No. 1986 習近平、サンフランシスコでバイデンを出し抜く

Xi Outmaneuvers Biden in San Francisco

by Pepe Escobar

テーブルの片側には、グローバル・サウスのリーダー。もう一方には、自分は「自由世界のリーダー」であるという幻想を売るミイラ。

それは崖っぷちに立たされているようなものだった。世界のトップ2が関わる重要な二国間の、前も、その間も、その後でも。すでに最初の挨拶の間、ミイラの右側に座っていたトニー・ブリンケン米国務長官はヒッチコック監督の『めまい』(1958年)で高所恐怖症になったジェームズ・スチュワートのように怯えていた。

そしてそれは最後の記者会見で現実となった。ミイラ役の俳優ジョー・バイデンは、冷ややかな微笑みに続いて、中国の習近平国家主席を「独裁者」だと言った。なぜなら彼は共産主義国の指導者だからだ。

それまでの綿密な計画は一瞬にして崩れ去った。暫定的なバラ色のシナリオは、暗黒映画に変貌した。中国外務省の反応はダシール・ハメットの一発芸のように鋭く、そして文脈に即して、これは「極めて間違っている」というだけでなく「無責任な政治的操作だ」と述べた。

もちろん上記はすべて、ミイラがどこにいて、何について話しているのかを知っていて、”即興 “で、普遍的なイヤホンから指示されていなかったことを前提としている。

ホワイトハウスが筋書きをバラす

2時間強に及んだ習近平とバイデンのドラマは、『めまい』のリメイクというわけではなかった。ワシントンと北京は、「様々な分野での対話と協力の推進と強化」ということを共同で約束し、かなり心地よさそうにみえた。たとえばAIに関する政府間対話、麻薬取締における協力、ハイレベルの軍事対軍事会談の復活、「海上安全保障協議メカニズム」、2024年初頭までの大幅な航空便の増便、教育、留学生、文化、スポーツ、ビジネス界における「交流の拡大」などである。

米国が北京に提供するのは、高価なマルタの鷹(「夢のようなもの」)とはほど遠いものだった。中国はすでに、購買力平価(PPP)で世界トップの貿易経済国として確固たる地位を築いている。中国は米国の厳しい制裁下でも技術競争において猛スピードで前進している。グローバル・サウス/グローバル・マジョリティ全体における中国のソフトパワーは日に日に増している。中国はロシアと共同で多極化に向けた協調的な推進を行っている。

ホワイトハウスの発表は平凡なものに見えるが実は筋書きの重要な部分を伝えている。

バイデン(実際には彼のイヤホン)は、「自由で開かれたインド太平洋への支持」を強調し、「インド太平洋の同盟国」の防衛、「航行と上空飛行の自由へのコミットメント」、「国際法の順守」、「南シナ海と東シナ海における平和と安定の維持」、「ロシアの侵略に対するウクライナの防衛」への支持、および「テロリズムに対するイスラエルの自衛権への支持」を表明した。

北京は、これらの誓約のそれぞれの背景と地政学的含意を詳細に理解している。

発表にはないが、バイデンのハンドラーたちは、戦略的パートナーであるイランから石油を買うのをやめるよう中国を説得しようとした。

それは実現しないだろう。中国は2023年の最初の10ヵ月間、イランから1日平均105万バレルの石油を輸入しており、さらに増えつつある。

米国のシンクタンクは、つねに誤情報や偽情報にたけており、ワシントンはウクライナとイスラエル/パレスチナの上に、3つ目の情事(失礼、戦線)を持つ余裕がないことを知りつつ、習近平がアジアで米国に対してタフガイを演じているという彼ら自身の幼稚な予測を信じていた。

実際、習近平は帝国戦争やハイブリッド戦争の戦線、さらにはスイッチ一つで起動する他の戦線について知り尽くしている。米国は台湾だけでなく、フィリピン、日本、韓国、インドで混乱を引き起こし続け、中央アジアではカラー革命の可能性をちらつかせ続けている。

中国の千年にわたる外交的専門知識と長期的視野のおかげで、米中が直接対決することはまだない。北京は、ワシントンが一帯一路構想(BRI)とBRICS(まもなくBRICS11になる)に対して、同時にフルハイブリッド戦争モードに入っていることを詳しく知っている。

