No. 2264 新しい多極化時代に平和を実現する

Achieving peace in the new multipolar age

by Jeffrey D Sachs

1991年のソビエト連邦の崩壊により、米国は無敵の覇権国として世界を支配すると思い込んだ。しかし米国の「一極」時代は短命に終わった。米国の地政学的な優位性は、中国の台頭、ソビエト崩壊後のロシアの回復、そしてインドの急速な発展によって終焉を迎えた。私たちは新たな多極化時代に突入したのである。

米国は依然として世界の覇権を維持しようと戦っているが、それは妄想であり、失敗に終わるだろう。たとえ世界が望んでいたとしても、それはありえないことだが、米国は世界を導く立場にはない。世界の生産高に占める米国の割合(国際価格)は16%で減少傾向にある。1950年には約27%、1980年には21%であった。中国の割合は19%である。中国の製造業生産高は米国のおよそ2倍であり、最先端技術においても米国に肩を並べている。

米国は軍事的にも拡大しすぎており、80カ国に750もの海外軍事基地を持っている。米国はイエメン、イスラエル・パレスチナ、ウクライナ、シリア、リビアなどにおいて長期にわたる戦争を続けている。米国の戦争と覇権追求は、中国などのライバル国への負債を含む借金によって賄われている。

さらに米国の予算編成は麻痺している。政治運動に資金提供している富裕層は減税を望み、貧困層は社会支出の増額を望む。その結果、慢性の財政赤字(現在GDPの5%以上)という膠着状態に陥っている。公的債務は2000年のGDPの約35%から、現在ではGDPの100%に膨れ上がっている。

米国は人工知能やマイクロチップ設計などの分野で技術的なダイナミズムを維持しているが、米国のブレークスルーは、中国得意のノウハウの普及や進歩によりすぐに中国に追いつかれる。先進的なソーラーモジュール、風力タービン、原子力発電所、バッテリー、チップ、電気自動車、5Gシステム、長距離送電網など、世界のグリーンおよびデジタルハードウェアのほとんどはアジアで製造されており、その大半は中国または中国が主導するサプライチェーンが占めている。

財政赤字を理由に米国はグローバルなリーダーシップの財政的負担を回避している。米国はNATO同盟国に対して自国の軍事防衛費を負担するよう要求しているが、一方で気候変動や開発資金のための国連システムへの貢献はますます出し惜しみしている。

つまり、米国が自国を世界の覇権国であると錯覚している一方で、私たちはすでに多極化された世界に生きているのだ。では、この新たな多極化が何を意味するのかという疑問が生じる。可能性は3つある。

1つ目は、現在の趨勢は、米国と中国、ロシア、その他の国々との間で、主要国間の優位性を巡る争いが続くというものである。米国の外交政策研究の第一人者であるジョン・ミアシャイマー教授は、「攻撃的リアリズム」理論を提唱している。それによれば、大国は必然的に優位性を巡って争うことになるが、その結果は悲惨な戦争という形で現れる可能性がある。私たちの課題は、このような悲劇的な結末を避けることであってそれを宿命として受け入れることではない。

2つ目の可能性は、大国間の勢力均衡による不安定な平和で、「防御的リアリズム」と呼ばれるものである。米国は中国やロシアを打ち負かすことはできないし、その逆もまた然りであるため、大国は直接的な衝突を回避することで平和を維持すべきである。米国は、ロシアの強い反対を押し切ってNATOをウクライナに介入させようとしたり、中国の強い反対を押し切って台湾に武器を供与したりすべきではない。

つまり、大国は互いのレッドラインを避け、慎重に行動するべきである。これは確かに良い助言ではあるが、十分ではない。パワーバランスは不均衡へと転じ、平和を脅かす。19世紀のヨーロッパにおける主要国間のパワーバランス、すなわちヨーロッパ協調体制は最終的には19世紀末のパワーバランスの変化に屈して第一次世界大戦へとつながった。

過去30年間、米国の指導者たちにはばかにされてきたが、私たちの最大の希望である3つ目の可能性は、大国間の真の平和である。この平和は世界的な覇権国は存在し得ないという認識を共有し、共通善のために大国間の積極的な協力が必要だという認識に基づく。このアプローチには、理想主義(倫理に基づく世界)や制度主義(国際法や多国間機構に基づく世界)など、いくつかの基盤がある。

持続的な平和は可能である。19世紀に西洋列強が到来する以前の東アジアに長く続いた平和から、私たちは多くを学ぶことができる。哲学者Shuchen Xiangは著書『中国のコスモポリタニズム』(2023年)の中で、歴史学者David Kangの言葉を引用している。Kangは「明王朝の建国からアヘン戦争までの期間、つまり1368年から1841年までの間、中国、韓国、ベトナム、日本間の戦争はわずか2回だけだった。それは中国のベトナム侵攻(1407年~1428年)と日本の朝鮮侵攻(1592年~1598年)である」。東アジアの長きにわたる平和は1839年~1842年のアヘン戦争における英国の中国攻撃と、それに続く東西(およびのちの日中)の対立によって崩壊した。

Xiang教授はヨーロッパの政治の特徴であった覇権争いとは対照的に、中国、韓国、日本、ベトナムの政治を支えていた儒教の調和の規範が、東アジアの半世紀にわたる平和をもたらしたと主張している。この長い期間、中国は地域における紛れもない覇権国であったが、その圧倒的な力を用いて韓国、ベトナム、日本を脅したり傷つけたりすることはなかった。

中国の外交政策立案の専門家であるJean Dong博士も、著書『変化する世界における中国の外交政策:永続する伝統とダイナミックな制約の解明』{1}の中で、中国とヨーロッパの外交政策の違いについて同様の指摘をしている。

私は最近、「21世紀における恒久平和のための10原則」{2}を提案した。これは中国の平和的共存の5原則に、5つの実践的な追加ステップを加えた、儒教の倫理と制度主義の混合である。私の考えは、協力の倫理と国際法および国連憲章の実質的利益の活用にある。

9月に国連サミットが開催されるが、そこでの重要なメッセージはこれだ。覇権国は必要ない。パワーバランスは容易にパワーの不均衡へと転じる。私たち必要としているのは、倫理観、共通の利益、国際法と国際機関に基づく永続的な平和である。

Links:

{1} https://www.amazon.com/Chinese-Statecraft-Changing-World-Demystifying-ebook/dp/B0CGTT6J46/ref=sr_1_1?

{2} https://www.commondreams.org/opinion/10-principles-peace-21st-century

https://mailchi.mp/ad6083ccceba/jeffrey-sachs-achieving-peace-in-the-new-multipolar-age