No.150 国民を見捨て海外援助を増やす日本の政策

 阪神大震災から3年目を迎えた今年初めに、公的支援を提供しないまま震災被災者を3年間見捨ててきた一方で、国連の拠出金や海外援助を増大させる日本政府の政策に矛盾を感じ、以下のような記事を書きました。是非、お読み下さい。皆様からのご意見をお待ちしております。

国民を見捨て海外援助を増やす日本の政策

 1998年1月17日、あの阪神大震災から3年目を迎えた。6,430人の生命を奪い、46万棟の住宅が全半壊したといわれる阪神大震災から3年が経過したが、被災者達は依然として窮状を訴えている。
 被災者有志の呼びかけで集まった2,500通の被災者の「声」から、以下いくつか拾った。「3年経ちましたが日を追うごとに市民の生活が苦しくなっています」(神戸市須磨区の55歳女性)。「住宅と店の再建に1,000万円かかりました。店の売上も震災前の半分。借金も返せません」(神戸市東灘区の57歳男性)。「もう風化させてしまおうというお考えなのではありませんか」(自宅再建で二重ローンを抱える芦屋市の57歳女性)。
 また、こうした窮状を以下のデータが裏付けている。

● 「震災関連死」の追加で増えた震災の死者:6,430人
● 再調査で増えた住宅の全半壊:45万7,885世帯(この他全半焼が兵庫県下だけで9,322世帯)
● 仮設住宅の入居者:2万4,337世帯
● 公共施設や公園でいまも避難生活:9ヵ所、112人
● 県外避難者:推定10万人
● 仮設住宅の「孤独死」:191人(98年1月15日現在)
● 神戸市内の仮設住宅で健康面の指導が必要な人:約3,000人
● 神戸市の災害復興公営住宅でも健康面の指導が必要な人:931人
● 下降をたどる有効求人倍率:0.46(全国は0.69、昨年11月)
● 昨年の倒産件数は過去10年で最悪:609件(帝国データバンク)

(『赤旗』、1998年1月17日より)

 このような状況に対して、政府はどのような対策をとったのか。政府が震災復興のためとしてこれまでに投入した4兆円の大部分は道路、鉄道、港湾など都市基盤の整備にあてられた。その中で大企業は「復興」したが、被災者一人一人の生活と営業を再建するという願いは、切り捨てられていると被災者は見ている。そして、仮設住宅には今も約2万5,000世帯が住む。
 そうした中、被災地では、震災以来、公的支援・個人補償を求める運動が続いている。その声が届いてか、政治家が公的支援策について、ようやく重い腰を上げた。まず昨年5月、超党派の「災害被災者等支援法案」が参院に提出され、12月の臨時国会閉会時も継続審議となった。また、旧新進党、民主党、太陽党など三野党も昨年末に支援法案を参院に提出した。その後、自民党案、政府案も用意され、審議が行われている。しかし、以下を見れば明らかなように、自民党案、政府案はいずれも阪神大震災に溯っては適用されず、金額もわずかなものにとどまっている。
 また政府がこの構想を発表したのは、1998年1月12日であり、政府が公的支援について初めて触れるまでに実に3年もかかったことになる。そしてこの間、仮設住宅での「孤独死」が190人を数えたのである。

<<< 災害被災者の公的支援案 >>>
 
◇ 災害被災者等支援法案(有志議員)
1.対象: 阪神大震災を含む全半壊(焼)被災者
2.支給上限: 全壊500万円、半壊250万円
3.財源: 国2分の1、都道府県と市町村各4分の1
◇ 阪神・淡路大震災被災者支援法案(旧新進、民主、太陽)
1.対象: 阪神大震災の全半壊(焼)被災者のみ
2.支給上限: 震災見舞金として全壊100万円、半壊60万円
3.財源: 国
◇ 被災者生活再建支援基金法案(自民特別委員会)
1.対象: 基金成立後の全半壊(焼)被災者
2.支給上限: 年収500万円以下は100万円、年収500万円超~800万円以下は50万円(半壊世帯には各半額支給)
3.財源: 都道府県出資の基金、国が支給費用の半額補助
◇ 被災者自立支援事業構想案(政府)
1.対象: 基金成立後の全壊被災者
2.支給上限: 年収300万円以下は50万円、年収300万円超~700万円以下の要援護世帯25万円
3.財源: 都道府県出資の基金、国が支給費用の半額補助

 神戸市西区の西神工業団地仮設住宅の自治会長、東喜信さん(65歳)は国に支援を訴えるため、一昨年から二年続けて上京した。「何ぼ訴えても分からんのだったら、孤独死の姿を目の前で見せてやろう」と国会前でハンストもした。暮らしは年金が頼りで、生活費を稼ぐため妻が清掃のパートに出るようになったという。今夏、ようやく復興公営住宅に移ることができる。「年寄りにとっては取り返しのつかない三年であった。被災者を助けてくれなかった国は弱いものを見捨てている」という(98年1月18日付け『朝日新聞』)。