中国とアメリカには2つの選択肢しかない

中国系米国人記者は、挨拶の後、習主席にバイデンを信頼しているかと北京語で尋ねた。中国国家主席はその質問を完璧に理解し、彼女の顔を見て、そして答えなかった。

これは重要な筋書きだ。結局のところ、習近平は最初からハンドラーたちがイヤホンを操作して話していることを知っていた。さらに、習近平はバイデン、実際には彼のハンドラーたちが、北京を「ルールに基づく国際秩序」に対する脅威と決めつけ、「新疆ウイグル自治区の大虐殺」という執拗な非難に加え、封じ込めの津波が押し寄せていることも十分承知していた。

偶然ではなく、習近平は昨年3月、共産党の要人を前にした演説で、米国が「われわれに対する包括的な封じ込め、包囲、弾圧」を行っていると明言している。

上海在住の学者Chen Dongxiaoは、中国と米国は「野心的なプラグマティズム」に取り組むべきだと提言している。それはまさに習近平がサンフランシスコでした演説の重要な部分だった。

 100年に一度の世界的変革の時代において中国と米国には2つの選択肢がある。1つは、連帯と協力を強化し、手を携えて世界の課題に対処し、世界の安全と繁栄を促進すること。もう1つはゼロサム思考にしがみつき、対立と軋轢を引き起こし、世界を混乱と分裂に向かわせることである。 この2つの選択は、人類と地球の未来を決める2つの異なる方向性を示している。

それは極めて重大な問題だ。習近平は文脈を加えた。中国は植民地略奪に従事しておらず、イデオロギーの対立には興味がなく、イデオロギーを輸出していない。また、米国を追い越したり置き換えたりする計画もない。したがって米国は中国を抑制または封じ込めようとするべきではない。

バイデンのハンドラーたちは習近平に、北京が「侵略」してくるかもしれないというねじ曲がった論理のもとで台湾を兵器化し続けながらも、ワシントンはいまだに「一つの中国」政策を貫いていると伝えたのかもしれない。すると習近平は再び、「中国は最終的に、必然的に台湾と統一する」という簡潔な決めゼリフを述べたのだ。

4万ドルの習近平とのビジネス・ディナー

あからさまな緊張感の中でサンフランシスコではビジネスという形で安堵感がもたらされた。マイクロソフト、シティグループ、エクソンモービル、アップルなど、あらゆる企業がAPEC参加国の首脳と会いたがっていた。特に中国の首脳にだ。

APECは世界人口の40%近くを占め、世界貿易の50%近くを占めている。これはアジア太平洋であり、「インド太平洋」ではない。誰も何も知らない、ましてやアジア全域で使われているわけでもない、空虚な「ルールに基づく国際秩序」の策略である。アジア太平洋地域は2023年には世界の成長率の少なくとも3分の2を占めることになるだろう。

それゆえ、米中関係全国委員会(NCUSCR)と米中ビジネス協議会(USCBC)が主催した、2千ドルから4万ドルのチケットが用意されたハイアット・リージェンシーでのビジネス・ディナーは大成功を収めた。必然的にショーの主役となったのは習近平だった。

米国が環太平洋パートナーシップ包括的および先進的協定(CPTPP)から離脱したこと、そして新たな貿易策、いわゆるインド太平洋経済枠組み(IPEF)が基本的に到着早々に暗礁に乗り上げたことを、企業の有力者たちは事前によく知っていた。IPEFはサプライチェーンの問題を扱うかもしれないが、関税の引き下げと幅広い市場アクセスという問題の核心を突いていない。

つまり習近平は中国だけでなく、アジア太平洋の大部分を投資家に「売り込む」ためにそこにいたのだ。

サンフランシスコの1日後、活動の中心は上海に移り、ロシアと中国のハイレベル会議が開催された。このような会議では、戦略的パートナーシップが多極化への長征の前途を策定する。

サンフランシスコで習近平は、中国が米国の「歴史的、文化的、地理的立場」を尊重することを強調する一方で、米国が「中国の特色ある社会主義の道」を尊重することを望んでいることを強調した。

そしてここで、暗黒映画の筋書きがクライマックスに近づく。習近平が望んでいることは、ストラウス派のネオコン・サイコパスが米国の外交政策を担当しないようになることだ。そしてそれは、ミイラことジョー・バイデンが「独裁者」と呼んだことによって厳然と確認された。

中国とアメリカは互いに必要であり分離すべきではないと考える、『めまい』のジェームズ・スチュワートとキム・ノヴァクのように、数少ない現実主義者の一人である現実政治の実践者である「ソフトパワー」のジョセフ・ナイはもういない。

まあ、残念ながら、『めまい』ではヒロインは虚空に突っ込んで死んでしまうのだが。

https://www.unz.com/pescobar/xi-outmaneuvers-biden-in-san-francisco/