No. 1096  FTAAP構想公表の中国

中国の習近平国家主席は11月9日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)において基調演説を行い、「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)プロセスを今年始動し、実現に向けた工程表を制定する」と述べた。

FTAATとは、21カ国が参加するAPECの地域において、関税や貿易を制限する措置を取り除くことで幅広い分野での連携強化を目指そうという構想である。日本、アメリカ、中国、ロシア、韓国など、経済規模で世界全体のGDPの約50%、世界の貿易量および人口の約40%を占める。

これをアジア版TPPと呼ぶ人がいるが、ロシアも中国も含まれないTPPと比べ、FTAAPは参加国もより広範囲にわたる。何より違うのはTPPはあらゆる交渉が秘密の中で行われているのに対し、FTAAPは交渉において公開性と透明性の原則を順守し、世界貿易機関(WTO)の規範やルールを最大限考慮するという点である。TPPに入っていない中国がこのような発表をすることは、明らかに世界秩序が新しい段階に入ったことの表れであろう。

それだけではない。APECに参加したロシアのプーチンも、中国はロシアにとって最大の貿易相手国であり、今後は中国と協力して自国通貨での決済を積極的に行っていくと演説した。両国間の貿易がロシアの通貨ルーブルと中国の人民元で決済されるようになれば、世界基軸通貨としてのアメリカのドルの力が弱まることは必至である。中国とロシアの言動はTPPでは中国を締め出し、またロシアへはEUと共に経済制裁をとるアメリカへの非難であり、挑戦であろう。

言動だけではなく行動も伴っている。APECに先立ち、ロシア国営天然ガス会社は中国に30年間ガスを輸出する覚書に調印した。去る5月にもロシアと中国は天然ガス供給で合意し、ロシアは2018年から30年間、毎年380億立方メートルの天然ガスを供給することになっている。今回は追加供給として西シベリアのパイプラインから年間300億立方メートルのガスを30年間にわたり供給するという。ロシアにとって中国はEUを上回る存在となることは間違いない。

世界経済の状況を考えれば、ロシアと中国が参加しないTPPのような貿易協定にあまり意味はない。しかも秘密交渉ゆえ全容は不明確だが、漏れ聞こえる情報によれば、TPPで交渉されている29項目のうち、関税など貿易に関するものは5つだけで、残りは法的ルールや環境など企業の権利を守るためのものだという。

安倍首相はTPPを基礎として、アジア太平洋地域での自由貿易圏の実現を目指すべきだという考えを示したというが、日本の最大の貿易相手国は中国である。成長する中国を敵に回し、政治も経済も衰退するアメリカに追従すれば日本はどうなるのか。

10月末に日銀が行ったQE(量的緩和策)拡大を、アメリカのあるアナリストはアベノミクスならぬ「バンザイノミクス」と呼んだ。死ぬことを知りながら特攻隊員が「バンザイ」と自爆したことに掛けての言葉だが、経済でも外交でもバンザイノミクスを突き進んでいるのかもしれない。