No.937 改革の痛みは庶民に

アメリカの株式市場の株取引の6割は、100人に満たない超富裕層の人々によってコントロールされているという話を友人から聞いた。過激な数字だが、富の集中はいま世界のあらゆる国で起きている。

改革の痛みは庶民に

貧しい国民が増えるほど数少ない人が豊かになるのだから、それがアメリカの現状でも不思議ではないかもしれない。金融情報を提供するブルームバーグも、リーマンショックが起きる前の2007年、アメリカでは高額所得者への富の集中が進み、年間所得が1,150万ドル(約10億8,900万円)を超える米国で最も裕福な1万5,000世帯(全世帯の0.01%)が、アメリカの全世帯所得(8兆7,000億ドル)の6.04%を占め、過去最高になったという記事を報じた。

光が明るければ明るいほど闇は深い。アメリカ商務省統計によると2009年の貧困率は14.3%、4,356万人のアメリカ人が貧困線以下で暮らしている。貧困線とは4人家族で年収税込み2万2,050ドル(約187万円)以下の世帯である。また医療保険に加入していないアメリカ人は全体の16%以上、5,000万人強にも及ぶ。
アメリカンジャーナル・オブ・ヘルスによれば、保険未加入ゆえに治療を受けられずに亡くなるアメリカ人は年間4万5千人にもなるというから、50兆円を戦争に使いながら、医療や福祉は自己責任というのが自由の国アメリカの現実なのだ。

そのアメリカで自由に振舞えるのは富裕層だけのようだ。いま超金持ちたちはオバマ大統領を売国奴と呼び、ヒトラーになぞらえるほど怒っている。今年始めの予算教書で、オバマが単身者で所得20万ドル超の所得税率を33%から36%へ、夫婦合算で所得25万ドル超の所得税率を35%から39.6%へとブッシュの減税前に戻すことを提案したからだ。

実際、オバマが政権をとった時からウォール街の怒りは始まった。税金の投入で救済されたウォール街で、ボーナスに上限をつけたり、ファンドマネジャーなどが利用できる税金の抜け穴を塞ぐことをオバマが提案した時だ。ブッシュが行った減税をクリントン政権時代の税率に戻すことに対して、アメリカの富裕層はメディアを使って猛烈に抵抗している。

多くの共和党議員、そして民主党議員も富裕層の味方だ。職や家を失う人の気持ちは理解できなくても、増税の痛みは自身も富裕層であるがゆえにわかるからだろう。だから増税を阻止すれば、次は失業手当や福祉が削減されることは間違いない。

日本でも99年に所得税の最高税率が引き下げられ、これによって大企業のトップ役員200人が受けた減税額は2009年だけで合計38億3,272万円、1人当たり約1,916万円だったと赤旗が報じた。小泉元首相は「構造改革は痛みを伴う」と言ったが、日本もアメリカと同じく痛みを感じるのは庶民、それを知りながら菅首相は所得税最高税率引き上げでなく、消費税増税を求めているのだろう。