No. 2618 中国のバイオテックの驚異的な進歩が世界の医薬品開発の流れを変える

China biotech’s stunning advance is changing the world’s drug pipeline

中国のイノベーションの代表例の一つは血液の癌治療に有望な細胞療法

By Amber Tong, Jinshan Hong and Spe Chen

バイオテクノロジー業界は構造的な変化の波に直面している。それを起こしているのはコピー製品の製造から脱却し、イノベーションの分野で欧米の優位性に挑戦する中国製薬企業である。

中国で開発段階に入った新規医薬品(癌治療薬、ダイエット薬など)の数は昨年1,250件を超え、EUを大幅に上回り、米国(約1,440件)に迫る勢いであることがブルームバーグ・ニュースの独占分析で明らかになった。

かつては安価なコピー製品や品質の問題で悪名高かった中国から、医薬品規制当局や欧米の製薬大手から高い評価を得る医薬品候補が次々と誕生している。

医薬品情報ソリューションプロバイダーの Norstella が管理するデータベースの分析から得られたこの調査結果は、医療イノベーションの重心が根本的に変わったことを示している。トランプ大統領が医薬品業界への関税引き上げを脅す中、その規模が徐々に明らかになってきている中国のバイオテクノロジーの進歩は、AIやEVと同様に超大国の競争の新たな分野となるリスクがある。

「その規模自体、これまでに見たことのないものだ。製品もすでに存在し、魅力的で開発も迅速だ」と2003年から医療企業の中国戦略をアドバイスしているLEK Consulting の上海支社長、ヘレン・チェンは語る。

この変化はかつてない速度で起こっている。2015 年に中国が医薬品規制制度の見直しを開始したとき、中国の革新的な医薬品のグローバルパイプラインは 160 種類と全体の 6% 未満で、日本や英国に後れをとっていた。制度の見直しはレビューの効率化を助け、データ品質基準を強化し、透明性を向上させた。さらに10の優先分野における製造業の向上を目的とした中国政府の「Made in China 2025」計画は、バイオテクノロジー分野への投資ラッシュを後押しした。これらによって海外で教育を受けた科学者や起業家を中心にブームが巻き起こったのだ。

「現在、中国は米国とほぼ同水準に達しているだけでなく、成長の軌道を描いている」とNorstellaの思想リーダーシップ担当副社長、ダニエル・チャンセラーは述べた。「数年のうちに中国が数の上で米国を追い越す可能性は現実的なシナリオだ」と指摘した。

ブルームバーグ・ニュースのデータ分析は、ジェネリック医薬品の組み合わせ、再製剤、バイオシミラーを除く革新的な医薬品に焦点を当てている。

数字以外の驚くべき躍進は、中国のバイオテクノロジーのイノベーションの質にある。製薬業界では、中国企業が効果的なだけでなく、医療のパラダイムシフトをもたらすような新薬を生産できるかどうかについて議論が絶えないが、さまざまな面で認識が高まっている。米国食品医薬品局(FDA)や欧州医薬品庁(EMA)を含む世界最厳格な規制当局は、中国製医薬品が一般的に有望であり、審査を加速するために追加リソースを投入する価値があると判断するケースが増加している。これにより、優先審査、画期的な治療法指定、または迅速承認ステータスといった業界で希少な指定が与えられている。

データによると、2024年時点で中国はEUをわずかに上回り、このような迅速審査の件数でリードしている。これは、かつてウェゴヴィー(デンマークの製薬会社が開発した肥満症治療薬)のような医薬品を生み出した地域に対して、驚くべき優位性だ。

中国のイノベーションの事例の一つは、命取りである血液の癌を治す可能性を示している細胞療法である。中国のレジェンド・バイオテックが最初に開発し、ジョンソン・エンド・ジョンソンが販売しているこの療法は、いくつかの迅速審査指定を獲得し、競合する米国発の療法よりも優れていると評価されている。

それでも、迅速審査指定を獲得した中国発の医薬品は絶対数として米国の医薬品に大きく後れをとっている。

中国の製薬イノベーションを阻む要因の一つはリスク回避である。現在、主要企業は既存療法の改良版や古いアイデアの新たなバリエーションに焦点を当てており、失敗リスクが高く、米国、欧州、そしてある程度日本が主導する未踏の治療法開発に挑む企業は少ない。

それでも、最も大きな中国の革新技術は製薬大手企業によって記録的な金額で次々と買収されており、次なるブロックバスター薬を巡る恒常的な競争が東へシフトしている兆候が見られる。

Akesoが開発した新しい癌治療薬は、昨年中国の研究でメルク社のKeytrudaより効果があると判明し、中国バイオテックにおけるDeepSeekモーメントに例えられ、新たなグローバルな関心を集めた。Keytruda(世界売上高第1位の医薬品)を超える可能性はサミット・セラピューティクス社の企業価値を急上昇させた。同社は2022年に米国を含む地域での開発・販売権を取得するためにすでに5億ドルを支払っている。

