No.544 借金まみれの帝国

今回は、イラクの攻撃を狙う米国が実は借金大国であり、その帝国主義的政策を支えているのは日本を初めとする債権国であることについてまとめてみました。是非お読みください。

借金まみれの帝国

イラクが大量破壊兵器査察を受け入れようが受け入れまいが、もはや米国がイラクに攻撃を開始することは時間の問題、早ければ11月、遅くとも来年1月というのがイギリス・ガーディアン紙をはじめ多くのメディアに共通する見方である。
この見方が固まったのも、9月にブッシュ米政権が「国家安全保障戦略」報告を発表し、そこで大量破壊兵器を開発している敵国やテロ組織に対しては先制攻撃を容認する軍事戦略へ転換したことを明示したためである。

先制攻撃を容認

イラクや北朝鮮など「ならず者国家」による大量破壊兵器の取得については、これまでのように脅威が現れた後に対応するのではなく、脅威が現実であろうが潜在的なものであろうが、脅威が現れる前に、先制攻撃を含む武力行使によって阻止するという。
「テロリスト」や「ならず者国家」の定義は、もちろん米国が一方的に行うものであり、換言すれば、米国に屈服しない反米諸国はすべてそれに該当する。それらすべてに先制攻撃をし得るというのだから、まさに帝国主義時代に逆戻りである。
しかし、ここで忘れてはならないのは米国が今や世界最大の債務国であり、債権者が貸し付けを引き上げれば米国は帝国を維持することはできなくなるということだ。20世紀、イギリスがその屈辱的な経験をしている。
当時米国は、巨額の負債を抱え衰退するイギリスを支えていた。しかし1956年、イギリスが植民地主義時代の最後のあがきのごとく、エジプトを侵略してスエズ運河奪還のために派兵した時、米国はそれを許さなかった。米国はIMFの融資を抑えてポンドを暴落させ、イギリスをスエズから撤退させた。威厳を失ったイギリス首相は辞任に追い込まれ、イギリスは世界の覇者という地位から失墜した。
もちろん、現在の米国は当時のイギリスの比ではない。しかし債務を抱えるアメリカ帝国を支えているのは海外資本であり、債権者は個人投資家やヨーロッパ、アジア諸国の政府である。
ヨーロッパやアジア諸国などの債権国は米国に資金援助することの見返りとして世界最大の消費者市場である米国へのアクセスを許され、貿易黒字という利益を手にしている。しかし、米国の負債が大きくなり過ぎたり、危ない冒険を始めようとすれば、イギリスに対して米国が取ったのと同じような行動を債権国が取る可能性がある。

対外債務2.5兆ドル

米国がいかに海外資本に依存しているかは数字を見れば明白だ。現在米国の対外債務の総額は、20年間の貿易赤字の拡大もあって約2.5兆ドル、GDPの約25%にも達している。貿易赤字がこのまま年間四千億ドル以上を維持すれば、米国の対外債務は3年後に3.5兆ドル、10年以内にはGDPの半分になる計算である。
第二次大戦後、日本やドイツなどの敗戦国は着実に製造業を伸ばして復活を遂げた。米国は自国の多国籍企業を通して世界中に資本投資を行って技術を広めた結果、国内産業は空洞化した。また、冷戦構造をつくり出し、その維持のために軍事支出を増大させてきた。
米国市場へのアクセス権を手にした日本は自動車や半導体、飛行機部品、工作機械などを輸出し、貿易黒字分のドルを使って米国債を買い続けた。1988年に債権国であった米国が世界一の債務国に転落したのは、新興工業国や発展途上国を含めた国々に金融自由化政策を強制し、ドルを世界中で流通させ、市場原理主義を擁して資金がアメリカに還流する仕組みをつくり上げたからである。
こうして各国が相互に依存する結果となったことは、世界平和の維持のためには悪いことではない。しかし問題はここにきて、米国が世界唯一のリーダーであるかのように振る舞い始めたことである。そしてリーダーとして行動することの代価が、巨額の軍事支出と貿易赤字なのである。

債権国が暴走阻止を

米国が今、フセイン政権を是が非でも倒そうとしているのは、中東にまん延する反米感情に気付いているためであろう。サウジアラビア出身のビン・ラディンはほんの一例に過ぎず、米国金融市場からは巨額のアラブ資本が流出しているといわれている。
その反米感情を止められなければ、中東の石油が自分たちの管理下に置けなくなる。そのためにも米国は中東に軍隊を送り込む必要がある。米国がどんな理由をこじつけてもイラクを攻撃したいのは、イラクの脅威でもテロでもなく、石油の供給に対する脅威を取り除き、中東の全域に親米で民主的な政権を樹立することで世界のリーダーの地位を確保するための戦略なのである。
アフガニスタンに無理やりつくられた親米政権では、米軍がカルザイ大統領を警護しなければならない。かつて米国が支援したイランのシャーもイスラム革命によって失脚した。たとえフセインを倒して親米政権を立てたとしても、イスラム革命の時と同様、国民の意思を反映しない政府は倒される。
米国の暴走を止められるのは日本をはじめとする債権国であり、そのカードを正しく使わなければ、21世紀は20世紀以上に戦争の世紀となることだけは間違いないであろう。