No. 1224 広がるポピュリズム

米国でトランプ氏が大統領になった頃から、「ポピュリズム」という言葉をよく目にするようになった。民主党ヒラリー氏の勝利をメディアや調査会社、日本政府も疑わなかったのに反し、一般国民はトランプ氏を大統領に選んだからである。

米国で一般国民の生活が苦しいのは、メキシコからの不法移民のせいだから国境に壁を造れとトランプ氏は主張した。既存の権力者に対する国民の不満をあおるトランプ氏に、良識ある米国民は顔をしかめたが、それでも一定の米国人はトランプ氏に喝采を送った。日本では、ポピュリズムはトランプ氏の例にふさわしい「大衆迎合主義」などと訳される。ではポピュリズムと、米国はじめ多くの西欧諸国が標榜している「民主主義」とはどう違うのだろうか。

欧米の民主主義は、実際は「金権主義」である。特に米国は大統領選挙期間が2年にもおよび、お金のない者は選挙に出ることもできない。選挙運動では基本的に使ってよいお金に上限がない。このような選挙で、誰が候補者に資金を提供しているかといえば富裕層と大企業である。

富裕層は減税はじめ自分たちを利する政策を求め、軍需産業は戦争を求める。石油業界は石油産出国をコントロールしたい。米国の歴代の政権は共和党も民主党も、こうしたスポンサーの希望をかなえる政策をとり続けてきた。

民主主義ではなく金権主義だからこそ、米国にとって脅威ではない北朝鮮を威嚇するために朝鮮半島に在韓米軍基地を置くという政策をこれまでの米国政権はとってきた。ポピュリズムとは、既得権益を持つ特権階級によるその金権主義への抵抗運動だと言える。そしてポピュリズムが今、世界で広まっている。

イギリスのEU離脱、フランスでもEU離脱と移民排斥を主張した極右政党のル・ペン氏の躍進、オーストリアでは極右政党の発足、そして最近ではイタリアで反既存勢力の政党である「五つ星」と「同盟」が連立協定に合意した。この2政党の政策には貧困層への歳出拡大と減税が盛り込まれ、EUの方向性と真っ向から対立している。

これらの動きは、過去数十年間にわたりとられてきた富裕層をさらに富ませる新自由主義の経済政策によって、一般国民の経済状況が悪化してきたからにほかならない。

ポピュリズムとは既存の政治に対する失望から生まれ、支配者層に搾取されていると感じる一般国民の不満によって拡大する。つまり民主主義が機能していないからこそ台頭するのだ。

トランプ氏に投票した有権者を批判しても、それはその有権者に応えていなかったそれまでの政治こそが問題であり、それを改革しない限りポピュリズムの広がりが収まることはないだろう。日本も欧米並みに移民・難民問題や高い失業率、経済格差が広がれば、現在の政権与党による金権主義からの脱却を求めてポピュリズムの風が吹くことになるのは必至であると思う。