翻訳記事のため、非公開とさせていただきます。
月別アーカイブ: 1996年11月
No.85 帝国主義の経済的寄生者
翻訳記事のため、非公開とさせていただきます。
No.84 石原慎太郎氏ご講演
去る9月19日ホテルオークラにおきまして、石原慎太郎氏をスピーカーにお招きし、弊社主催の ” エグゼクティブ・セミナー “を開催いたしました。お陰様をもちまして700名を超す方々のご出席を賜り、大変ご好評を頂きました。これも石原氏の視点がいかに多くの日本国民に支持されているかの現れではないでしょうか。以下に、このセミナーでの石原氏の講演内容をまとめました。
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石原裕次郎の兄でございます(笑)。本日は日頃考えていることをお話して、最後は皆さんと一緒にこの国のこれからについて考えて行きたいと思っております。
つい最近、司馬遼太郎さんが亡くなりました。日本をこよなく愛し、日本の近代化を成し終えた私達の祖父の世代に強い愛着を持ち、書き物もたくさん残した作家です。彼が二年ほど前に元京都大学の梅棹忠夫教授と対談した時に出た話に、この日本という国は峠を越えてしまったのではないか、という会話があったのが気になりました。さらに、日本にこれからあるのは静かな静かな停滞だけのような気がする、と。
これはどちらも聞き捨てならない言葉でありまして、司馬さんは皆さんに愛された作家かも知れませんが、そんなことを言い捨ててぽっくり死なれても困ってしまう。私達はこれから生きて行かなければならないわけで、日本が峠を越えてしまいそうなら、私達はそれを食い止めなければいけないし、静かな停滞なんていうと言葉はきれいかも知れないが、水の流れに例えてみれば、川が淀んでしまって水が腐って、つまり退廃が始まり混乱が始まるわけで、静かな停滞なんていうのはろくなものではない。私達はこの日本をそうしないためにも何と何を持ち、何が足りないか、そういう大事なことを本気で考えないといけない時期が来たなという気がします。
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レーニンが、近代ヨーロッパの繁栄は所詮植民地における豊富な資源の略奪と安価な労働力を奴隷のように駆使したということの上にしか成り立たなかったということを書いていますが、私もそのとおりだと思います。これは過去200~300年、世界の歴史の公理でした。植民地主義が善いか悪いかは別にして、過去200~300年の世界の歴史の公理は食うか食われるか、植民地にするかされるかという大きな一つのテーマのもとにそれを巡っての相克があり、ほとんどの国、ほとんどの地域が植民地にされた。このアジアで白人の植民地支配を受けなかった国は日本とタイだけです。
私はこの春、東南アジアの国々を歴訪しましたが、その時非常に強い印象を受けたのは、タイ国の人だけが外国人に対する姿勢がちょっと違うということでした。しかし、それが私には歴然とした違いに感じられました。つまり、卑屈なところがほとんどない。日本人に対しても白人に対してもそうです。これは大変なことで、植民地支配を受けた多くの人たちは解放されてから多くの時間が経っているわけではありませんので、その後、精神なり、感性の一番深いところに培われてしまった劣等感というか意識の歪みというのはなかなか時間が経たないと克服されない。そう考えてみますと、日本人も太平洋戦争に負けるまでは植民地を持ったりしてえらそうな顔をしていたが、民族としての処女体験として原爆2発で酷い目にあって降伏をしました。たった2発の爆弾で非戦闘員30数万の死、いまだに後遺症で犠牲者が出ているという史実は世界にありません。そのせいかどうか日本人は意識の非常に深いところ、潜在意識よりももっと深いところで、精神構造というか感性が改竄されてしまい、それをなかなか克服できない。私達は自分でそういう意識を持っていませんが、実はいろいろなところにそれが現れて来ています。
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在日のアメリカ軍隊に思いやり予算とかいって日本がお金を出して、日本の自衛隊よりはるかに立派なものにしています。先般の湾岸戦争で明らかになったことですが、この日本にアメリカが構えている軍事基地というのは戦略基地であって、戦術基地ではないのです。日米安保をみんな勘違いしていますが、日米安保というのは核を含めた抑止力の中で日本に対するアメリカへの外国からの害というものを牽制する力は持っていても、例えば隣の国がまかり間違って日本にミサイルを打ち込んできたときに、それを防御する手だては、在日米軍にはありませんし、日本にもありません。かつて冷戦構造が緊張したときに、日本が侵犯されるなら北海道が最初であったでしょうが、北海道に米軍は一人もいなかった。つまり日米安保というのは日本が基地を提供して、アメリカの世界戦略を遂行させる、アメリカが日本に構えている基地はハワイから西、ケープタウンまでをカバーするための用途に考えられているのであって、それ以外の何物でもないので。