メルク、アストラゼネカ、ロシュ・ホールディングスなどの多国籍企業も中国資産の買収に動いている。5月にはファイザーがAkesoの薬に類似した癌治療薬に関してSBioと記録的な$12億ドルの前払い契約を発表した。バイオファーマ取引データベースのDealFormaによるとこれらの取引は価値と頻度ともに増加しており、中国発の薬が国際的に競争力があり、多額の収益をもたらす可能性を裏付けている。

有望な候補となる中国製の薬品は、常に新製品を追加する必要がある多国籍企業にとって「これまで以上に広範囲で製品を探すことができる」とNorstellaのチャンセラーは述べた。

中国バイオテック企業が台頭する裏には、実験室での実験から動物実験、人間臨床試験に至るまでのすべての段階でより安価かつ迅速に研究を実施できるという優位性にある。

ゼロからの新薬開発は時間と費用がかかることで知られているが、中国の巨大な患者層と中央集権的な病院ネットワークがその加速要因なのだ。薬が各種試験段階を経るのに要する時間を分析すると、中国の医師は臨床試験の被験者募集をはるかに迅速に行うことができる。癌や肥満治療薬の早期臨床試験では米国でかかる時間の半分で被験者を募集できる。

コストの差は、中国企業が複数の臨床試験を同時に実施して有望な候補を絞り込むか、他の研究グループによって科学的根拠が確認された時点で迅速に新規プロジェクトを立ち上げる余裕があるということだ。

GlobalDataによると、中国は2021年以降、臨床研究の主要拠点となり世界最多の新規臨床試験を開始している。

「彼らは他国の競合他社を追い越すことができる」と臨床試験を支援するノボテック・ヘルス・ホールディングスの中国責任者、アンディ・リウは語った。

ただし、中国の臨床データはあくまで始まりに過ぎない。米国規制当局は、中国でのみ実施された臨床試験の結果はどれだけポジティブでも薬品の承認を支持する十分な根拠とはならないと明言している。海外での医薬品販売を目指す中国のバイオテック企業は、複雑で時間がかかるグローバルな研究を通じて自社の治療法が中国以外の患者にも有効であることを証明しなければならない。

中国発の医薬品が、高品質治療のゴールドスタンダードである米国とEUの承認を獲得し、西洋諸国で広く使用されるようになるまでにはまだ数年かかるかもしれないが、業界の多くはそうなることは不可避だと考えている。

中国のイノベーターには海外で教育を受けた起業家によって設立された最先端のバイオテックスタートアップ企業と、かつては中国最大のジェネリック医薬品メーカーの一つであった江蘇恒瑞製薬のような伝統的な中国製薬企業がある。

江蘇恒瑞製薬社は北京のジェネリック医薬品価格引き下げキャンペーンによりその分野の利益率が低下したため、革新的な研究開発への転換に数十億ドルを投じた。同社は現在、2020年から2024年の期間に研究パイプラインに追加された革新的な新薬の数で世界トップの製薬会社となっている。

2020年から2024年の間に最も多くの革新的な医薬品候補を生み出した50社のうち20社が中国企業で、5年前その数は5社だった。

「今後、中国におけるバイオテクノロジー分野の革新の質の高さはもはや目新しいことではなくなり、単に普通のこととして受け入れられるようになるだろう」と、ロンドンを拠点とする医療コンサルティング会社Treehill Partnersの創業者兼マネージングディレクター、アリ・パシャザデは述べた。

中国と米国が新たな地政学的対立に直面する中、中国のバイオテクノロジー・エコシステムの成長は一部の米国政治家やビジネスリーダーの間で懸念を引き起こしている。議会委員会は米国が国家安全保障に不可欠なもう一つの産業におけるリーダーシップを失うリスクがあると警告した。

「バイオテクノロジーは米中技術競争の最前線の一つだ」と、シンクタンク「民主主義防衛財団」の研究アナリスト、ジャック・バーナムは述べた。バイオテクノロジーの経済的影響や軍事応用可能性に加え、中国が革新的な治療法への影響力を将来の紛争で武器化する場合、米国人がそれらの医薬品に依存する状況が生まれる可能性があると指摘した。

この脅威に対する認識から、米国政府に対して科学機器の輸出規制や投資の障壁などの制限措置を通じて中国のバイオテクノロジーの成長を阻害し、臨床試験が迅速に行われる国々を模倣した規制環境の変更など、国内のバイオテクノロジーセクターの振興を図るよう求める声が高まっている。ロバート・F・ケネディ米国保健福祉長官は最近、「米国のバイオテクノロジーを加速させること」を公約した。

世界最大の 2 つの経済大国間の新たな対立関係によるリスクにもかかわらず、Akeso など中国の製薬企業は、先進的な欧米市場への治療薬の進出を目指している。

「製薬業界は世界で最も良い業界だ」とAkeso の CEO、ミシェル・シアは 4 月のインタビューで語った。「結局のところ私たちの活動は中国、米国、そして世界中の患者たちに恩恵をもたらしているのだ」

https://www.japantimes.co.jp/business/2025/07/14/tech/china-biotech-world-drug-pipeline/