 さて、政府の震災被災者に対する公的支援・個人補償対策がこれだけ遅れ、高齢者と1人暮らしが取り残された仮設住宅では、結果として、年を経るごとに「孤独死」が増えている。さらに、健康を損ね、「継続的に保険指導が必要」と認定された人も、仮設や災害公営住宅の入居者の1割にのぼっているという。しかし、その一方で日本政府は日本国民ではなく、国際機関や外国に対する援助を着実に増加させているのである。
 まず国連であるが、国連分担金に占める日本の拠出額の増加には目をみはるものがある(以下の表参照)。また、昨年12月22日の国連総会では1998年から2000年の3年間の通常予算分担率を定める決議が全会一致で採択され、日本の分担率は西暦2000年に全分担金の20.57%に達し、5億ドル(700億円)の分担金を支払うことになっている。

 
国連通常予算分担金に占める日本の拠出額およびその割合

    1994年      1997年          1998年
分担金拠出額 割合  分担金拠出額 割合  分担金拠出額 割合
1.27 億ドル 12.6%   1.67 億ドル 15.65%   2.3 億ドル 17.98%
158 億円        208 億円         287 億円 

 

 次に日本が最近決定した国際協力および対外援助の例を紹介しよう。まず、昨年11月3日に対人地雷を全面的に禁止するオタワ条約が署名されたのを受け、日本は5年間で100億円の拠出を決めた。それだけではない。北朝鮮に軽水炉を供与する朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)が軽水炉建設の見積額を51億7,850万ドル(6,473億円)と決めたことで、日韓両国などがこれをどう分担するかが焦点となっている。昨年12月の時点では、韓国7割、日本2割、つまり1,300億円の負担になるであろうと外務省筋は説明していた。また、昨年来、IMFや世界銀行を通じた韓国支援がそれぞれ210億ドル、100億ドルと決まり、日本は二国間融資で100億ドル(1兆2,500億ドル)を提供することになった。
 阪神大震災が起きてからの過去3年間について、国連分担金や国際機関への出資や拠出も含めた、日本の政府開発援助額の推移を表にした。

               ODA一般会計予算
                [政府全体]          (単位:億円、%)

区分               1995年度    1996年度     1997年度
           予算額 増減 伸率 予算額 増減 伸率 予算額 増減 伸率

I.贈与         7,236 285 4.1  7,544 308 4.3  7,715 171 2.3
1.二国間贈与      6,021 253 4.4  6,256 235 3.9  6,418 162 2.6
(1)経済開発等援助    2,127  48 2.3  2,166  39 1.8  2,202  36 1.6
(2)食糧援助等       596  25 4.3   606  10 1.7   612  6 1.0
(3)技術協力       3,297 180 5.8  3,484 186 5.7  3,604 120 3.5
2.国際機関への出資・拠出1,216  33 2.8  1,288  72 6.0  1,297  9 0.7
(1)国連等諸機関      703  15 2.2   747  44 6.3   759  12 1.6
(2)国際開発金融機関   513  18 3.6   541  28 5.5   539 - 3 -0.5

II.借款         3,825 142 3.9  3,908  83 2.2  3,972  64 1.6
(1)海外経済協力基金  3,789 142 3.9  3,872  83 2.2  3.952  80 2.1
(2)その他          36 - 0 -0.8   35  -0 -0.8   20 -15-43.5

III.計         11,061 427 4.0 11,452 390 3.5  11,687 235 2.1

 上記の表が示すように、日本は阪神大震災が起こった1995年以来3年にわたり、毎年、1兆1,000億円以上の予算をODA(政府開発援助)に投じている。そして、この金額は昨年5月20日に超党派の国会議員が参院に提出した「災害被災者等支援法案」の実施に必要な金額、つまり、支援金を全壊世帯に最高500万円、半壊世帯に同250万円支給するために必要な資金、1兆950億円を上回っている(97年5月20日付け『読売新聞(夕刊)-関西版』)。なぜ日本政府は政府開発援助に割いている予算を自国の震災被災者の生活再建の手助けのために使おうとしないのか。1995年8月、政府は国際協力事業団(JICA)を通じて、アジア諸国の住宅団地づくりを促すために、中国やタイ、フィリピンなどに派遣する住宅づくりの専門家を増やし、日本の公団住宅のような団地建設を後押しすることを決めている。阪神大震災からまだ半年余りしか経っていない時に、神戸や大阪の住宅不足をよそ目に、日本政府は専門家を派遣するなどアジア諸国に対する支援を増加すると発表したのである。
 さらに皮肉なことに、阪神大震災被災者に対する公的支援の提供が遅れる中で、駐日米軍経費として、日本は、思いやり予算、2,800億円に加えて、基地周辺対策費、民公有地借地料などを合わせて、総額6,400億円を年間支払っている。米軍に対しては「思いやり」があっても、同じ日本国民に対しては思いやりを抱かないのであろうかと疑いたくなる。
 国際貢献や対外援助は自国の国民を見捨てても行うべきことなのであろうか。阪神大震災3年目に日本の矛盾した政策に改めて苛立ちを感じたのは私だけではなかったはずである。