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日本の近代化というのは非常に珍しい形で成功したと思います。英国の歴史家トインビーは、日本人が行った近代化の歴史は人類の歴史の奇跡だと言いましたが、その必然性、蓋然性は日本の歴史を知っていれば、戦国時代、東山文化、足利時代からあるのです。そういうことを私達はもう一度知り直した方がいい。
数年前にスーザン・ハンレーというプリンストン大学の社会学者の書いた本で『江戸時代の遺産』という本を読みました。いわく、長く暗い中世の時代に多くの人は不幸な生活を強いられていたが、例外もあった。もっとも充実した文明度の高い生活を送っていたのは、あの中世の時代に江戸の市民であった。必ずしも江戸だけではなくて、日本の大都市では非常に進んだ文明を持っていた、と。
ヨーロッパの近代主義が誕生する前ですから、とにかく近隣の外国から自らを遮断して鎖国することで、日本人の多民族のルーツがこの社会の中で混交、混血して優秀な人材を産み出していくという点で、私は鎖国をしたのは間違いだったとは必ずしも思わない。今でも文盲率が7%ある先進国がある中で、中世の日本では一般の町民が寺小屋で読み書きを習い、彼らが書いた手紙が江戸から大阪、長崎まで飛脚に乗って届いたというものが今もたくさん残っています。当時の日本にはいろいろな発見発明があったのです。
抽象経済、つまり手形や相場というものを最初に始めたのはイギリス人だと信じられていますが、とんでもない、それより100年も前に日本人は相場をやっていました。あるいは微分積分を世界で最初に発見したのはライプニッツとされていますが、彼より45年も早く江戸の数学者、関孝和が微分積分を考えたと記録に残っています。これは漢数字ですが、算用数字に直してみると完璧な微分積分です。戦争術を初めてやったのは織田信長です。私達はそれをことさら誇って肩をそびやかす必要はないけれど、アメリカの学者に教えてもらうまでもなく、ある時代には私達が西洋より遥かに優れたものを持っていたのです。
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電子マネーが入ってきて世界の金融が変わってきました。マレーシアでもどこでも新規の工場を作って製品を作ろうと思ったら、あっという間に会社を成立させて、高い能力がなくてもアルファベットさえ読めれば、日本の指導者が出かけて行って教えて一週間経てば、先進国が開発した同じ製品を電子工学の技術を使って作れるわけです。日本が100年かかったところを彼らは10年でやってしまう。そういう時代になっているのに、日本では政治家が世界経済の機構が分からないから相変わらず無駄なことばかりして、どんどん国民の努力の成果が目減りして薄められて今日の体たらくになってしまいました。
それでは、日本の活路はどこにあるのかということを考えなくてはならないのですが、私はやはり技術だと思います。技術というものは新しく開発すれば新しい製品ができてくる。技術というものを日本人は決して真似だけではなくて独得の感性で開発してきたし、これからもその可能性を持っています。
私は政治を25年やってきましたが、政治家の話を聞いて感動したことは一度もなかった。が、一人だけ面白いなと思った人が源田実さんであります。冷戦構造が高まったとき、下手をすると日本はアメリカに見捨てられて共産化しない恐れがないでもないと思っていたのですが、源田さんは「君は随分悲観的なんだね。ぼくは必ずしもそうは思わない」。というので聞いてみると「君、やっぱり技術だよ。技術の5年の格差というのは大変なものなんだ。日本は技術に関していいポテンシャリティを持っている。これを維持し、さらに増幅していく努力をしたらいいんだよ」。
「日本が戦争に破れたとき、世界で一番優秀な戦闘機は紫電改だった。これだったら成層圏でB29も落とせたんだ。そんな優秀な戦闘機を日本は開発しながら燃料がなかったために飛ばせなかった。それから5年経った朝鮮戦争で活躍したファントムに紫電改が何機で太刀打ちできるか、計量計算してみた。紫電改を何千機飛ばしても、いまみれば原始的な戦闘機かも知れないジェット戦闘機ファントムにはかなわない。5年の技術格差というのは大変なものなんだ。だからたくさん人が使うだろうという技術を日本が先に開発して、5年のリードタイムを持っていれば10年や20年キープでき、そういう技術を10~20持っていれば日本はまだ大丈夫だよ」。
「魂を吸い込まれそうな日本刀の美しさが誰に作れるんだ。所詮は戦いのために人を切る人切り包丁だ。それを芸術に高められる民族が他にどこにあるんだ。あるいは白鷺城。あれは戦いのための城かも知れないが、しかし、あんなに美しい城というのが戦いの道具としてあるか。僕は技術に対する日本人の感性を信じるよ」と源田さんは言われました。私は勇気を得ました。
