著名な知識人を守るために不正を働くという必見の映画『The Lives of Others』(邦題:善き人のためのソナタ2006年)の名台詞の一つにこういうのがある:

あなたのような人々がかつて郡を牛耳っていたと思うと

これはバイデン政権の墓碑銘となるべきだろう。

By ケイル・ホームズ(国際関係アナリスト、作家、環境保護論者で、北京に住んだことがあるCODEPINKのChina Is Not Our Enemyキャンペーン・コーディネーター)、ローソン・アダムス(カリフォルニア州ロサンゼルスの大学生。海軍で2年間ハワイ・オアフ島のNSAで中国語アナリストとして勤務)

メディアの反中国プロパガンダは人種差別的なツイートからヘイトクライムの増加まで、攻撃的な風潮を作り出している。2週間前、ある男がサンフランシスコの中国領事館に車で突っ込み、”中国共産党はどこだ?”と叫んだ。アラブ系アメリカ人はペルシャ湾戦争、対テロ戦争、米国が支援するパレスチナでの残虐行為で標的にされてきた。米国が中国を標的にしたように、アジア系米国人や太平洋諸島民が白人至上主義の十字線上にあるのは驚くことではない。4月にコロンビア大学が発表したところによると中国系アメリカ人の4人に3人が、過去12カ月間に人種差別を受けたことがあると答えている。

トランプ政権がスパイを訴追するチャイナ・イニシアチブを立ち上げたとき、司法省は中国系アメリカ人や中国人を人種的にプロファイリングした。2018年から2022年にかけて米国の研究機関との提携を取りやめた中国人研究者の数は23%急増した。バイデン政権はこのイニシアチブを終了させたが、司法省と議会の反中委員会は依然として中国人コミュニティの政治指導者を標的にしている。

バイデン政権は前任者が行ってきた取り締まりを継続する一方、彼の政権もアジア太平洋地域でエスカレートしている。フィリピンにおける軍事基地の拡大から台湾有事に参加するための基地の建設、中国を標的にしたAI無人ドローン群の構築と、軍国主義者たちは太平洋での熱い戦争の条件を整えようとしている。米国が戦争の準備を進める中、『フォーブス』は9月25日、空母の「キルチェーン」とそれが中国との戦争で使われる可能性に関する記事を掲載した。2月には米海軍機が中国領空に接近するのにCNNの記者が同行した。中国軍パイロットがアメリカに安全な距離を保つよう警告すると、アメリカの兵士は「これがふつうの南シナ海の金曜日の午後だ」と言い放った。

アメリカの侵略を常態化させているだけではない。我々はまた、軍産複合体をバイアスのかかっていない情報源として頼りにしている。戦争推進のプロパガンダは中米関係を頓挫させ、反アジアヘイトを増大させ、太平洋全域の世論の現実を隠している。

2021年、イギリスとオーストラリアとAUKUS軍事協定を締結し、昨年は中国経済を制限するために厳しい輸出規制を行った後、アメリカの2023年はオリーブの枝(平和や和解の象徴)のように始まった。アントニー・ブリンケン国務長官は2月に中国を訪問する予定だった。そして「スパイ気球」がやってきたのだ。

中国の気球はコースを外れ、最終的に米軍によって撃墜された。ウォール・ストリート・ジャーナルとNBCは、気球の監視能力に関するパット・ライダー米空軍准将の発言を無批判に掲載、放映した。2月8日付のニューヨーク・タイムズは3人の匿名政府関係者を引き合いに出し、「アメリカの情報機関は中国のスパイ気球計画は世界的な監視の一環だとみなしている」と伝えた。同記事は米国務省が外国政府高官に行ったブリーフィングについて触れており、「気球が情報収集のために装備されていること、中国軍がこの収集を何年にもわたって行っており、とりわけ日本、台湾、インド、フィリピンの領土を狙っていることを示すためのものだった」と報じた。

4月3日、BBCとCNNは匿名の関係者を引用しながらも、気球の撮影能力について矛盾した記事を掲載した。

ライダー米空軍准将が、データが送信されていないことを認めたのは6月29日のことだった。9月には、当時のマーク・ミルリー統合参謀本部議長が気球はスパイ行為すら行っていなかったとCBSに語った。これは気球に関する中国の声明やアメリカの気象学者の声明と一致していた。しかしすでにダメージは大きかった。ブリンケンは中国行きを延期した。最終的に6月、ブリンケンはパプアニューギニアの後で中国に行った。パプアニューギニアでは米国との安全保障協定の下で国を軍国化する計画を拒否する学生のデモが行われていた。

5月26日、ブリンケンは演説を行い、中国について言及し「長期的な挑戦」だと述べた。ポリティコはさらに踏み込んで5月26日号で「ブリンケンは中国を世界秩序に対する『最も深刻な長期的』脅威と呼んでいる」という記事を掲載し、同日のUSAトゥデイの記事もまた、挑戦と脅威を同じ意味で使うという勝手な解釈をしている。

プリンストン大学の研究によれば、中国を脅威と認識するアメリカ人は、中国人を信頼できない不道徳な存在とステレオタイプ化する傾向が強いという。中国の脅威に関する情報リークが古くからの黄禍症候群と結びついて、絶え間ない中国恐怖症が我々の政治を支配しているのだ。