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アメリカと日本の貿易関係云々と言われますが、ブッシュが日米貿易の不均衡の原因は8割はアメリカにあって2割が日本の責任だから、その分だけどうにかしてくれというところまで正確な認識を持つようになった。それに替わったクリントンは、日本の製品が優秀で安過ぎるからダンピングだとして100%の関税をかけた。液晶やセラミックにかけたものだから、誰が一番困ったかというと日本の業者でもメーカーでもない、アメリカの航空機産業とコンピュータ業界が困ってしまった。なんて馬鹿なことをするんだということになってあわてて変えたのです。
唐津先生も言われていますが、日本はもう消費財なんかほとんど輸出していません。完成品ではなしに大事な大事な部品を売っている。例えばコンピュータなんかの半導体です。インテル社が、日本が得意としたメモリーの素晴らしい製品を3~4年前に作って、私達はこれはやられたとショックを受けたのです。これに追い付き追い越すには数年かかるぞ、と。ところが半年経ったら、インテル社の社長が青ざめて飛んできた。なぜなら住友化学の工場が事故で止まって、あそこで作っているエポキシがなかったらインテル社の半導体は半導体として売れないのです。
日本車キラーのネオンやトーラスを作っている工作機械というのは、日産でもトヨタでもない日本のある会社が作っている。非常に精密なその工作機械を彼らは買って、そのハンドリングを一年も一年半も人を送ってきて勉強して、日本車を駆逐しかねない優秀な小型車を作っている。
そういう相互関係がいっぱいあるんです。私はこれはいいことだと思います。
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しかし、我々がそういう力、そういう可能性を持っているということを知って、それを政治的にどう使うかということは政治家の責任です。その力をもっと助長するために、例えば金融制度を変えなければなりません。それには日本のバンキングシステムを変えなければだめです。相変わらずの担保制度で、どんな優秀な企業でも素晴らしい技術を持っていたって不動産とかが担保におかれなかったら金を出さない。それでうっかり金を貸したりしたら支店長が背任になるかも知れません。日本には担保主義の妙な制度がある。そうではなくて、この会社のこの技術ならという形で、一つの銀行では危険ならいくつかの銀行が共同して優先的に出資するような、そういう金融制度を作って欲しい。大田区や品川区にたくさんある優秀な、ソニーや東芝もかなわないような優秀な技術を開発している企業でも、これを使って新製品を作ろうと思っても新しい設備投資ができない。そういう矛盾というものを金融界が持っていて苦しめているのです。
それやこれやしなくてはいけない措置はたくさんありますが、少なくとも私達には、技術に対する独得の感性でまだまだ可能性はあるし、これをうまく育てて維持していくように政治がしっかりすれば、あるいは皆さんが政治をしっかりさせられれば、静かな停滞なんかに甘んずることなしに、まだまだいろんなものがこの国の可能性として残っていると思います。
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さらに、今日一つだけ覚えて帰って頂きたいことがあります。明治の先覚者の福沢諭吉が『痩せ我慢の説』という本の中で書いている、非常に雄渾な端的ないい言葉です。「立国は公にあらず、私なり」。国のことを考える、この国を何とかしようということは、単なる公事ではない純粋な私事だ。さらにもう1行「独立の心なき者、国を思うこと深切ならず」。私がやるんだという自覚のない人間が国を論じたって薄っぺらで駄目だということです。
この言葉を自分のものとして、実践に移していきましょう。
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石原慎太郎氏プロフィール
一橋大学在学中に『太陽の季節』により芥川賞を受賞、作家活動に入る。
昭和43年、参議院に立候補し、第一位当選。
昭和47年には、衆議院に出馬し、その後、連続8回の当選。環境庁長官、運輸大
臣等を歴任。昨年4月には、永年勤続25年を区切りとし、衆議院議員を辞任。
著書に『化石の森』『生還』『三島由紀夫の日蝕』他多数
近著に『弟』(幻冬舎)
日本外洋帆走協会名誉会長
芥川賞・すばる文学賞・三島由紀夫賞選考委員”
No.83 日本はなぜ借金大国になったか(後編)
今回は、先週に引き続きマイケル・ハドソン博士の執筆による論文(後編)をお送りします。先月行われた衆議院選挙では、多くの候補者が行政改革を公約に掲げていましたが、「改革」を行うためにも、現状を正しく把握する必要があると思います。なぜ、日本がここまで借金を増大させるに至ったのか。経済学者であるハドソン氏は、米国が仕向けた政策を日本政府が支持したためだと指摘しています。OW読者の方々はこの論文をお読みに