誤報、もうひとつのパンデミック

2020年5月、トランプ大統領は100万人の新型コロナ患者と10万人近い死者を記録したアメリカで、パンデミックは中国のせいだと語った。ここでもまた、指導者たちは非公開の情報を引き合いに出した。CNNはウォール・ストリート・ジャーナルがウォルター・ラッセル・ミードの論説「China is the real sick man of Asia(中国はアジアの真の病人)」を掲載した後、中国の生鮮食料品市場の映像を流した。1年後、ポリティコはトランプが自分の主張を裏付けるために情報を選んで使ったことを認めたが、バイデン政権は結局、研究所のリーク説も調査しようとした。そしてメディアもそれに同調した。

ウォール・ストリート・ジャーナルでは、イラク戦争推進派のマイケル・ゴードンが「中国の武漢ウイルス研究所の3人の研究者が2019年11月に病院の治療を受けるほど病気になった」と主張する記事を共同執筆した。匿名の情報源は、「さまざまな情報源からもたらされた情報は、絶妙な質のものだった」と言った。しかし、その情報源は研究者たちが病気になった理由はわかっていないと認めている。

この記事は、保守的なハドソン研究所のデビッド・アッシャー上級研究員の証言と、中国が新型コロナの症状がない市民の医療記録を共有していないという事実に依拠している。さらに他の複数の匿名アメリカ政府高官が、トランプ時代の情報はまさに状況証拠に過ぎないと認めている。

この1年前、CNNが司会を務めた2020年民主党大統領予備選で、ダナ・バッシュはバーニー・サンダースに尋ねた。「中国は世界的危機における役割に対して、どのような結果に直面すべきか?」 彼女は武漢当局がいかにしてWenliang博士を黙らせたかに言及して質問した。しかし中国の最高裁判所が武漢市の警察を非難したことには触れなかった。彼女はまた、武漢ウイルス学研究所のShi Zhengliが2020年7月、彼女の研究室のスタッフと学生全員が新型コロナ陰性であることを明らかにしたことも認めなかった。Shiは自分の研究をアメリカの科学者たちとも共有していた。ジョージタウン大学のコロナ起源の専門家であるダニエル・ルーシーは、Shiの透明性を歓迎した。「私が知らなかった新しい事実がたくさんある。彼女から直接聞けるのはとてもエキサイティングだ」

しかし、中国人を病気の運び屋とステレオタイプ化した1875年のページ法(中国人の入国を事実上禁止した法律)からパンデミック時の職業差別まで、メディアの無責任さと医療人種差別への加担のツケを最終的に払うのはアジア系アメリカ人である。彼らはすでに新たな冷戦の犠牲者のひとりとなっている。しかし、この戦争はアメリカだけでなく、地球全体をも脅かしている。

原則ではなく利益

この夏、アメリカは主権国家のみに許された対外軍事移転プログラムに基づいて台湾を武装させた。これは台湾海峡の両岸がひとつの中国であることを認めるというOne-China(一つの中国)政策に反する。バイデンはまた、台湾への武器供与を議会への追加要求に盛り込もうとしている。台湾への武器売却は、1979年の台湾関係法にさかのぼる。また、レーガン政権が、アメリカは武器を送り続けるが、台北と北京の仲介役にはならないと確約したことにもさかのぼる。1996年、米中間の軍事的対立が台湾海峡で勃発し、その後、現在に至るまで殺傷能力の高い武器の流れが強まっている。

ニューヨーク・タイムズは9月18日付で、ナンシー・ペロシ前下院議長の台湾訪問に言及した記事を掲載し、「それは台湾支援の表れ」と述べた。ブルッキングス研究所が実施した調査では、台湾住民の大多数が彼女の訪問は安全保障にとって有害であると感じていることなど気にも留めていない。メディアはまた、戦争を望まず、統一を支持し、教科書から中国の歴史を削除しようとする試みを拒否する台湾の声をしばしば無視する。

それでもFox Newsは、9月20日にも南シナ海での軍事パトロールの強化を主張するヤング・キム下院議員のような記事を掲載し続けている。10月17日付のワシントン・ポストは、米国防総省が過去2年間に米軍機を迎撃した中国軍の航空機の映像を公開したという記事を掲載した。その記事はアメリカの拡張主義の文脈や複数の国防長官がその係争中の海洋国境について北京を脅迫したことについての背景を共有していない。Microsoftもこの動きに参加しており、CNNやロイターの記事が先月このソフトウェア企業の主張を無批判に掲載している。その主張とは中国がアメリカの選挙に干渉するためにAIを使用しているというものだがその証拠は有権者に知らされていない。

これは、戦争で利益を得ようとする者たちが、いかに我々を戦争に近づけようとしているかを示している。パトリオット兵器システムを台湾に送り、占領下の北マリアナ諸島でF22ラプターによる攻撃の練習を行うなど、この地域の住民が戦争の勃発を恐れている一方でロッキード・マーチンは儲かる契約を手にしている。RTXはイスラエルにアイアンドーム(ミサイル防衛システム)を供給し、現在は太平洋の砲艦のエンジニアリング・システムを設計している。武器商人が儲かれば帝国主義の犠牲者は死ぬ。軍と強いつながりを持つMicrosoft、News Corp,ワーナーブラザース・ディスカバリーが自分たちの株さえ上がればよいと思っているとは考えにくい。諜報部員やメディアの大物たちは、人間や地球にとって何が最善なのかわかっていない。だから今こそ中国についてバランスの取れた細部や微妙な違いを理解することが必要だ。それは言説を武装解除し、太平洋を平和に保つことから始まる。

The Need to Disarm the Discourse on China